がん治療で発症するリンパ浮腫とは(2)〜患者さんの心と身体のバランスを整えるリンパ浮腫ケア
前回は、リンパ浮腫についての基本的なお話をしました。
今回は、私がリンパ浮腫ケアで出会ったある患者さんについてお話ししますね。
がんに罹患された方の中でも、リンパ浮腫を患われ、リンパ浮腫ドレナージやアロマトリートメントケアを受けられる方の割合はそう多くありません。それでも、1年の間には沢山の患者さんと巡り合います。
リンパ浮腫は、腕や足の片側だけ大きく変化したり、洋服など着るものにも制限が出たりと、外見の変化を伴うことが多くあります。そして、難治性であるため、一生付き合っていかなればならないと言われてしまうために『がんになった時よりも辛いし、あの時に死んでしまえば良かった』と、おっしゃられる方も実は少なくないのです。女性にとって見た目の変化の辛さは、『生きていても心は死んだ事と同じ様になってしまうこともあり、とても辛いものだ』とおっしゃる方もいます。
私の仕事はリンパ浮腫ケアを通して、お話を伺い、身体をトリートメントして皮膚や浮腫の状態を観察し、セルフケアをお伝えしながら、心と身体のバランスを整えていくことです。
『少しでもリンパ浮腫を軽減させ、活動を増やしておしゃれも楽しむ』そうした生活の質・QOL(クオリティーオブライフ)の充実や向上していただくことを目指しています。
そんな、私のリンパドレナージを受けてくださったAさんについてお話しします。Aさんは、子宮体がんと大腸への転移で、一時期、人工肛門も造設されていました。現在も抗がん剤の内服薬の治療を継続されています。
体調が優れず『家から出たくない』そんな日々もありましたが、月2回のリンパ浮腫ケアには毎回休まずお越しになりました。体調の事や心の悩み、美味しいものの話、楽しかった思い出、テレビや芸能人の話題などなど『他愛ないけれどここでしか出来ない話』を、ケアを受けながら、話されて帰ります。
ある日、仕事を開始されると教えてくださいました。ずっと家にいても仕方ないし、お小遣いがあればお出掛けする気持ちにもなれると、お姉様に誘われて、1ヶ月に数日ですが、仕事をしてみようと思われたそうです。そして、そのために、1回30分程度のお散歩と家では少しずつ、筋トレも始められました。
時にはおしゃれをしてお出かけし、雨の日にはとても素敵な傘をお持ちになるようになりました。リンパ浮腫を患ったときのおしゃれは、洋服だけでなく小物のおしゃれが光ります。なぜなら、おしゃれな小物が目を惹くので身体から(リンパ浮腫から)目をそらせる効果もあるのです。そんなおしゃれを楽しめるようになったAさんに会うと『キラキラの笑顔が出るようになったなぁ』と、私も笑顔が溢れてしまいます。
素敵な傘を持つためにとか、
大好きな芸能人に会うためにとか、
美味しいものを食べたいとか、
自分の為に、誰かの為に働いてみるとか、
色々な話を誰かに聞いて貰える事は、その原動力を手助けしてもらえる事かもしれません。
リンパ浮腫ケアの施術中の会話にはそんな効果もあるのだと改めて感じた出来事でした。
施術中の会話だけではなく、予約用メールを介して文字で会話をすることもあります。短い文章のやりとりからも患者さんの心が見える時があるので、そのシグナルをキャッチしながらこれからもケアを心掛けたいと思います。
記:Tomopiiaコミュニケーション研修 第4期生 平城英里