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B'zと教会旋法 #1 「さまよえる蒼い弾丸」1998年
はじめに
このシリーズでは、B'zの楽曲の歌メロを、以下の手順に従って旋法的に分析していきます。
とりあえず長調か短調と仮定して、Aメロをソルフェージュ(階名唱)してみる。
以下の条件に合うように移高する。
階名で言う「シ」に、♭が付いたり付かなかったりする。
導音(仮定した調での終止音のひとつ下)に、♯が付いたり付かなかったりする。
Bメロ、サビなどで同様の作業を繰り返す。
あくまで歌メロのみを分析する。リフ、ギターソロ等は考慮しない。基本的には、サビの終止音を楽曲の終止音とし、終止音で楽曲を以下の教会旋法に分類する。
とは言え、楽曲全体がひとつの旋法とは言えないパターンなど、例外があるため、その場合は「まとめ」で指摘する。
終止音 →旋法
レ → ドリアン (ドリア旋法)
ミ → フリジアン (フリギア旋法)
ファ → リディアン (リディア旋法)
ソ → ミクソリディアン (ミクソリディア旋法)
ラ → エオリアン (≒短調、エオリア旋法)
ド → イオニアン (≒長調、イオニア旋法)
(「ドリアン」の語感がおもしろいので、英語風の呼び方を使うことにします。)
今回は私にとって生まれて初めてのnote記事で、とりあえず今後のテンプレを作りたいので、「どうしてこんなことするの?」といった疑問はしばらく放置します。
それでは、実際に「さまよえる蒼い弾丸」の歌メロを分析してみましょう。
初回で取り上げるにふさわしい、旋法的な楽曲です。
歌メロ分析
Aメロ
イントロの時点で、かなり不可思議なシタールのフレーズですが、コードをⅣ→Ⅴ→Ⅵと考え、続くAメロを短調と仮定して、ソルフェージュしてみましょう。
レド♯ラソーミソラド♯レソラ
ド♮ド♮ド♮ド♮シシラララシラーソー
(短調と仮定)
表記法のせいで何かアホっぽいですが、ド♯とド♮の両方が使われています。
この半音で揺れ動いている音がシになるように、移高してみましょう。
ドシソファーレファソシドファソ
シ♭シ♭シ♭シ♭ララソソソラソーファー
(コードに対してミクソリディアンと仮定)
やっぱりアホっぽいですが、シに♭が付いたり付かなかったりする方が、気持ちが落ち着きます。
♯、♮、♭は、もともとシを表すb(小文字のB)が変化したものですからね。
b
Aメロ後半は以下の通りです。
シ♭シ♭シ♭シ♭ーラソソシ♭シ♭ドシ♭
シ♭シ♭シ♭シ♭ララソソソラソーファー
(コードに対してミクソリディアンと仮定)
後半では、シ♮は出てきません。
Bメロ
B'zの楽曲は転調も多いので油断はできませんが、「さまよえる蒼い弾丸」は、パッと聞き歌メロはあまり転調(もしくは転旋)してなさそうです。
なので、Aメロと同じ旋法でソルフェージュしてみます。
シ♭シ♭シ♭シ♭ララソーシ♭シ♭シ♭シ♭ドドド
レファソラシ♭ラソー (レファソラシ♭ファソー)
シ♭シ♭シ♭シ♭ララソソーシ♭シ♭シ♭シ♭ドード
ララシ♭ラソソーファファー
(ブレイクのギターリフは無視)
(コードに対してミクソリディアンと仮定)
Bメロでも、シ♮は出てきません。
サビ
そろそろこのアホっぽい表記法にも慣れていただいたと思いますが、この調子でサビも行ってみましょう。
レドードードソーレドー
ドドドドシ♮ファソー ドドドドレファソー
レドードードソーレドー
ドドドドシファソー ドドドドシレー
(コードに対してミクソリディアンと仮定)
Bメロとは対照的に、こちらではシ♭が出てきません。
また、終止音(最後の音)が「レ」となっています。
これまで「コードに対してミクソリディアン」としてきましたが、その場合はメロディの最後は「ソ」となるはずです。
とは言え、終止音とコードのルートがズレるのは、カルヴァン派教会の『ジュネーブ詩編歌』(のグディメル編曲)でもよくあることなので、ここでは気にせず、メロディの終止音で判定することにします。
歌メロは「シに♭が付いたり付かなかったりする」の範囲内に収まり、終止音がレということなので、「さまよえる蒼い弾丸」はドリアンと判定できます。
何やら転調しながら繰り出されるギターソロはガン無視します。
まとめ
B'z「さまよえる蒼い弾丸」1998年。
旋法は、歌メロ全体でドリアンとなります。
(コードはミクソリディアンっぽいです。)
転旋はありません。
あとがき
本来ならば、B'zの紅白出場に便乗して出すべき記事でしたが、生まれて初めての記事を書くには白和えのようなメンタル状態だったため、こんなタイミングになってしまいました。
また、話題に乗るなら紅白で披露された3曲で書くべきでしょうが、一瞬だけリディアンの「イルミネーション」はともかく、リフだけドリアンの「LOVE PHANTOM」や、普通にメロディックマイナーの「ultra soul」は、『B'zと教会旋法』の枠に入らなかったので。
……「リフだけドリアン」、ちょっとおもしろいフレーズですね。
参考文献
旋法についての理論は、おおむね以下の参考文献に負っています。
金澤正剛『新版 古楽のすすめ』音楽之友社、2010年。
金澤正剛『中世音楽の精神史 グレゴリオ聖歌からルネサンス音楽へ』河出文庫、2015年。
東川清一『旋法論 楽理の探究』春秋社、2010年。
西田紘子、安川智子 編『ハーモニー探究の歴史 思想としての和声理論』音楽之友社、2019年。
皆川達夫『中世・ルネサンスの音楽』講談社学術文庫、2009年。
Owens, Michael E., "An introduction to the Genevan Psalter," published on the Internet, 2009.
https://genevanpsalter.com/articles/owens-intro/
ただまあ、ちょっと独自研究すぎて、文献を書かれたそれぞれの先生方からぶっ飛ばされそうな内容ではありますが……
しょうがないよね、音楽はただのアマチュアだもんね。
("専門"分野でも、アマチュアに毛が生えた程度の実力ですが……。)
なぜこんな奇行に走っているのかについては、B'zの他の楽曲を分析しながら、追い追いお話ししていければと思います。
とりあえず今は、ちょっとでも紅白に便乗していきたいので、慌てて書き上げました。
(もうすぐ成人の日ですけど。)
ではまた。