極小の野生の世界
川崎市多摩区枡形。小田急線の向ヶ丘遊園駅の裏といえるこの場所には、枡形山展望台という市街地を一望できる展望台と緑地が広がっている。
そんな広大なエリアの脇にあるのが広福寺。険しい坂道の途中にぽつんとあるこの場所に足を踏み入れると、午前中まで降っていたであろう雨によって湿り気を帯びた境内には、誰もいなかった。水分をたくわえた木々は、街中の喧騒を忘れるような静寂を漂わせていた。
境内に立ち入ると、このあたりを縄張りにしていると思しき猫たちが1匹2匹と顔をのぞかせる。成猫だけでなく、まだ幼さの抜けない子猫たちもいた。どの猫も、遠目からじっと見知らぬ人間を見つめている。
可愛さあふれるイメージとは打って変わった、緊張感のある面持ち。猫たちのすぐそばには、数羽のカラスがいた。身体能力の高い猫はカラスよりも強いというが、カラスもまた子猫たちにとっての天敵だという。
木々が取り囲む静寂には、数匹と数羽による殺伐とした空気があるように感じた。
この空間に溶け込むように、少しだけ身をかがめて猫にカメラを向ける。数m離れた場所から、1枚、2枚。その慎重さを崩さないまま、小さな弱肉強食の世界から離れた。
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