毒虫を握る✊👴
出張帰りに、以前セアカオサムシを採集したポイントへ向かう。
初めてセアカオサムシの自力開拓をする事ができた思い出のポイントだ。未だに喜びを噛み締めている。
一般的にセアカオサムシが好むとされている環境とは少し異なる立地だが、絶対にいるはずと目論んだ末の発見だった。
それ以降は確実に航空写真の見方が変わった。
到着した頃には気温が10度を下回っていて、地面は湿り気を帯びていない。
歩いているゴミムシの種類も少なく、他のスカベンジャーもほとんど見かけない。いるのはオカダンゴムシくらいか。
正直、セアカオサムシを観察するためのルッキングにはあまり向いていない条件だったが、出張帰りがてらにポイントの見回りができるだけでも御の字だと思いながら草地を眺めて歩く。
すると、地面に頭を突き刺しているコガネムシを発見した。
昨日の記事にも書いた通り、自分はコガネムシの繁殖にも興味を持っているので拾ってみる事にした。
迂闊!!
コガネムシだと思って引き抜いた黒い影はツチハンミョウだった。
刺激を受けたツチハンミョウは関節から松脂色の体液を出して防衛を行う。
この体液にはカンタリジンという毒が含まれており、かつては暗殺に使われていたとされている。
体液に触れると水膨れを起こす。実際に試してみた事もあるが、本当に水膨れが起きる。
そういえば小学生の頃、所属していたサッカークラブにて朝礼を行っていた際、コーチの脚にこの虫と同じ毒を持つマメハンミョウが飛来してすぐさま手で叩き落とされたのを見たが、翌日にはコーチの手脚にしっかりと水膨れを伴う腫れが起きていた。
この顔つきはマルクビツチハンミョウだろうか。そういえば、このポイントに向かう道中で真っ先に発見した昆虫はマルクビツチハンミョウの轢死体だった。
著しく膨張した腹部には数千個の卵が入っているという。
土中に産卵された卵から孵化した夥しい数の幼虫は、それぞれが草花の頂上を目指して歩き出す。
それらは他の昆虫触れた際にしがみ付く生態があるが、目的の宿主であるハナバチ類に運良くしがみ付いて巣まで運んでもらえた個体だけがその巣内の餌にありつく事ができ、その巣に辿り着く事でしか成長する事ができない。
非常に低い生存率に思えるが、ハナバチやツチハンミョウ自体の個体数が多いのか、それらはよく見かける。
ツチハンミョウ幼虫の中には、ハナバチのメスに共通する匂いを出してオスを誘い、そのオスに飛び乗った後にハナバチが交尾する隙を狙ってメスに乗り移るという生態を持つ種「Meloe franciscanus」が存在するという話も聞く。
今後はそちらも深く調べてみたい。
カンタリジンに触れてしまったものの、今回はゴム手袋をしていたため無事だった。
この趣味をしておきながら自分は潔癖気味であり、オサムシやゴミムシの匂いを付けた指では迷惑がかかる仕事や生活をしているため、基本的に採集の際は右手のみを使用し、そこにゴム手袋を着用しているが、やはりゴム手袋は標準装備とした方が良いように思える。
オサゴミ採集者はそれらの匂いが染み付いた指にこそ、採集成功の充足感を覚えるが、こればかりは致し方ない。(釣り人の手に残る魚臭さとその釣果に共通する感覚だと思う。)
その他、採集後に手を洗わなくても良い(軽いアルコール消毒はする)、ミイデラゴミムシのガスを浴びても皮膚に化学反応が起きない、ナメクジやカタツムリに触れてしまっても問題が少ない等の利点がある。
特にナメクジやカタツムリとの接触には寄生虫リスクもあるので、ゴム手袋の着用による採集がベターだろう。
ツチハンミョウの生態を細かく描写した力作絵本も存在するので、興味のある方は是非とも手に取っていただきたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?