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小説「臀部注射」第6章 楽しみの代償
二人が私のクリニックを訪れたのは街に枯れ葉が舞う秋のことだった。例年よりかなり早く風邪で来院する患者が増え始めていた。
「深井さん、深井朱里(あかり)さん。診察室にお入りください。」
看護師の柳沢の言葉に応じて、中待合室から若い女性が診察室に入ってきた。なかなかの美形だ。机の上の問診票を見ると、患者は21歳、身長160cm。このクリニックには初めての来院で、発熱と頭痛、のどの痛みを訴えている。
しかし、診察室に入って来たのは女性患者だけではなかった。その後ろからもう一人の人物が続いた。のっそりと姿を現したのは、女性と同年代と思われる長身の男だった。
「君は?」
私は思わず、スウェットウェアの上下を着たその男性に声をかけた。
「え、私は、あの、…付き添いです」
私の声に威嚇の気配を感じたのか、180cmはあると思われる大柄な体格に見合わず、おどおどした返答だ。
「付き添いの方というと、ご家族ですか。」
私の問いに、慌てたような声が返ってきた。
「いえ、家族ではないです。あの、知人、というか友人です。彼女の…深井さんの具合が悪そうだったので、付き添いした方がいいかなと思って…」
二人をそのまま立たせておくのもどうかと思い、私は女性の方に患者用の丸イスを目で示しながら声をかけた。
「深井朱里さん、ですね。イスに掛けてください」
看護師が患者用の丸イスをもう一つ持ってきて深井朱里の隣に置いた。すると、若い男は私が何も言わないうちに、そのイスに座り長い足を無遠慮に開いた。
彼の図々しさに私は少しいらだちを覚えながら、隣の女性患者の方に目を向けた。視線が捉えた容姿の魅力に改めて目を引かれる。色落ちした青のジーンズが肉感的な下半身を包み、明るいオレンジ色のトレーナーは胸の部分が前方に突き出すように膨らんでいる。色白でふくよかな顔はエキゾチックな雰囲気を漂わせ、見ようによっては北欧の白人女性のようにも思える。
一方の男性の方は、対照的に浅黒く日焼けしている。髪をスポーツ刈りにしており、純和風の顔は幾分愚鈍そうな感じを与える。スウェットの上下という服装には緊張感の無さが感じられた。女性患者がこの男性に一緒に診察室に入ることを許していることから考えると、二人はかなり親密な仲にあるらしい。診察の様子を近くで見ることを許容する関係はただの友人とは思えない。
おそらく二人は付き合っていて、肉体関係もあるのだろう。なぜ、こんな野暮ったい男とこの美人が付き合っているのか、余計なお世話ながら胸の内に腹立たしさが頭をもたげる。
「深井さんの友人なんですね。名前を聞いてもいいですか」
私は、男性に再び問いかけた。
「私は、西沢です。西沢佑樹(ゆうき)といいます」
ふと、なぜ二人が私のクリニックに来たのかという疑問が浮かぶ。少なくとも女性の方は初めての来院だ。私は、問いを重ねた。
「西沢さんは、以前ここに来院したことは、ありますか」
西沢佑樹は、自分がここにいることの正当性を説明しなければならないと思ったのか、聞いていないことまで話し始めた。
「いえ、こちらに来たのは初めてです。こちらにうかがったのは、彼女の大学の友達が、…その子も風邪だったんですけど、熱が上がって先週このクリニックで診ていただいて、それで…」
西沢はそこで言葉を止めた。何か言いづらいことでもあるのだろうか。彼は少し逡巡した後、再び口を開いた。
「それで…こちらで注射してもらったら、すぐ良くなったという話を聞いて…」
「先週、このクリニックで?」
私は訊いた。
「ええ、こちらで注射してもらったって…、石川さんっていう子なんですけど…」
その名前には覚えがあった。その女子大生は、たしか石川友梨亜(ゆりあ)という名前だった。美人という程ではないが、目が大きく、茶髪をショートカットにした精悍な容貌には野性的な魅力があった。その締まった体つきやきびきびした動きは、何かスポーツをやっているのではないかと想像させた。
