ゆるゆる読む京極杞陽 #06 昭和16年
昭和16年(1941年)の収録句数は46句。
描かれている人間が魅力的だ。
1句目、秋の夜長に人から「構想」を聞いている。成し遂げる前の段階を描くことで滑稽味を出しながらも、その人への敬意や愛着も同居するとてもキュートな句だ。
2句目、場面としては女性が離席しただけなのだが、「たばこを消して」に自らのタイミングで立った感じを受け取った。
「季節めぐりて」に驚いた。「や」「けり」の併用もある。型破りな句の作り方だ。
内容にも魅力を感じた。籐椅子が絶妙で、過去にその椅子に座っていた人との思い出をしみじみ振り返る様子が思い浮かぶ。
咳をしているときの視界なんていままで考えたことがなかった。自分というものを咳と目の2つに分解するような把握のあり方が面白い。
掲句は『くくたち』上巻の末尾に置かれている。そう思って読むと重みを感じる。
上巻のあとがきから句集の成立に関わる記述を引く。
もしも精選が厳しくなされていたら、ここで取り上げているような句に出会うことができなかった可能性もある。後世の読者として、緩めでありがとうと思う。
『くくたち(上・下)』は東京四季出版編『現代一〇〇名句集④』で読んでいます。引用は新字体です。