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B'zと教会旋法 #002 「イルミネーション」2024年
あ、あー、ジュネーブ詩編歌、ジュネーヴ、詩篇歌。
……露骨な表記揺れ対策からスタートしましたが、それとは関係なしに、さっそくB'z紅白便乗企画を進めていきましょう。
今回は、紅白でのシェーンの熱演や朝ドラ『おむすび』でもおなじみ、「イルミネーション」です。
はじめに ―分析の流れ―
このシリーズでは、B'zの楽曲の歌メロを、以下の手順に従って旋法的に分析していきます。
とりあえず長調か短調と仮定して、Aメロをソルフェージュ(階名唱)してみる。
以下の条件に合うように移高する。
階名で言う「シ」に、♭が付いたり付かなかったりする。
導音(仮定した調での終止音のひとつ下)に、♯が付いたり付かなかったりする。
Bメロ、サビなどで同様の作業を繰り返す。
あくまで歌メロのみを分析する。リフ、ギターソロ等は考慮しない。基本的には、サビの終止音を楽曲の終止音とし、終止音で楽曲を以下の教会旋法に分類する。
とは言え、楽曲全体がひとつの旋法とは言えないパターンなど、例外があるため、その場合は「まとめ」で指摘する。
終止音 →旋法
レ → ドリアン (ドリア旋法)
ミ → フリジアン (フリギア旋法)
ファ → リディアン (リディア旋法)
ソ → ミクソリディアン (ミクソリディア旋法)
ラ → エオリアン (≒短調、エオリア旋法)
ド → イオニアン (≒長調、イオニア旋法)
(「ドリアン」の語感がおもしろいので、英語風の呼び方を使うことにします。)
2回目にして「#002」と、記事タイトルを3ケタ表記にしていますが、これは私にそれだけやる気があるからではなく、B'zの楽曲数が軽く3ケタある、というだけのことです。
……考えてみると、とんでもない曲数ですね。ちょっと引くわ……。
気を取り直して、「イルミネーション」の歌メロを分析してみましょう。
歌メロ分析
Aメロ
ざっくり聞いた感じ長調っぽいので、パーフェクトクロ……ではなく長調と仮定して、Aメロをソルフェージュしていきます。
ミーミミードレーミーソードー
ラードドーレミーレドーレミーソー
ミーミミードレーミーソーソー ファ#ー
ファ♮ーソーラソーミレドレー
(長調と仮定)
あいかわらずなアホさですが、それはさておき、半音で揺れ動いている音はファとなります。
ですので、この音がシになるように、移高してみましょう。
ラーララーファソーラードーファー
レーファファーソラーソファーソラードー
ラーララーファソーラードードー シー
シ♭ードーレドーラソファソー
(リディアンと仮定)
毎度恒例(になる予定)の豆知識ですが、♯、♮、♭は、もともとシを表すb(小文字のB)が変化したものです。
b
なので、シが揺れ動くのは、中世以来の正しい伝統とこじつけられるでしょう。
詳しくは、金澤正剛先生の本をどれか読んでみてください。
あと、Aメロ1番を聞いていて、歌詞の「し」と「す」の子音化がはなはだしいな、と感じました。
B'zではよくあることなんですが、これだけでどこか英語っぽい響きになるので、改めて考えるとすごいですね。
Bメロ
パッと聞き歌メロはあまり転調(もしくは転旋)してなさそうなので、Aメロと同じリディアンでソルフェージュしてみます。
ドーシ♭ラーソファー ドーシ♭ラーソファーソ
ラードレファーファレーラドードレーラーソー (ミーミード#ー)
(リディアンと仮定)
……おやおや? コーラス部分とはいえ、ド#が出てきてしまいましたねえ。
とは言え、前回の「さまよえる蒼い弾丸」の()内とは異なり、直前の「ハイビーム」の単なる繰り返しで、ハモリにもなっているようなので、正規のメロディではないということにして、無視しましょう。
代わりに「ういビーム」でも撃っていてください。
今後も多少の曖昧さは出てくると思いますが、もともと割とファジーな分析・解釈にする予定でしたので、ご容赦ください。