西沢の言葉どおり、その患者、石川友梨亜が風邪の症状を訴えて来院したのは先週のことだ。そして確かに、患者は治療のために若い体に1本の筋肉注射を打たれた。…私の手で。
彼女の身長は成人女性の平均値に近い157cm。やや細身ながらウエストがくびれたメリハリのある体型であり、下半身はぴったりフィットしたチェック柄のレギンスパンツで包まれていた。
診察室に入ってきた石川友梨亜は、備えられている脱衣カゴに自分のバッグを入れるため、向こうへ振り向いた。その後姿に目をやると、一対のスリムな太腿の上に続く部分でパンティラインが浮き出たレギンスパンツは二つの半球状に膨らみ、尻の形をはっきり現していた。グレーのチェック柄を間延びさせている膨らみは、細身の体型にはやや不釣り合いなほど大きかった。
その若さに満ちた張りのある尻の形を見た時、まだ診察の前ではあったが私の中ではすでに筋肉注射が治療の第一選択肢となっていた。
診察が終わり、シャツのボタンをはめて衣服を直している患者に、私は努めて事務的に告げた。
「石川さん、熱が高いので今日は1本だけ注射しますね。お尻に筋肉注射を打ちます」
私の言葉を聞いた患者の顔にはまず不思議そうな表情が、次いで戸惑いの感情が浮かんだ。尻に注射されることは想像していなかったらしい。しかし、看護師が薬剤を充填した注射器をトレイに載せて持ってくると、石川友梨亜は従順に医師の指示に従った。
「それじゃ、お尻を出してうつ伏せに寝てください」
私の言葉を聞いた患者は立ち上がってためらいがちに下半身の衣服を下げ臀部を露出させると、診察台にうつ伏せになった。
チェックのレギンスパンツと薄い黄色のショーツの下から姿を現した白い尻は、レギンスパンツの表面に浮き出した形そのままに、無駄な肉の無いきれいに丸い形状をしていた。女性らしい尻の丸みを創り出している脂肪層の下には、しっかり発達した筋肉の存在を感じさせる。もちろん、その形のいい尻に注射を打つのは看護師ではなく、医師であるこの私だ。
私は注射部位として、二つの尻の山のうち左側を選択した。消毒のため白くなめらかな肌をアルコール綿で拭きながら、聞いてみた。
「何かスポーツをしていますか?」
問いに答える石川友梨亜の声は、自分の尻に注がれている私の視線を意識してか恥ずかしそうだった。
「え、…今の大学ではやってませんけど、高校までバスケットをしてました。」
その答えに私は満足した。それならスリムな体型の割に尻の膨らみが大きいことも説明がつく。発達した臀部の筋肉は、バスケットボール選手の身体に良く見られる特徴である。まさに筋肉注射を打つために準備されたような尻だ。
「そうなんですね。どうりでスタイルがいいと思った。…じゃ、お尻の力を抜いてくだいね。ちくっとしますよ」
私はそう声を掛け、発達した中臀筋を狙って女子大生の丸い尻の上外側の部分に注射針を一気に深く突き刺した。その瞬間、女性患者はびくっと体を震わせ、野性的な風貌に似合わず甲高い悲鳴を発した。
「痛いっ」
かわいい声だ。続いて、私が注射器のピストンを押して薬剤を臀筋の内部に注ぎ込むと、石川友梨亜は辛そうな息を漏らした。
「ん、ん、ん…んんっ」
薬剤の注入が終わり尻から注射針を引き抜いた私は、同じ箇所にアルコール綿を押し当て、弾力のある尻の感触を確かめながら念入りに揉んだ。
「注射、痛かったですね。今日の治療はこれで終わりです」
私の言葉に彼女がゆっくり立ち上がりショーツとレギンスパンツを引き上げている時、悲しげな大きな目に涙がたまっていたのが鮮明な記憶として残っている。
「…その注射がすごく良く効いたみたいで、結構痛い注射だったみたいですけど、熱もすぐ下がって元気になったそうなんです。…だから、痛くてもそんなに良く効く注射だったら、彼女も…深井さんもこちらで注射してもらったら、すぐ良くなるんじゃないかって、二人で話して…。なんか最近は、注射してくれる病院が少ないみたいですし…」
