普段飲む酒、スピリタス👍🍾
しばらく前の話。
女性バーチャルライバーとして活躍するフォロワーの配信で、やたら馴れ馴れしく失礼なコメントをする男性が現れた。
案の定フォロワーからは邪険に扱われていた。
そして、「普段飲む酒、スピリタス👍🍾」という旨の、謎の酒豪アピールを始める。
これにより、酒をあまり飲まないフォロワーの逆鱗に触れ、速攻でブロックをされて消えてしまった。
彼が消え去った後の夜空は、どこか澄んでいたように思う。
彼は、嵐のような男だった。
今もどこかにいるのだろうか。
スピリタスのアルコール度数は96%。
ほとんど純粋なアルコールと言っても過言ではない、世界最高の度数を誇る酒だ。
彼は本当に常飲していたのだろうか。
アルコール中毒の父親を持ち、数年前に購入したスピリタスの空き瓶が転がっている自室で過ごすトモロウの見解としては、正直疑わしい。
スピリタスはアルコール中毒の者が常飲するにはコスパが悪く、面白みの一つである『アルコールが喉を焼く感覚』はこの酒でなくても味わう事ができる。
しかし何故スピリタスが彼に選ばれたのか。
かつて酒に憧れた経験を持ち、かくして酒を飲むようになった者。
イキリ大学生の目指す星、純粋なアルコール。
それがスピリタスであり、それを飲むという行為こそがステータスなのだ。
だからこそ、彼はこれを常飲していると嘯いたのだろう。
もしくは、スピリタスを何かに少量混ぜて飲む事を『スピリタスの常飲』と騙ったのだろう。
男と生まれたからには
誰でも一生のうち
一度は夢見る
「地上最強の男」
(言うほどか?)
スピリタスは、酒飲みにとってそれに近い。
数ヶ月に一度しか酒を飲まない自分ではあるが、その虚勢と哀愁を感じた。
正直なところ、彼はツッコミが欲しかったのだと思う。
女性から「スピリタスを飲めるなんてすごい」と言ってもらいたかったのではなく、「そんなわけないでしょ!(笑)」と言ってもらい、そこから話を広げたかったのだと思う。
面白い人だと認識してもらいたかったのだと思う。
そのユーモアが、上滑りしてしまったのだと思う。
その前段階から、手段を間違え続けてしまったのだと思う。
バーチャルライバーや地下アイドルへ送られるコメントは、弱者が相手から「面白い人」だと認識してもらいたい目的によって構成されたもので溢れかえっている。
端麗な容姿、人から好かれる能力、誰にも負けない特技。
それらを持たぬ人間は、『オモロ』や『ユーモア』といった『意外性』を披露する事でしか、日常で他人から好かれるチャンスが訪れない場合も多い。
弱さと優しさの違いすら語ることの出来ぬ弱者による一発逆転狙いの博打が、それらなのだ。
経験と自戒を込めて、そう感じる。
せめて『いじり』ばかりによってユーモアが構成されないように心掛けたい。
ドラッグストアの一角に、5人ほどの大学生の集団がいた。
そのうちの1人から、「スピリタス飲みてぇ〜!」という発言が飛び出す。
彼の声を聞いた時、自分は頭の片隅に仕舞われていた冒頭のエピソードを思い出した。
そうしてこの記事を書くに至る。
2023/11/17、嵐のような雨風の日だった。
スピリタスを飲みたがる彼は、仲間達から
「やば!笑」「飲めるわけないっしょ!笑」といった旨のツッコミを貰い、満足気に笑っていた。
そうか
彼は、ここにいたのか。
これが、そうか
この掌にあるものが
終
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