見出し画像

白サシ給餌感想③タイコウチ



・はじめに

自宅で養殖をした白サシ(ウジ)を飼育生体に与えた際の感想や給餌法の解説を行うシリーズ。
今回の記事ではタイコウチについて記す。



・成虫への給餌

ウジを捕食するタイコウチ成虫


成虫にウジ(白サシ)を与える場合は、水面にそのまま投入するかピンセットでタイコウチの前にウジを近付けて捕食させる。

生時のウジは基本的に常に水面近くを浮いて漂っており、タイコウチが水底に体を沿わせているような水深の浅い飼育環境であれば水面への投入時にウジの存在に気付きやすく、能動的な捕食が観察できる。

水深が深くタイコウチの体が水面に対して垂直(縦)になっている場合は水面の獲物に気付きにくいため、目の前にウジを近づける手法が基本となる。
餌をタイコウチの片前脚に挟み込ませる形でゆっくりと手渡せば、反射的に握りしめる事が多い。
その際に獲物が逃げようと蠢く感触をタイコウチが感じる事で捕食のスイッチが入り、両前脚を用いた本格的なホールドへと移行する。

ウジを捕食するタイコウチ幼虫



・幼虫への給餌


ウジの体長と同等またはそれ以下のタイコウチ幼虫に給餌する場合は、ウジが暴れる事でその捕食に失敗する事が多い。
ウジ生体の捕食に難儀するサイズの幼虫には生きたまま与えないようなイメージで給餌すると成功しやすい。

その場合は予めウジの頭部先端、身体中央等の複数箇所をピンセットで潰してから与える事で暴れる事を防げる。
特に頭部先端は必ず潰さなければウジに致命傷を負わせる事ができず、各部位を潰す際は内部組織が潰れる音がジクジクと鳴るまで圧迫しなければ完全に動きを止める事はできない。

ウジを捕食するヒメタイコウチ1齢幼虫


そうした処理を施した後、ピンセットを用いて幼虫の目の前にウジを差し出して捕食させる。
成虫と同様に反射的に前脚で握らせる様に与えると良い。

ある程度空腹の幼虫ならばすぐに捕食を行うが、容器に伝わる振動で警戒心を強めて捕食に到らない場合もあるため、容器に触れる際は慎重さが必要となる。
捕食に到らなかった場合は数分ほど時間を置いてから再挑戦する事になるが、時間がない時はその日の給餌は諦めて、翌日に他個体の食べ残しを回収する際のついでに再挑戦する事も多い。
その際は空腹が進んでいる事もあって捕食を行う確率が格段に上がっている。


この手法でタイコウチやヒメタイコウチの初齢幼虫にも終齢のウジを与えて加齢させる事ができているが、ウジの体長に満たないサイズの幼虫は掴んだウジを動かす事ができないため、給餌の際は必ず幼虫が呼吸をしたまま摂食を継続できる水深の箇所にウジを置かなければならない。

息の根が止まったウジは沈んでしまう。
幼虫は息が続かなければその時点で捕食を止めてしまい、それ以降は能動的に再捕食を行う可能性も低い。
必ず足場付近での給餌を行い、場合によっては捕食させた後にウジを水上に置くようなイメージでもいいかもしれない。

若齢幼虫へウジを与えた場合は腹部が著しく膨張する。
満腹まで摂食を行った後は再び萎むまでしばらく給餌を行わない。
給餌後数日で脱皮を行う事も多いため、その際は脱皮完了後1〜2日ほど経過してから給餌を再開する。

また、幼虫はウジの大半を食べ残すため、水質の悪化を防ぐために給餌後2日以内でそれを回収するように心掛ける。


・外皮を大きく破らないように注意


イモリやヒキガエルにウジを与える際は、固い外皮を損傷させる事で消化率を上げていたが、タイコウチは獲物に消化液を流し込んで体液を吸うという捕食方式を取るので、ウジの外皮を大きく損傷しないように注意する。損傷面積が多ければ多いほど体液及び消化液の漏出が増えてしまう。これは水質の悪化にも繋がる。
ただし、外皮は頑丈なのでピンセットで執拗に突き刺す等をしなければそうなる事は少ない。



・浅瀬飼育のススメ


タイコウチの飼育方法を検索すると、観察が行いやすいような深めの水深の水槽内で水草に掴まり、水面と垂直になる体勢で暮らしている画像が多く見られる。
特に博物館や水族館等、生体を横から観察させる目的の展示である場合はこの手法のメリットが大きい。見る者に強い興味を与えてくれる。
幼少期の自分はタガメやゲンゴロウ、タイコウチやミズカマキリ等がこうした展示をされている様子に強く憧れた。

筑波実験植物園・水草展での
タイコウチ展示生体
シャジクモと他個体を足場としている


しかし、本来は岸際や浅瀬の水底で全身に泥を被るような過ごし方を好み、タイコウチもそれに特化した身体構造となっている。
先程の画像で確認できる中脚、後脚に生える毛は水掻きの用途だけでなく自らに泥を被せる目的でも使われ、薄く平たい体はその際に更なるカモフラージュ効果を生む。

水底で泥を被り潜むタイコウチ

こうした浅瀬では水棲ミズアブやハナアブ幼虫(オナガウジ)もよく捕食しているようで、それらと同様の動きをするウジに対する嗜好性も高い。


勿論、趣味における飼育は各々が好きな手法で行うべきだ。
しかし冒頭でも述べた通り、ウジを餌として用いた飼育では水面の餌への反応が良い浅瀬飼育を採用している。


・蛹やハエの利用法

上記のような浅瀬環境では水面に落下する昆虫も多い。
そのため、水底に潜んでいる際のタイコウチは水面の波紋に非常に敏感で、落下昆虫にもすぐさま反応をして追いかける。


上記リンク先の動画では片側の翅を取り除いたハエを与えている。

水面に落下したハエに気付いたタイコウチ
波紋の発生源へと速やかに向かう
獲物が震わせる翅を強く握りしめ
ジャリッという音を立てて
ハエを捕らえたタイコウチ
ハエを取り合うタイコウチ2匹

このように、ウジが蛹化してしまった際は羽化をさせる事で再び餌として利用できるようになる。
ただし、蛹の状態では動くこともなく、外殻である囲蛹いようがあまりにも頑丈であるため、その場合の嗜好性はかなり低い。

蛹の状態で冷蔵すれば半年ほどは生存し、常温に戻せば再び蛹の発生が始まる。
蛹が生きていればそこから2週間以内にハエが羽化をするので、自宅ではウジが蛹化してしまった後も長期保存が可能な活き餌としてタイコウチ飼育において重宝している。



・関連記事

いいなと思ったら応援しよう!