話し続ける西沢の口からは「注射」という単語がやたらと出てきた。話し始めてからの回数はもう7回になる。それは不自然なほど高い頻度だった。私は、話を聞いているうちに彼がこの医院に来た目的が次第に飲み込めてきた。
先週来院した石川友梨亜から注射された話を聞いたのなら、当然、それが尻への注射だったことも聞いているだろう。だとすれば、同じ風邪の症状でこのクリニックに来院し治療を受ける場合、深井朱里も尻に注射されることは予想できるはずだ。いや、それは「予想」を超えている。西沢の話には、私の治療を注射に「誘導」しようという意図が透けて見える。それも臀部への注射を前提とした話だ。
つまり西沢は、自分の彼女である深井朱里に臀部への注射を受けさせるという目的のためにこのクリニックに来院したのだ。そう考えると、なんで彼が診察室まで深井朱里について来たのか、それも明白になる。友人の石川友梨亜が体験したように診察台にうつ伏せになり尻に注射を打たれる自分の彼女の姿を、その目で見たいと考えたのだろう。
深い関係にあると思われる二人だから、西沢は深井朱里の尻に限らず身体のすべての部分を何度も目にしているはずだ。それなのに、なぜ西沢は、自分の彼女が臀部に注射される姿を見たいと思ったのか。その理由も私には推測できた。
彼女の友人が注射された話を聞き、その姿を想像しているうちに、きっと西沢は若い女性のふっくらと丸い臀部に注射針が刺され、その内部に注射液が注入される様子を直接見てみたいという欲求に駆られたのだ。しかし、それは日常生活からは隔離された医療機関の内部、しかも特定の部屋に入り込まなければ目にすることができない。
その後、自分の彼女が風邪にかかった時、西沢はチャンスと考えたに違いない。すなわち、深井朱里が尻に注射されるのを間近で見るチャンスだと。
一度胸の内で沸き起こった欲求を抑えられなくなった西沢は、自分の彼女にこの医院で治療を受けるようにうながし、自分が付き添いとして一緒に行くと主張したのだろう。彼は若い男にありがちな性的な好奇心を満たすために私のクリニックに来たのだ。その邪な考えに気づいた私は、一瞬、西沢を診察室から追い出そうと思った。普通は、家族でもない者が診察に付き添うのを許可することはない。
しかし、その時私の脳裏には別のプランが浮かんだ。そのプランを思いついたきっかけは、饒舌な説明を続ける西沢の声に起こった変化だった。彼の声は、話し続ける間に次第に嗄れてきた。その声には生来のハスキーボイスとは違った響きがあり、西沢にも話し続けることの苦しさがうかがわれた。私は尋ねた。
「のどが苦しそうだね。痛いの?」
西沢佑樹は、返事に困ったように言いよどんだ。
「え、いえ、そういう訳でも…」
しかし、その声は明らかに先ほどよりかすれている。私は診察器具の舌圧子を手にすると、すかさず言った。
「ちょっとのどを診させてもらうよ。口を開けて少し上を向いてください」
西沢は、素直に口を開けた。舌圧子で舌を押さえ喉の状態を見る。案の定だった。
「これは、喉がだいぶ腫れてるね。いつ頃からですか」
そう聞くと、西沢は言いにくそうに答えた。
「昨日から少し…」
深井朱里の風邪がうつったのかも知れない。あるいは、西沢の風邪が深井朱里にうつったのか。この二人には濃厚な接触が想像できるから、そう考えるのは自然だった。私は看護師に指示した。
「柳沢さん、受付から問診票をもらってきてください。」
看護師は私の意図を理解し、すぐに受付に向かった。私は西沢に話した。
「あなたも風邪ですね。もしかすると深井さんより重症かもしれない。診察室に付き添いで一緒にいるのなら、西沢さんも診察を受けてください。今、問診票を持ってきますから、それに記入して、それから熱を測ってくださいね。」
