ゆるゆる読む京極杞陽 #01
俳句を始めたころ、歳時記の例句のなかでもとりわけ京極杞陽の句が好きだった。
俳句はこんなふうに軽くてもいいのかと思った。
今でもその気持ちは変わっていないが、最近になって気になり始めたことがある。「俳句人生のトータルとしてはどんな作品を残してきたのだろうか」ということだ。作品以外に発揮された振る舞いがどんなものだったかも知りたい。
まずは第一句集『くくたち(上・下)』を読んでみることにした。
収録句数は1000句以上らしい。急がずゆるゆる読み通していければと思います。今年の目標です。
編年体で構成された句集の冒頭3句を引いた。チロールはアルプス山脈東部の地名。スキーに興じる感情の高ぶりを捉えながら、静けさも感じられる書きぶりだ。「うたふ」「こころしづか」のひらがながやわらかい。
杞陽はベルリンの日本人会の句会で虚子に出会ったという。その句会で虚子の選に入った一句らしい。正直に言うと、どう読んだらいいかまだよくわかっていない。
なんども読み返すうちにいい句に思えてきた。見えているものを並べただけの記述だけれど、並べ方に工夫があると思う。特に、石に魅力がある。
言葉は線的なものだから、見えているものを見えているまま面的に書くことは難しい。この句は視界全体を書くことをなんとかして実現させようとするために、無花果とコスモスのあとに「石と」と続けたのではないかと思った。
「石と」が入れば中八になる。リズムの崩れが「補った」感を出していて、そこがまたいい。
※『くくたち(上・下)』は東京四季出版編『現代一〇〇名句集④』で読んでいます。引用は新字体です。