書評シリーズ第12回 『ザ メンタルゲーム』 前編
「メンタルの筋トレ」
第12回目は、トップポーカーコーチであるジェレッド・テンドラーと、PokerStartegy.comのニュースエディターであるバリー・カーター共著の『ザ メンタルゲーム』です。
去年の暮頃から趣味で始めたポーカーにどっぷりとハマり、勉強がてら様々な書物を読み漁ってきましたが、こちらの本に書かれていることはポーカーのみならず、仕事・投資・恋愛など、人生のあらゆる事柄にも通じると思い、この度記事にすることにしました。
(知らない方にざっくりルールを説明しますと、ここでいうポーカーとは、世界中で主流になっている「テキサス・ホールデム」のことで、それぞれのプレイヤーに2枚の手札が配られ、場に5枚の共通カードが順次出てきます。それら5枚と自分の2枚を照らし合わせ、相手と役の強さを競い合うゲームです。もちろん役の強さだけではなく、ベットすることで相手を降ろしたりと、駆け引きの要素もあるのがこのゲームの醍醐味です。)
概要
本書は下記のような構成になっており、第2章でメンタルを強化するための理論的基盤の構築について、第3章では”感情”について深掘りし、第4章ではメンタル上の問題解決のための戦略、第5章〜第8章では感情が引き起こす問題(ティルト、恐怖、モチベーション、自信)を個別に取り上げています。
特に「ティルト」(ポーカー用語で、プレイヤーが動揺して合理的に判断できなくなる状態のことを表します。)について詳しく取り上げており、ティルトの様々なタイプを挙げ、それらへの対処法について重きを置いています。
第1章 イントロダクション
第2章 理論的基盤
第3章 感情
第4章 戦略
第5章 ティルト
第6章 恐怖
第7章 モチベーション
第8章 自信
結論、付録
また、必ずしもすべてを順番通りに読む必要はなく、自身に当てはまるところに重点を置いて読み進めることを説いているのも本書の特徴です。
理論的基盤
まずここでは、メンタルゲームを改善するために3つの基礎理論を挙げています。
1.成人学習モデル(ALM)
ー学習モデルを4つの異なるレベルで構成されたものとして表したものです。
2.尺取り虫
ー改善というものが時間とともにどのように進行していくかを表すものです。
3.プロセスモデル
ーこのモデルはベストのプレイを安定して続け、時間とともに改善していくことを容易にする特徴を有します。
特に印象的だったのが1.の成人学習モデル(ALM)で、4つのレベルとは以下のことを表し、
レベル1:無意識的無能 ー自分が何を知らないのかさえも知らない状態。
レベル2:意識的無能 ー自分が何が知らないか自覚できているが、スキルが身についていない状態。
レベル3:意識的有能 ースキルは身についているが、意識しないと発揮できない状態。
レベル4:無意識的有能 ー意識しなくても発揮できるほどにスキルを習熟した状態。
本書で目指すレベルは、最後の「無意識的有能」というのです。
「無意識的有能」の例として「自動車運転」を挙げており、最初はハンドルの回し方やアクセルの踏み方など、覚えることがいっぱいあり、それらを意識して行う必要がありましたが、次第にそれらを考えることなく無意識にできるようになっていきます。
これがまさに「無意識的有能」の状態であり、レベル3の「意識的有能」ではまだ鍛錬が必要な状態です。このレベルのままだと、また再び同じミスを繰り返してしまうというのです。
(思えば自分もポーカーを始めた当初、今考えれば絶対にフォールドする場面にもコールしたりと、数多くのミスをしてきました。その都度反省し、なぜミスプレイなのかを勉強したことでこれらのミスは意識しなくても避けることができるようになりました。)
2.の尺取り虫については、成長の過程を尺取り虫が動くときのメカニズムに例えたもので、釣鐘曲線と呼ばれる図を使用して説明しています。
3.のプロセスモデルについては、経営学で登場する「PDCAサイクル」に似たもので、以下の一連のプロセスを繰り返すことで、上達する流れを再確認するものです。
①準備 ②実行 ③結果 ④評価 ⑤分析
感情
まず本書では、感情は問題を引き起こす前兆であって、自身のミスプレイをさせる原因そのものではないと説いています。