「…はい」
この診察室にとどまりたいなら若い男は私の指示に従うしかない。私はまず深井朱里の診察を始めることにした。
「じゃ、最初に深井さんの診察をしますね。のどを診るので口を開けてくだい」
女性患者はぷくっと肉厚の唇を開いた。のどの痛みを訴えているだけに、扁桃腺が腫れていた。ただし、西沢より症状は軽い。
その時、受付から戻って来た看護師の柳沢が、西沢に問診票と体温計を渡し、必要事項を記入しながら体温を測るように話した。私は深井朱里の診察を進めた。
「今度は聴診器で胸の音を聞きますから、上半身の服を脱いでくだい」
女性患者がオレンジ色のトレーナーを脱ぎ、軽くたたんで脱衣カゴの中に入れた。意外にも、女性患者がトレーナーの下に着ていたのは薄い肌着1枚だけで、ブラジャーはつけていなかった。私は少し驚きながら看護師に診察のサポートを指示した。
柳沢が女性患者の背後に立ち、クリーム色の肌着を肩のあたりまで持ち上げると、その下から飛び出すように円錐形に近い大きな乳房がこちらに向かって突き出した。透き通るように白い乳房にはうっすらと青く静脈が這い、薄茶色の乳首がまるでこちらを見つめる二つの目のように私に対峙している。
職業柄、女性患者の裸体を見慣れているといっても、私は目の前の若い生命力にあふれた乳房に心穏やかではいられなかった。私は内心の動揺を隠し、豊かな乳房の周辺に聴診器を当てた。患者に向こう側を向かせて背中を指先で打診した時、白く柔らかな肌には吸い付けられるようなしっとりした感触があった。
裸の上半身はウエストがくびれ、乳房と腰回りの豊かさを引き立たせている。
私の思考は、目の前にいる男女の関係に向かった。深井朱里はすぐ隣に医師以外の男がいるというのに、自分の豊かな乳房をさらして平然としている。それはこの男女にとってこの状態が普通であることを意味していた。つまり西沢という若者は、この女性の瑞々しい身体を欲求がおもむくままに貪っているのだ。なぜ、深井朱里はそれを許しているのだろうか。もしかすると、男がこの女の身体に惹かれるように、この女も西沢の大柄な身体が持つ力に惹かれているのかも知れない。私は二人の若さに嫉妬を感じた。
私は次に西沢を診察した。彼が記入した問診票によると深井とは住所が違うから、二人が同棲している訳ではないようだ。ただし、二人が住むアパートは隣り合った町内にある。頻繁に互いの住居を行き来しているか、半同棲の生活を送っているのではないかと想像された。
西沢の体温は38.3度。深井の体温が37.9度だから、それより高い。裸になった彼の上半身は胸筋が分厚く腹筋がくっきり割れている。スポーツ歴を聞いてみると、男性患者は大学のサッカー部に所属していると言った。
深井朱里と西沢佑樹の診察を終えた私は、二つのことを決めていた。まず、深井朱里の治療については、西沢がこのクリニックに来た目的をかなえることにした。もとより西沢の意図とは関係なく、深井朱里のような若くスタイルの良い女性患者がここに来院した以上、私が治療方法として筋肉注射を選択するのは当然のことだ。今や病人の付き添いではなく患者の立場となった西沢には、深井朱里と一緒に治療を受けることを認める。
そしてもう一つ。家族でも医療関係者でもない西沢が深井朱里の治療に立ち会い、若い女性に注射の処置が行われるのを目の前で見るからには、彼に、その楽しみに見合うだけの代償を払ってもらう。
私は自分の決定に基づいて二人分の注射指示票に内容を記入し、看護師に渡した。指示票右上の四角には、当然、チェックが入っている。それから私は、二つの丸イスに並んで座る患者たちの方を向き、説明した。
「深井さんも西沢さんも風邪ですね。最近、この街でもだいぶ流行っているようです。二人とも、のどが腫れていて、熱も38度前後と高いです。今日はその治療として注射をします」
説明を聞いた西沢はやや早口で質問した。
