ゆるゆる読む京極杞陽 #11 昭和20年
昭和20年(1945年)の収録句数は107句。戦時下の日常を描いた句をはじめに挙げる。
空襲を避けるための暗幕だろう。身を守るために息を潜めていなければならないような暗い状況にありながら、それでも生活を続けていく人間の姿が見えた。
東京大空襲は昭和20年3月10日。同年5月25日にも大規模な空襲があった。掲句はその間の時期に置かれている。
兵庫県豊岡の家を詠んだ句だ。豊岡には家族がいる。離れがたい気持ちがくちなしの香りとともに俳句に定着している。
意味深な前書も印象深い。句集の流れに沿って読めば、入隊直前に詠まれた句のようだ(体調不良のためか即日除隊している)。
〈ふと〉の背景にある、それまで張り詰めていた緊張の強さが感じられる。
当時、アイスクリームは「敵性語」だったのだろう。厳しい残暑にアイスが食べたいという率直な思いが世の中が激変していく最中にぽろりとこぼれ落ちてきたような句だ。
朝霧のあとは晴れるものらしい。わくわくしている様子がなんだか微笑ましい。
杞陽は終戦を契機に東京から兵庫県豊岡へ居を移した。掲句は東京では生まれなかった句だ。
前書のない句からひとつ挙げた。
じっとしていてなかなか動かなかったのだろう。過剰な表現が面白い。
作中主体が想定する〈蠅の心〉とはどんなものだろう。〈蠅とんでくるや箪笥の角よけて 京極杞陽〉は第二句集『但馬住』に収録されている。
昭和20年の句で第一句集『くくたち』はおしまいとなる。上巻は昭和21年(1946年)5月、下巻は昭和22年(1947年)4月に刊行された。
『くくたち(上・下)』は東京四季出版編『現代一〇〇名句集④』で読んでいます。引用は新字体です。