【100均ガジェット分解】(44)ダイソーの「ウオッチチャージャー」
※本記事は月刊I/O 2022年11月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
ダイソーでアップルウオッチをワイヤレス充電できる「ウオッチ・チャージャー」を見つけましたので、早速購入して分解してみます。
パッケージと製品の外観
ダイソーの「ウオッチ・チャージャー」は2022年6月下旬から店頭で見かけるようになりました。USBポートから給電するタイプで価格は700円(税別)です。
パッケージの内容物は本体と取り扱い説明書です。本体はUSB-Aタイプのプラグが直接出ているタイプです。
実際にUSBポートに刺してみたのですが、充電状態をしめすインジケーター(LED等)は本体の外からは特に見えませんでした。
同梱の取扱説明書は日本語、表面には簡単な使い方と注意事項、裏面には定格表示が記載されています。
本製品のお問い合わせ先(輸入元)は最近のダイソー商品でよく見かける、大阪に本社がある「MAKER株式会社」です。
ちなみに、アップルウオッチの充電方式は標準規格化されているワイヤレス給電方式「Qi(チー)」ではなく、独自の「磁気充電」と呼ばれる方式のようです。調べてみたのですが規格の詳細は見つけることができませんでした。
本体の開封
本体のケースは樹脂のはめ込み式ですので、側面の隙間にカッターの刃のような薄いものを差し込んでこじると開封できます。
内部にはメインボードと無線送電用のコイルがあります。ケース下面のボスを穴に挿すかたちで基板が固定されています。
無線送電用コイルの中心部分は充電位置固定用の磁石になっています。
回路構成
メインボード
メインボードはカラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。部品は全て基板表面に実装されています。基板の型番(OJD-87 V2.0)と製造年月日(20211130)はシルクで印刷、無線送電用のコイルは、メインボードに直接半田付けされていて、両面テープとスポンジで基板裏面に固定されています。
主要な半導体部品はコントローラICと送電用コイルを駆動するための4個のFETです。
温度検出用のNTC (Negative Temperature Coefficient, 負特性) サーミスタや電流検出用の0.02Ωのチップ抵抗も実装されています。
完成品の外部からは見えないのですが、メインボードの基板端付近には状態表示用の2個のLEDが実装されています。
裏面は配線パターンのみで実装部品はありません。
回路図と実際の動作
基板パターンから回路図を作成しました。基板には回路番号がなかったため、筆者の方でつけています。
コントローラIC(U1)の情報はWeb検索では見つけることができませんでしたので、回路構成から各ピンの機能を推定しました。
送電用コイルは4個のFET(Q1~Q4)によって駆動され、コイルとFETの間にある4個のコンデンサ(C14~C17)でコイルに直流成分がかからないようにしています。
コントローラIC(U1)の電源はUSB-A端子のVBUS(5V)から直接供給されています。
回路構成から推定したコントローラICの主な機能は以下です。
●無線送電用コイルドライブ制御
無線送電コイル(L1)に電流を流すための4個のFET(Q1~Q4)のゲート電圧を制御します。各FETに対して1個ずつのポートが割り当てられています。
●充電電流制御機能
無線送電コイル(L1)に流れる電流を電流検出抵抗(R17)で電圧に変換して12番ピンに入力することで給電電流を制御します。
●VBUS電圧検出機能
USB端子からのVBUS電圧を抵抗分割(R12/R13)して18番ピンに入力することでVBUS電圧を検出していると思われます。
●温度上昇保護機能
VBUS電圧から抵抗(R8)とサーミスタ(NTC1)で分割された電圧値を19番ピンで検出して、温度異常上昇時の保護を行います。
●送電面上の異物検出機能
一般的なワイヤレス給電規格では、受電側の負荷変動を検出することで充電面上にあるものが充電対応機器なのかそれ以外の異物なのかを判断判断します。
本製品の回路では、受電側の負荷変動をピークホールド回路(D1/R6/C11/R7/R11)で検出して17番ピンに入力しコントローラIC内蔵のアンプで増幅して14番ピンに入力して検出しています。抵抗R9は1MΩという抵抗値からコントローラ内蔵アンプのゲイン設定用だと思われます。
●LEDによる動作状態表示
2個のLED制御出力が、それぞれが青色LED、赤色LEDに接続されていて、本体の動作状態をLEDの点滅の組み合わせで表示します。
主要部品の仕様
コントローラIC(U1) BAS2047(詳細不明)
表面のマーキングである「BAS2047」で検索をしたのですが、該当する部品が見つかりませんでした。
作成した回路図からはワイヤレス充電に必要な各種検出機能が内蔵されていて、外部にクロック用の24MHzの水晶発振子が接続されていることから、プロセッサを内蔵したワイヤレス充電専用ICだと思われます。
P-Channel MOSFET(Q1,Q3) 3407
送電コイルの電源側のFETはP-Channel MOSFET「3407」です。同じ型番で各社から互換品が販売されている汎用品です。
データシートは「Alpha and Omega Semiconductor(http://www.aosmd.com/)」製のものが以下から入手できます。
http://www.aosmd.com/pdfs/datasheet/ao3407.pdf
データシートによると耐圧(Vds)は-30V, ON抵抗は54mΩ(Typ.)です。
N-Channel MOSFET(Q2,Q4) 3404
送電コイルのGND側のFETはN-Channel MOSFET「3404」です。これも同じ型番で各社から互換品が販売されている汎用品です。
データシートは「Alpha and Omega Semiconductor(http://www.aosmd.com/)」製のものが以下から入手できます。
http://www.aosmd.com/pdfs/datasheet/AO3404.pdf
データシートによると耐圧(Vds)は30V, ON抵抗は34mΩ(Typ.)です。
スイッチングダイオード(D1) 1N4148
送電コイルの負荷変動のピークホールド用の「T4」のマーキングの部品はスイッチングダイオード「1N4148」です。
同じ型番で各社から互換品が販売されている汎用品です。データシートは「Diodes Incorporated(https://www.diodes.com/)のものが以下から入手できます。
https://akizukidenshi.com/download/ds/diodeinc/1n4148w.pdf
データシートによると耐圧(VR)は100V, 順方向電圧(VFM)は電流50mA時で1.0V(max)です。
動作確認
独自の充電規格ということで、充電電流の実力測定はできませんでした。そこで今回は無負荷時の消費電流と送電面上に異物をおいたときの電流について確認しました。
無負荷時電流
無負荷(上に何も載せない状態)時のUSBのVBUS電流の実測値は48mA、電力は254mWと若干大きめです。
異物を置いたときの電流
送電面上に異物として金属を置くと、VBUS電流は66mA、電力は345mWに増加(異物に対して100mWほど電力を供給)しています。
まとめ
独自のワイヤレス充電方ですが、コントローラICを除けば回路的にはQi充電器(2020年11月号で分解)と似た回路構成でした。
異物検出動作はある程度は働いているようですが、安全を考えると未使用時はUSBポートから外しておくべきでしょう。
余談ですが、筆者がAliexpressで分解用に購入した(よく似た外観で)無線給電対応のスマートウオッチを本製品の送電面に置いてみたのですが、充電はできませんでした。