「注射してもらえるんですね。あの、…注射はどこにするんですか」
勢い込んだ様子が期待の大きさを表していた。私は彼が望んでいる答を口にした。
「今日の注射は筋肉注射です。ですから、お尻に打ちます。深井さんも、西沢さんも、お尻に2本の注射を受けてもらいます。少し痛い注射ですけど我慢してください」
私の言葉を聞いた西沢のほおが赤らんでいく。彼の期待通り、これから深井朱里が尻に注射を打たれる様子をその目で見られると分かって、興奮がこみあげてきたようだ。しかも注射は1本だけではない。女らしい丸みを持った尻に注射針が刺され、注射液が注入される様子を2回見られると分かったのだ。それが興奮の度合いをさらに大きくしているのだろう。彼は自分が注射されることは気にかけていないようだった。
私は患者への処置を実施することにした。
「じゃ、深井さん。最初は深井さんに注射しますから、そちらで、お尻を出してうつ伏せになってください。」
私は振り返ってデスクの向こうにある診察台を視線で示した。深井朱里は友人である石川友梨亜の体験を聞いていただけに、自分も尻に注射されることは覚悟していたらしい。あまりためらう様子を見せずイスから立ち上がり診察台の方へ歩いた。
診察台に向かう患者の下半身がすぐ目の前を横切る。私は思わず息を飲むような衝撃を覚えた。深井朱里は足が長く尻の位置が高い。その尻の部分で、明るい青のジーンズは大きく膨らんでいる。そのボリューム感は、聴診器を当てた時に見た乳房の迫力を凌駕する。女性患者はすぐにそのジーンズと下着を下げ、私の前で尻を出すのだ。もうすぐだと分かっていながら、その瞬間が待ち遠しい。私も注射の処置を行うため、深井の後ろから診察台の近くに進んだ。
看護師の柳沢が、金属製のトレイを診察台近くの小テーブルに置いた。トレイの中には、深井朱里用の薬液が入った2本の注射器がおかれている。それから柳沢は一つ丸イスを診察台の足下の方に置き、西沢に声を掛けた。
「西沢さんも次にお注射しますから、こちらに掛けてください。」
その丸イスは、診察台の上で行われる全てをじっくり観察できる場所にある。西沢は、ゆっくり歩いて来てイスに腰掛けるとまた両足を大きく広げた。
深井朱里は、診察台の横に立ってジーンズのファスナーを下ろし、太ももの辺りまで引き下げた。その後、わずかにためらった後、水玉模様の白いショーツの横に両手を掛け尻の半分くらいまで下ろすと診察台にうつ伏せになった。
看護師がベッドサイドに来て、女性患者の腰を覆うトレーナーを少し引き上げ、尻の下半分を覆っているショーツを尻と太腿との境である臀溝が見える所まで引き下げた。私は、筋肉注射をする場合に臀部を全部出すように看護師を教育している。もちろんそれには、注射部位を正しく定めるためという理由がちゃんとついている。
看護師によって完全に露出された深井朱里の尻に、私は目を奪われた。
ジーンズの厚く固い生地に押さえつけられていた尻は、今、その束縛から解放されて本来の大きさと形を現していた。ジーンズの上から見てもその大きさは明らかだったが、目前にある生の尻はもっと豊かなボリュームを感じさせる。ヒップのサイズは優に90cmを超えているだろう。
しかし、私の目を惹きつけたのは大きさよりも、尻の形だった。
私がいつも診察台で目する日本人女性の尻は、一般的に言って、白人や黒人の尻に比べると扁平な印象を受ける。しかし、深井朱里の尻は希有な例外だった。ウエストの平らな面から急な傾斜を描いて立体的に丸く盛り上がっている。太腿との境界にはくっきりとした臀溝のラインを作り、左右の尻の山を隔てる臀裂は深く切れ込んでいた。尻の表面の肌は白くつややかで、見た目の印象は真っ白い二つの大きなボールだ。
容貌が北欧の女性を思わせるエキゾチックな雰囲気を漂わせているように、彼女の尻もグラマラスな白人女性の尻を彷彿とさせるフォルムだった。もしかしたら、本当にヨーロッパ系の血を引いているのかも知れない。