サビ
続けて、サビもリディアンと仮定してソルフェージュします。
そう言えば、リディア旋法のイメージソングとして、フォーレが「リディア」という曲を書いていたそうですね。
今の時代に生まれていたら、ボカロPとして活躍していそうです。
ラードドーラレードラソーソファーレファーソ
ソラードドーラドーレミーレー
ラードドーラレードラソーソファーレファーソ
ソラードドーラドーレミーレー
ファーレ ミード レーシ♭ーレードー
ドレーファーレードーソーラー
[サビ3番末尾]
~~~
レーファーミーファーソーファー
(リディアンと仮定)
サビではドからシ♭まで、全音階が7音まんべんなく使われていて、Aメロではシ♮も出てきて、終止音はファですので、「イルミネーション」はリディアンと判定できます。
いやまあ、これを「ごく稀にファ♯が出てくるイオニアン(≒長調)」と解釈することも可能です。
確か『ジュネーブ詩編歌』では、リディアンは無く、全部イオニアン扱いにしていましたし。
例えば、賛美歌のOLD 124TH(『ジュネーブ詩編歌』の詩編124編の曲)も、「イルミネーション」のように1音だけファ♯(シ♮)が出てきますが、イオニアン≒長調扱いで、長調だからセーフということで、『讃美歌』('54年版)などにも収録されています。
これが教会旋法だったら危なかった……教派にもよりますが、プロテスタント教会の賛美歌では、教会旋法はあまり使いませんからね。教会だけど。
OLD 124THの参考動画はこちらです。一瞬ファ♯(シ♮)が出てきます。
いずれにせよ、この『B'zと教会旋法』シリーズでは、このタイプはあえてリディアンと解釈しようと思います。
その方がおもしろそうですし。
例によって、ギターソロやリフ、ハモリはガン無視します。
「イルミネーション」だけど。
まとめ
B'z「イルミネーション」2024年。
旋法は、歌メロ全体でリディアンとなります。
転旋はありません。
あとがき
テンプレもできたし、鉄は熱いうちに打て、また紅白便乗企画ということで、第2回は1日で書き上げてみました。
合間合間に、旋法などの豆知識を挟み込みながら書いています。今後もこんな感じで、徒然なるままに記していこうかと思います。
……とは言え、連休を言い訳に、仕事やらなんやらを脇に置いて書きましたので、次回まではしばらく間が空くと思います。ええ、そりゃもう空くと思いますよ。
気長にお待ちください。
参考文献
旋法についての理論は、おおむね以下の参考文献に負っています。
金澤 正剛『新版 古楽のすすめ』音楽之友社、2010年
金澤 正剛『中世音楽の精神史 グレゴリオ聖歌からルネサンス音楽へ』河出文庫、2015年
New! 佐藤 良明『J-POP進化論 「ヨサホイ節」から「Automatic」へ』平凡社新書、1999年
(増補改訂版も持っています! (読んだとは言ってない。))東川 清一『旋法論 楽理の探究』春秋社、2010年
西田 紘子、安川 智子 編『ハーモニー探究の歴史 思想としての和声理論』音楽之友社、2019年
皆川 達夫『中世・ルネサンスの音楽』講談社学術文庫、2009年
Owens, Michael E., "An introduction to the Genevan Psalter," published on the Internet, 2009.
https://genevanpsalter.com/articles/owens-intro/
放送大学の英語でもおなじみ、佐藤良明先生の本のことを忘れていたので、書き加えました。……えっ、今は授業はされてないの?
佐藤先生は、おそらく私をぶっ飛ばしてはこないと思い……いや、案外危険性は高いかもしれません。
私の「旋法的に分析」というコンセプト、佐藤先生の『J-POP進化論』の影響が最も強いように思います。
……その割には書き忘れてましたけど。
何か気の利いた別れの挨拶はないかなと考えつつ。
ではまた。