遺失物届:愛
愛を失くした。
たぶん、どこかに置いてきた。
駅のトイレとか、欧風雑貨店の入り口とか、
車の中とか。
あの愛は、
彼が人生における酸性雨に降られた時に、
すっと差し出して
守ってあげるためのものだったのに。
そういえば彼は私の心に嵐が吹いている時、
愛だけを持って会いにきてくれたっけ。
彼の愛の形はどんなだったか。
私はそれに気が付かなくて、
彼を傷つけていることにも、気がつけなかった。
ああ、私が失くしたのは愛ではない。彼だ。
いつだって、失くしてからじゃないと
気がつけない。
目の前にあるそれが、不変で、
ずっとそこにいてくれるように思えてしまう。
だけどそんなことはなくて、
愛も恋も人との関係も、
それはあまりに脆いのだ。
季節が移り変わるように当然に、
飼い猫が逃げ出すように突然に、
いなくなる。
そして新しい季節が来て、
猫もきっとどこかで元気にしてる。
季節の変わり目には風邪を引くものだから、
今日ぐらいは、楽しかったあなたとの
日々を思い出して泣かせてください。