私は筋肉注射の処置を行うために多くの女性患者の尻を見てきたが、これほど肉感的な魅力あふれる尻を見ることは極めて希だ。その臀部に、私は医師としてこれから注射を打つのだ。考えてみると、この艶めかしい尻に注射を受けさせるために深井朱里を私のクリニックに連れてきたのは西沢佑樹である。私は初めて彼に感謝する気持ちになった。
私はアルコール綿を手にすると女性患者に声をかけた。
「深井朱里さん、最初にお尻の右に注射します。アルコールで消毒しますね。」
尻の右側上部をアルコール綿で拭く。揮発性のアルコール液は白い尻の肌を濡らして光らせた後、すぐに蒸発していく。辺りにアルコールの匂いが漂った。私はトレイの中から1本目の注射器を取り上げた。私の指示に基いて、5ccの容積を持つ注射器に3ccの目盛りまで淡黄色の液体が入れられている。先端に装着されているのは太さ21G、長さ38mmの針だ。私は注射器から空気を抜くために針を上に向けてピストンをわずかに押した。注射針の先端から一滴の薬液が針を伝い下りる。
その時、ごくりとつばを飲み込む音がした。女性患者の足の方に置かれた丸イスに座り、診察台で行われる処置を食い入るように見ている西沢が出した音である。分かりやすい男だ。
「ちくっとしますよ」
私は患者の柔らかな尻肉に左手の親指と人差し指を押し当てた後、その2本の指を開いて皮膚を伸展させると、そこに右手で注射針を根元まで一気に突き刺した。
大きな尻は長い注射針を十分な余裕を持って受け入れた。と思った刹那、針の刺入に反応して筋肉が収縮し大きな尻全体が波打つようにぶるんと動いた。私は親指で注射器のピストンを押し薬液の注入を始めた。患者は静かに動かず声も出さない。注射筒の中の淡黄色の液体はピストンに押し出され次第に減っていく。
すべての薬液を臀筋の中に注入し終えると、私は大きな白い尻から注射針を引き抜いた。その時になって、うつ伏せの患者はふうっと大きく息を吐いた。息を止めて注射の痛みを我慢していたのだろうか。アルコール綿を注射箇所に押し当てて軽く揉むと、患者の大きな尻はゆるやかに揺れた。
「1本目の注射、終わりましたよ。次はお尻の左に注射します。」
患者にそう告げた私は、ちらりと西沢の方を見た。瞬間的に私の目は若い男の身体に起こりつつある異変を捉えた。大きく広げた男の両足の間でスウェットパンツが部分的に顕著に膨らんでいる。柔らかな生地は棒状の形を作り、その下で身体の一部分が膨張していることを示していた。
驚くべきサイズだった。膨らみの長さは明らかに15cmを超え、見ている間も膨張は続いている。そのうち先端がスウェットパンツのウエストに達しそうだ。当然ながら、人間は身長が高いほど体の各部分も大きい傾向がある。しかし、西沢の身長が180cm程あると言っても、彼の股間に現れた部分の大きさは想像を超えていた。彼は私の視線に気づいたのか、両膝に置いていた左右の腕を不自然に股間の前で交差した。
無理もない。こんな艶めかしい女性の尻に注射が打たれる光景を間近で見たら、若い身体が反応するのは当然だ。そもそも、豊かなボリュームを持つ若い女の生尻を見ることだけでも、男の興奮を呼び起こすのに十分だ。しかし、その尻に注射が打たれる光景を目にすることはもっと特別な経験である。今、診察台の上では明るいオレンジ色のトレーナーとライトブルーのジーンズの間に、女性患者の丸く白い臀部だけが露出されている。それは筋肉注射、つまりその臀部に注射針を刺入し薬液を注入するという治療の目的のためだ。
注射針とそれが刺入される女性患者の臀部には正反対の性質がある。金属製の注射針は、硬質で冷たく、鋭く尖った先端を持つ。それに対して、臀部は柔らかく体温があり、大きなボリュームで滑らかな曲面を形作っている。無機質な長い金属針がブスリと深く突き刺され、臀部がそれに反応する動きを見せることで、患者の臀部の柔らかく温かい、そして何より命を持っている生体としての性質が際立つ。その様子を見ることが、単に女性の尻を見る以上の興奮をこの男に与えているのだ。