他の様々な書物では、感情をゼロにし、ロボットのように振る舞うようにと説いていますが、本書は感情を自身の改善点を教えてくれる”メッセンジャー”であると述べています。
そして、怒りや恐れといったネガティブな感情を引き起こしている根本的な原因を「解消」することが解決策になるというのです。
また、この解消こそがメンタル強化、ないしはメンタルの筋肉を鍛えることにつながると述べており、肉体同様にメンタルにも筋肉が存在し、それらは強化できるというのです。
戦略
では、具体的にメンタルゲームの問題を解決するための戦略を考えていきます。
それは以下の2つの戦略を基盤としています。
1.論理注入
2.解消
1.の論理注入とは、短期的にメンタルゲーム上の問題を一時的に封じ込めておくための支えのようなもので、解消にいたるためのあくまで橋渡しに過ぎないものです。
例えば、リバーでバットビートを食らったあとなどに、”今のは期待値的にはプラスのプレイであり、今回はたまたま相手に引かれたが、長期的には正しいプレイである。”といったように、ティルトしそうになりつつある感情を一時的に制御するために用います。
2.の解消は、長期的に見てメンタルゲーム上の問題を解決することを指します。
問題を根本的に解決しなければ、ただ先延ばしにしているに過ぎません。そのままにしておくと、今後似たような状況が発生した際に、再び自身のメンタルゲーム上の問題が現れてくるというのです。
それでは、解消にいたるまでの具体的なプロセスを見ていきます。
それは以下のような「メンタルハンド履歴」と呼ばれる5つのステップが基になっています。
1.問題を記述する
2.君がそのように反応したり、考えたり、感じたりすることが、何故論理的に意味が通るのか?
3.なぜその論理には欠陥があるのか?
4.この状況への正しい対処法は何か?
5.その修正はなぜ正しいのか?
1.では、実際に自身が直面している問題を、記述することによって浮き彫りにします。
この”記述する”という行為が重要であり、書き留めることで認識を高め、問題を整理することができます。
また、ここでの問題の例として「フィッシュ(自分より下手と思われるプレイヤー)に大負けするとティルトする」ことなどを挙げています。
2.に関しては、少々意味が通りにくいかもしれません。
1.で挙げた問題の例で言うと、フィッシュに大負けした時にティルトしてしまう論理的な理由は、自身が下手なプレイヤー相手の時は常に勝てるものと期待しているからだと言います。
つまり、下手な相手は常に自分にチップを払うのが当たり前であるという”驕り”が、あなたをティルトに導いているというのです。
3.では2.で挙げた論理をさらに深掘りしていきます。
1.で挙げた例で言うと、たとえフィッシュが相手であっても、ポーカーという運に左右されるゲームでは常に勝てるプレイヤーなど存在しません。心の奥深くでどんな状況でもコントロールすることが可能であると思い込んでいると言うのです。
そして4.では、ステップ2.と3.を踏まえて対処法を明確なものにしていきます。
先に挙げた例でいうと「カード自体はコントロール不能であり、自身がコントロールできるのは自分のプレイと、結果に対するリアクションのみである」といった形です。
5.では、4.で挙げた対処法が何故正しいのかと、論理をより強固にします。
「長期的に利益を上げるには、バッドビートが起きるのは必然であり、バットビートがないとそもそも違うゲームになってしまう。」といったように。
ここまでできて一つの問題の”解消”を達成できたことになり、それができたということは、ステップ4.と5.において無意識的有能のレベルで学んだことを意味します。
ただ、一つ心に留めておくこととして、問題点についての詳細な情報が集まってくるにつれて、これらのステップを繰り返す必要が出てくる可能性があるということです。
それでは、これから感情の問題点を分類毎に見ていきたいと思いますが、思ったより長くなってしまいそうなため続きは次回とし、ここで一旦区切りたいと思います。
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