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夜、秋の終わりについて|エッセイ
7℃の外。
外はこんなにも寒いのに、
お風呂から上がったばかりの私からは白い湯気がもくもくとあがる。
これが生命か、と感心する。
ほかほかの私の髪は、
待ってましたと言わんばかりに
外のひんやりとした空気を
その1本1本に含ませた。
髪の毛を、内側から掬いたなびかせたり
指に巻きつけたり、手櫛で弄んだり、
そうしているうちに髪は外気を吸い込み、
先ほどまでの人肌を容易に失う。
髪の毛はやはり死んだ細胞だったか。
そんなことを考えていると、
木枯らしn号が吹き抜ける。
木枯らし1号は一昨日くらいに吹いたらしく、
1号が吹いてしまえば後の風に価値はないのか。
そんなのは可哀想だと思うので、
私は秋の風が吹くたびに、
この風は何号だろうと考える。
しかし、
何号かなんてわかるわけないしどうでもいいので
さっき吹いた風は木枯らしn号だ。
寒い。
寝巻き一枚と裸足で外に出るには
あまりにも無防備すぎると思い直し、
一度家に入って、着倒して毛玉ばかりになった
カーディガンを羽織る。
靴下を履いてさらにブーツを…などという
丁寧な暮らしはできないので、
これまた履き倒したピンクのサンダルを、
使い倒した私の素足に履かせる。
再び外に出る。
時刻は21時。この街はもう暗い。
日の光はあなたの笑顔を照らして、
世界の汚れも露わにする。
夜は、昼間のような明るさを失ったここは、
私の涙を隠して、宇宙と私たちを近づける。
実際の、ここから宇宙空間までの距離は変わらないのだけど。
そういえば人類は、夜でも昼のような明るさを
求めてライトを開発した。
だけど時々、明るさから離れて、
当然のように暗い夜を求める。
私も、古代の暗さを求めて、
文明の明るさから離れるべく歩き出す。
秋の冷たい風が私の露出した素肌を包む。
頬、首筋、ゆびさき。
足首、つまさき。
冷たい風は私に、私自身の輪郭を自覚させる。
寒さが生を実感させる。
寒いけど、あかりのない場所を求めて歩く。
世界の明るさに疲れる夜もある。
そういう時私は、人気もない、街灯もない、
家もない、
小学校のグラウンドに侵入するのだ。
田舎(気味)の小学校に
セキュリティというものはなく、
柵もないグラウンドの見晴らしがいい丘に登る。
この街を見回せるほどの高さはないけれど、
子供心を刺激させられる程度の高さの丘を登り詰めて空を見上げる。
星々は、昼間の天気を誇って、
その輝きをたたえている。
私は星たちを見つめて、星たちを想うけれど、
星たちは私を見つめないし想わない。
それがなんだか心地よく思えた。
いつも誰かに見つけてもらうことを、
あなたに彼にあの子にあの人に、
見つけてもらうことを祈ってるのに。
ああ、今ここで私は、私を見つけてるんだ。
夜の冷たさが、暗さが、私に私の輪郭を掴ませる。
私が、ここにいる。
明るい時、私は目を逸らしてしまうから。
私の都合の悪い部分に。
あなたの笑顔ばかりを、私を褒める言葉ばかりを
つかもうとしてしまうから。
少し立ち止まると、私は頭の中でよく喋る。
さすがに寒すぎてきて、思考が身体に戻ってきた
わたしも、家に戻ろう。
お風呂上がりの温かさがすこすこと
にげていくように、
初秋の陽だまりが冷えていく。
もうすぐ、冬がくる。