そして、生身の体に太く長い注射針を深く突き刺し、その針を通して体の奥にある筋肉層に薬液を注入する治療は、治療を受ける患者に大きな苦痛を与える。普段の生活の中では行われることのない、この理不尽にさえ思える行為は、医療という目的のためだけに正当化される。普通なら目にすることが許されない、若い女性患者の臀部に注射する医療行為を見ているという背徳感が、若い男の興奮をさらに高めているのかも知れない。38度を超える発熱も、まったく性的な興味の妨げにはならないらしい。
私は、自分が中学生の時に吉村厚子が医師によってお尻に注射されるのを目の前で見た際の衝撃と興奮を思い出した。それにしても、スウェットパンツを履いてクリニックに来た行動は彼の思慮の浅さを表している。身体にこんな変化が起こったら、ゆったりと柔らかなウエットパンツでは隠しようがない。
私は女性患者に目を戻した。目の前の丸出しになった白い臀部はもう1本の注射の処置を待っている。私は診察台の左側に周り、アルコール綿を手にすると豊かなボリュームを持った尻の左側上部を拭きながら患者に声をかけた。
「次は抗生物質を注射します。さっきより痛い注射ですけど我慢してくださいね」
金属トレイから2本目の注射器を取り出す。その注射器は1本目と同じ5ccの容積だが、中の注射液の量は多い。注射筒は5ccの目盛りいっぱいまで白濁した液体で充たされていた。私は再び針を上に向けて注射器のピストンを軽く押した。注射針の先端からわずかに注射液が飛びだす。
「ちくっとしますよ」
私はそう言うと、左手の親指と人差し指で尻の皮膚を伸展させ、38mmの注射針を根元まで刺した。今度もステンレス針の刺入に反応して臀筋が収縮し、尻の左側がぶるんと揺れた。
ゆっくりと注射器のピストンを押し、白濁した抗生物質を筋肉内部に送り込む。
「うっ」
その時、患者は診察台に上がってから初めて声を出した。思いのほか大きな声だった。私が親指でピストンを押し続けると、苦痛に耐えられなくなってきたのか、臀部の筋肉が緊張し、滑らかに丸かった尻の形が少し強ばった。診察台の上で左に向けられた患者の顔をうかがうと、目と口が強く閉じられ、苦痛で歪んだ表情をしている。美しく整った顔が注射の痛さに歪む様子に、私は愛おしさを感じた。
「いっ、…痛い」
女性患者は、今度は注射の痛さを言葉にした。
「痛いですね。もう半分お薬が入りました。もう少しで終わりますから我慢してください」
私はそう声をかけたが、深井朱里の口からは言葉にならない高い声がもれた。
「あ、あぁー、あぁ、あー、あー」
注射された薬剤が筋肉の中で甚だしい痛みを生じさせているのだ。私は途切れずに続く患者の切ない声を聞きながらピストンを最後まで押し切り、薬剤の注入を終えた。
「痛かったですね。注射、終わりましたよ。」
大きな尻から長い注射針を引き抜くと、そこから血液が流れ出て、白い肌の上で小さな赤い球になった。私はそこにアルコール綿を押し当てた。
私は空になった5ccの注射器をトレイに戻すと、1本目の注射の跡にもアルコール綿を置き、両手の人差し指と中指を当てて臀部の左右2箇所を念入りに揉み始めた。尻の強ばりは解け、優雅な丸さを取り戻していた。深井朱里のボリューム豊かな尻肉は軟らかな弾力に満ち、アルコール綿に置いた私の二本の指の動きに合わせて揺れた。
「良く我慢しましたね。」
私が掛けたねぎらいの言葉にもかかわらず、まだ患者の表情には苦痛が浮かんでいた。注射されている時に固く閉じられていた目と口はゆるんでいるが、注射が終わった今になって左の目頭から一粒の涙がこぼれ顔の表面を流れた。
私は患者の足の方向に目を向け、西沢の様子を見た。若い男が極度の興奮状態にあることは傍目にも明らかだった。
