ハネナシコロギス、変わり身の術
昨年の夏、自宅の庭でハネナシコロギスという直翅目(バッタ目)昆虫に出会った。
樹上に棲む肉食性のバッタで、糸を分泌して葉を紡ぎ、隠れ家を作る生態を持つコロギス類。
ハネナシコロギスはその中でも翅が存在せず、成虫はオレンジ色の体色をしている小型の種だ。
2022/07/20に庭に自生するクワの樹上にてハネナシコロギスのメスを発見。
当時はハネナシコロギスを市内の神社や森林で見かけた事はあったが、庭では初確認だったように思える。
LEDライトで照らされたその姿や影には、尾端に剣状の大きな産卵管が確認できた。まず間違いなくメスだろう。
この個体はすでに交尾済みかもしれない。捕獲して飼育すれば、オスを用意せずとも繁殖ができるかもしれない。
そう考え、頑丈な網を用いて枝を薙ぐようにして攫う。
しかし、網の中に入っていた個体には産卵管が存在しなかった。
メスだと思って捕獲したが、そもそも見間違いだったのかと当初は思った。
よく見ると、産卵管だけでなく片脚も無い。
網を強く振るってしまったために取れてしまったのだろうか。
そう心配しつつ、その個体を元居た樹上へと戻したが、大きな違和感が残る。
産卵管の見間違いはともかく、脚が取れてしまったのならば網の中に残っていなければおかしいと。
その後に撮影した画像をよく見返すと、最初に目撃したハネナシコロギスには確かに産卵管が存在しており、2本の後脚も健在だった。
そして拡大してみると産卵管の根元、尾端には光沢を持つ白いゼリー状の物体があるようにも見える。
これは恐らくオスが交尾の際にメスに渡す精子の入ったカプセル、精包だったのではないかと思われる。
つまりは、自分が最初に発見した個体は確実にメスであり、それも交尾直後のメスだった。
そして網を振るった際にはメスに逃げられてしまい、その代わりに間近に隠れていたオスが偶然捕獲された。
という事なのだろう。
メスが精包を持っているとなれば、確実に交尾直後の状態だ。
まさに変わり身の術を目にしたかのような気分だった。
結局その年は、メスと再会する事なく夏が終わった。
しかし、ハネナシコロギスによって糸で紡がれたであろう隠れ家のクワの葉は後日も翌年も目にしている。
あの時捕獲できなかった個体が世代を繋いでくれているのかもしれない。
また、コロギス類の産卵はキリギリスやコオロギのように土中へは行なわれず、腐朽が進んで柔らかくなった朽木内に行われる事が多い。
ハネナシコロギスが生息していたエリアにはそれらが特に多いので、ホットスポットとなっているのかもしれない。
撮影こそできなかったが、コロギス類と思われる触覚の長い直翅目若齢幼虫を確認した事もある。
ちなみに、飼育下においては生花用の給水スポンジである『オアシス』を用いて産卵をさせる方が産卵の確認や採卵等の管理が楽になると聞く。
自分は受精済みのメス個体を飼育した事がないため、いつかはそれを用いて繁殖させてみたいと思っている。
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