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寿司屋の手垢を洗う場所


回転寿司の卓に設置されている、湯を注ぐための蛇口。

はま寿司のそれはプッシュ式では無いことを初めて知った。

SNSでこの蛇口を撮影した画像を上げつつ「これは何をする場所ですか?」と冗談めいて問う投稿を行うと、「これは手を洗う場所ですよ」というこれまた冗談めいた返答が決まって返ってくる。
熱湯が出てくる場所である事を誰しもが分かっていてもそれは行われる。

このやり取りはいつしか、インターネットのお約束と化した。
恐らく定着してから10年以上は経過しているのではないか。

あまりにも使い古され手垢の付いたそのやり取りを「面白い」と感じている者は随分減ってきたが、このやり取りは適度に「つまらなさ」「くだらなさ」を内包しているからこそ、現在まで支持されているものなのかもしれない。
適度につまらないから、誰もがやっているから、オリジナリティを込める余地が少ないから、スベる事を恐れずに「発信側の存在証明」と「受信側の反応」ができるような側面がある気もする。

『親父ギャグ』は面白さを真に求めた行為ではなく、詰まる所は「つまらない冗談を発した自分を温かく受け入れてもらえるかどうかを確認する行為」である側面が大きいが、回転寿司の蛇口にまつわるやり取りもかなり似ている。

そこに飛び抜けた面白さはなくとも、こうした文化は多様性として大事にしたい。
自分が親父ギャグを通り越して痴呆老人となった時、マジでここで手を洗ってしまった時、なんとかお笑いの範疇に収める事ができる余裕が世の中に残っていてほしいから。
(多分そんな余裕は残っていないので、淡い希望として大事にしたい)


ここまで書いて改めて気づいたが、『寿司』と『手垢』って一番並べちゃいけない単語かもしれない。

回転寿司屋という食とエンターテイメント性が融合した場において、これほど著しく興と食欲が削がれる組み合わせはそうそう無い。

なんか蛇口周りの汚れもそれっぽく見えてきたし。

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