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神出鬼没のコカブト


コカブト♀
Eophileurus chinensis chinensis

基本的には年に数回、庭で見られるコカブト。
本種は体長2cmほどの小型のカブトムシ類で、肉食性が強い。
主に他の節足動物や動物の死骸を食べ、それ故に樹液ではあまり見る事がない。
しかし、樹液では絶対に見られないという訳ではなく、水分や栄養を補給するために樹液を舐めている観察例自体はいくつかあるようだ。


高タンパク昆虫ゼリーのみでも飼育が行えるが、共食いを行う事もある。
生肉や昆虫の死骸を与えると非常に好んで食べるので、自分の中ではオサムシ類のようなイメージで飼育をしていた。
以下の動画はオサムシ類と共にイモムシに食らいついている様子だ。

高タンパクゼリーを食べるコカブト


野外では水分に満ちた動物の死骸に潜り込む事もあるためか、昆虫ゼリーの中に全身を沈めたまま24時間以上が経過しても溺死や衰弱をする事なく活発に活動している様子が複数回確認できた。
…水生昆虫のカテゴリに片足を突っ込んでいるのかもしれない。

クワガタのメスがゼリーの中に潜りこんで溺死してしまう事故はいくつも聞いた事があるが、コカブトはその性質とそもそものマイナーさも相まってそういった話を聞かない。

ゼリーに潜り込むコカブト
液状化したゼリーに潜り込むコカブト



コカブトは全国各地の雑木林に生息しているが、神出鬼没気味かつ樹液にほとんど集まらない事もあって、少しばかりレアな昆虫として扱われる場合もある。
たまたま雑木林や街灯下、路上で徘徊している個体に出会う事はあっても、一般的なカブトムシとは異なる生態を持つので、狙って探し難い。

自分が自宅や近所で見かけた事があるポイントは杉の幹、ケヤキ倒木上、アリジゴクの中、養蜂箱周辺、タケノコの脇…等、確かに神出鬼没気味だった。本当にゴミムシやオサムシ等の徘徊性昆虫の生態に近い。
また、秋季には越冬場所を求めるためか、屋内に侵入してくる事が何年も続いた。

杉の幹
ケヤキ倒木上
養蜂箱の周辺
アリジゴクの中

養蜂箱周辺の個体は散乱する残滓や死骸を、アリジゴクの中の個体はウスバカゲロウ幼虫を狙っていたのだろうか。
後者は単純に徘徊中に落下してしまい脱出を試みている可能性も高いが、這い上がろうとするのではなく巣の奥へ奥へと潜ろうとしていた様子だったので、その中のウスバカゲロウ幼虫を追い詰めて捕食しようとしていた可能性も否定できない。
コカブトは生きた昆虫を追いかけて襲う事も多いが、それでも初めからアリジゴクを目指して徘徊していた訳では無いと思われる。
その場合、たまたま落下してしまった先でウスバカゲロウ幼虫の動きを感じたから追いかけたに過ぎないだろうし、アリジゴクが作られるような餌や水分に乏しい環境ならば尚更に目先の獲物を追うだろう。


そしてオサムシやシデムシ等を狙ったピットフォールトラップでも本種の姿を確認した。
庭にトラップを設置していない年は1年を通して2.3匹を見かける程度だったものが、設置した場合は5月〜7月までに20匹以上を1ヶ所で発見するという結果になった。

ピットフォールトラップに入ったコカブト
ピットフォールトラップに入ったコカブト

特にケヤキ倒木周辺で腐肉等の動物質の餌を用いたピットフォールトラップを行った際に頻繁に捕獲され、捕獲個体の8割がメスであるという偏り方をしている。

コカブトは野生下において樹洞内の腐植物や朽木に産卵をする。
この生態は腐葉土を好むカブトムシよりもクワガタやハナムグリに近い。

恐らくは繁殖行動や産卵等の目的でメスが優先して集まる場所がこのケヤキ倒木で、繁殖期後半からは新成虫の羽化も重なるためにより多くの個体が見られるのだと思われる。
そこに腐肉のような匂いの強い餌があれば簡単に誘引されてしまうのだろう。

ケヤキ倒木上を徘徊するコカブト♀
ケヤキ倒木上を徘徊するコカブト♀
ケヤキ倒木上を徘徊するコカブト♀


本種の採集法における効率的な手段の一つは「発生木付近のルッキング」だが、「繁殖期である初夏から夏にかけて広葉樹の立ち枯れや倒木、樹洞付近で動物質の餌を用いたピットフォールトラップを行う事」もそれなりに有効なのだろう。
また、その場合に捕獲したメスはすでに交尾済みである可能性も高い。

この記事を書いている晩秋に誘引される個体はあまり見た事がないが、来年以降の春からは再びこの採集法で見られるはずなので、コカブトを探している方の参考になれば幸いだ。

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