【100均ガジェット分解】(60)「人感センサーケーブル」
本記事は月刊I/O 2024年3月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
USB 電源で動くデバイスの電源と USB ケーブルの間にいれることで人感センサー対応にするようにできる「人感センサーケーブル」がダイソーで販売されていました。今回はこれを分解してみます。
パッケージと製品の外観
パッケージの表示
「人感センサーケーブル」はLEDライトが並んでいるコーナーにありました。USB Type-Aコネクター接続で価格は300円(税別)です。
ブランドはダイソーで中国製、型番は「センサー小物シリーズ 3083」となります。
パッケージ正面の右下に記載によると本製品にはデータ転送機能はありません。
付属の取扱説明書(日本語)の商品仕様によると、使用可能電圧:5V、使用可能最大電流:1Aです。大電流が流れる機器(例えばモーターが使用されている機器)には使用できないので注意が必要です。
人感センサーは赤外線感知式で感知範囲は距離2m・角度120度、通電時間は約1分です。
本体の外観
本体のケーブル部分の長さはプラグ側・レセプタクル側ともに22.5cmです。センサーが付いた本体部分の外装はABS樹脂、左右に取り付け用のビス穴があります。本体背面は何もない平面、ケーブルも比較的柔らかいので、壁等に固定して使用することを想定しているようです。
本体の分解
外装ケースの開封
屋外への設置も配慮してなのか外装ケースは接着剤で固定されていますので、本体側面の隙間にマイナスの精密ドライバを差し込んでこじ開けます。
背面のケースの内側には基板を押さえるための丸いスポンジが貼られています。
USBケーブルはプリント基板に直接半田付け、データ転送機能はないため配線は電源(VBUS)とGNDだけです。ケーブルには抜け防止のために、ケースに引っかかるように結束バンドがつけられています。
プリント基板を取り出すと、裏側には人感センサー付きの機器でよく見るドーム型の半透明なプラスチック拡散板で覆われた人感センサーがあります。
内部構成と回路動作
メイン基板
メイン基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板、人感センサー以外は全て面実装部品で片面に実装されています。
主な部品は人感センサー、コントローラー、三端子レギュレーター、MOSFET、ダイオード。
USBケーブルの入力は「5V・GND」のランドに、出力は「LED+・LED-」のランドにそれぞれ接続されています。
プリント基板の上部にはデバッグ用と思われるランド(VCC・SDA・SCL・GND)があり、プリント基板の型番「AWELL V1.0」はシルクで印刷されています。
回路図と動作
プリント基板のパターンからメイン基板の回路図を作成しました。
USB入力の”5V”から入力された電源は、入力直後でUSB出力の”LED+”と制御回路用の電源のラインに分岐しています。
抵抗R4は内部が短絡故障したときの保護用、ダイオードD2はUSB入力の5VとGNDの逆接続保護用です。
U2は三端子レギュレーターでコントローラーU4と人感センサーU3の電源の3.3Vを生成しています。
Q1はNチャンネルパワーMOSFETでUSB出力のLED-側とGND間をON-OFFするためのローサイドスイッチになっています。
人の動き(赤外線の変化)を感知すると人感センサーU3のOUTがHレベルになるので、コントローラーのGP3ピンで立ち上がりを検知して一定時間(約1分間)GP1ピンをHレベルにしてMOSFET Q1をONします。
主要部品の仕様
人感センサー: RDA223
人感センサーは鄭州文森電子科技有限公司 (Zhengzhou Winsen Electronics Technology Co., Ltd. https://www.winsen-sensor.com/) 製のデジタルPIRセンサー(Pyroelectric Infrared Sensor)「RDA223」です。
データシートは以下から入手できます。
https://www.winsen-sensor.com/d/files/manual/rda223.pdf
赤外線センサーだけではなく、ADコンバータ・各種フィルター・ロジック回路が内蔵されていて、内部で信号処理された状態でOUTに出力されます。
コントローラー: 型番不明(PICピン互換)
コントローラーは表面にはマーキングがありません。
基板から外すとパッケージ裏面にマーキングがありますが、検索しても該当品は見つからず詳細不明でした。
ピン配置はMicrochip社のPICマイコンの8ピンパッケージのシリーズ(PIC12F***)互換になっています。
周辺部品不要で電源(VCC)とGND以外はIOに使えるので、ローエンドのガジェットではよく見かけます。
三端子レギュレーター: XC6206P332MR
「662K」のマーキングの部品は日本のトレックス・セミコンダクター株式会社 (TOREX SEMICONDUCTOR LTD. https://product.torexsemi.com/) の3.3V出力LDO三端子レギュレーター「XC6206P332MR」です。
データシートは以下から入手できます。
https://product.torexsemi.com/system/files/series/xc6206.pdf
最大出力電流:200mA、入出力電位差:250mV@100mA、過電流保護回路も内蔵しています。
NチャンネルパワーMOSFET: BLM3400
「3400」のマーキングの部品はNチャンネルパワーMOSFET「3400」シリーズで、各社より同等品が販売されています。
データシートは上海贝岭股份有限公司(Shanghai Belling Co., Ltd. https://www.belling.com.cn/)「BLM3400」のものが以下から入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/1810221832_BL-Shanghai-Belling-BLM3400_C169245.pdf
最大ON電流ID=5.8A、ON抵抗RDS(ON)<59mΩ(@VGS=2.5V)で製品仕様の最大電流1Aに対して余裕があります。
ショットキーバリアダイオード: B5819W
「SL」のマーキングの部品はショットキーバリアダイオード「B5819W」で、これも各社より同等品が販売されています。
データシートは桑德斯微电子器件(南京)有限公司(Sangdest Microelectronic (Nanjing) Co., Ltd. https://www.smc-diodes.com/)のものが以下から入手できます。
https://www.smc-diodes.com/propdf/B5817W-B5819W%20N1752%20REV.-.pdf
順方向電流Io=1A、順方向電圧VF=0.6V@1Aで電源入力5V~U2の間に直列に挿入しても余裕がある設計になっています。
まとめ
屋外への設置も配慮してと思われますが、外装ケースは接着で固定、水分の侵入等による内部の短絡や電源の逆接続の保護用も配慮しており、予想よりもきちんとした設計でした。
出力のランド名が「LED」になっていることから、もともと人感センサー付きLEDランプ用の基板にUSBレセプタクルをつけることで汎用的に使えるようにした商品だと思われます。
このようなアイデアを商品展開していけるのが、柔軟で素晴らしい発想だと感心します。