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恋人のいた世界

 僕は半分を失くしてしまったのだから、もう半分が一体どこへ行ってしまったのか見つけなければならない。
 なんといっても、僕だけの半分なのだから。

 僕は知らない田舎町の寂れた商店街を歩いており、そこは年老いた人たちがヨロヨロ歩くばかりなのだ。
 これでは一向に僕の半分は出てこないではないか。

 僕の半分はキット神経質にある日突然に恋人がいなくなってしまった日常をさ迷い歩いているに違いない。
 そこは色のない絵の具で作ったような味気ない世界なのだ。
 何をしても楽しくない、何を食べても味がしない、そんな世界なのだ。透明な熱を放つ太陽は間違いなく、昼間には頭上にあるものなのだ。

 恋人を追っていくように僕の半分はさ迷っており、僕はその半分を追いかけてきたのだが、こんな田舎町の商店街なんぞに来てしまった。
 昨日より少々免疫が落ちているのか、風邪気味で咳がコホコホでるではないか。世界はゆっくりで、なんだか光が冷たく見えるではないか。

 僕は時に婆とお茶を飲みながら語らうのである。
 僕の恋だの夢だの、現実だのを語り、婆は途中で寝てしまうのである。
 
 人生は果て無く世界は広いが、僕の歩ける範囲は決まっているし、できることも限られている。
 毎日毎日仕事をしながら生きていかなければならないし、モノを食うし、ヒトとしゃべるし、性欲もある。排泄もある。そして夜には寝なければならない。睡眠は7時間とらなければならない。なんて厳しいのだ。
 
 なんといっても、それと並行して僕の半分を探してまわり、僕の半分は消えてしまった恋人を探し回らなければならない。なんて大変なのだ。半分しかないうえに、失くした半分と消えた恋人を追いかけなければならないなんて。

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