診察台の上で起こる全てを見逃すまいとするかのように、丸イスから前のめりに身を乗り出している。目を見開いた顔は紅潮し、鼻が膨らんで呼吸が荒い。何よりも、股間の膨らみが臀部注射の目撃が起こした本能的衝動の激しさを示している。膨らみの長さ、太さは先ほどよりさらに増し、ウエストのゴムの部分を持ち上げそうな勢いだ。
筋肉注射の苦痛に耐えかねて患者の口から漏れた辛そうな高い声、尻の白い肌の上に現れた鮮血の赤い色が、西沢の興奮をより強めているのだろう。
その時だった。柳沢看護師の声が診察室内に響いた。
「西沢さん、西沢佑樹さん。」
丸イスから見上げる男性患者の目を見ながら柳沢は言葉を続けた。
「西沢さんも、お尻にお注射2本です。」
その声はうわずっていた。柳沢のいつもの落ち着いた仕事振りを見ている私には、彼女の声に表れた緊張感は意外だった。
私は先ほど柳沢に渡した注射指示票で、西沢に対する筋肉注射は看護師が処置することを指示していた。私が女性患者の臀部に注射することを好むように、柳沢は男性患者、それも若くて筋肉質な男の臀部に注射することが大好きだ。彼女はその感情を口にしたことはないが、日頃のクリニックでの彼女の振る舞いや表情を見ている私には分かっていた。だから、西沢の臀部への筋肉注射の処置を柳沢に任せたのには、看護師としての精勤ぶりに対するささやかな褒美の意味合いもあった。
看護師は、小テーブルの空になった2本の注射が入った金属トレイの隣に、新しい2本の注射器が入っているトレイをセットした。それから診察台に視線を向け、私が女性患者の尻を両手を揉んでいる様子を見ると、西沢に言った。
「ベッドは使っていますから、こちらで注射しましょうか」
西沢は、股間の膨らみの前に不自然に両手を置いて立ち上がった。看護師は男性患者に、先ほど注射を準備したステンレスの作業テーブルの前に来るよう促した。
「こちらに立ってもらって、お尻にお注射しますね。台に手をついて少し寄りかかるようにしてください。」
柳沢のはずんだ声を聞けば、男性患者の臀部に注射できる機会を喜んでいることは明らかだった。体格が良く筋肉質の西沢は、彼女が注射する対象として最もふさわしい患者のはずだ。
男性患者は看護師の言うとおりに作業テーブルに向かって立ち、両手をその表面についた。
「お尻を出しますね」
看護師は、西沢のスウェットパンツの腰の部分に両手をかけ尻の下まで引き下げた。危うく、スウェットパンツの下のニットトランクスの前面から着衣を膨らませている体の一部分が飛び出しそうになり、西沢はあわてて右手で水色のトランクスの前の部分を押さえた。それでも、看護師は有無を言わせず尻が半分以上露出する所までニットトランクスも引き下げる。上部3分の2が露出された男の尻は大きく、スポーツで鍛えられた筋肉がたくましかった。大臀筋が良く発達しており、尻の外上側の部分には中臀筋の形が浮かび上がっている。顔の浅黒さに比較するとその尻は色白に見えた。
私はその様子を見ながら、深井朱里の尻を揉む手を止め、白い肌の上で赤紫色の点となっている注射痕に二つの注射絆を貼った。
「深井さん、これで注射は終わりです。服を直していいですよ」
女性患者はゆっくり上体を起こし、立て膝の姿勢で水玉のショーツとジーンズを引き上げた。二つの白い絆創膏が貼られたボリューム豊かな尻が衣服の下に隠される。私は、名残惜しい気持ちでその光景を見届けると、自分の机まで戻りイスに座った。
私は自分の席から西沢に対する処置を行おうとしている看護師の様子を見た。衣服を直した深井朱里も診察台に腰をかけて、立ったまま尻を露出した西沢を近くから見ている。
看護師は金属トレイから1本の注射器を取り出すと、目の前で掲げるように持った。その注射器を横目で見た西沢佑樹には動揺が現れた。彼の口から声がもれた。
「えっ…」
彼がうろたえるのも当然だった。柳沢が手にしている注射器は、さっき深井朱里に使われた注射器に比べると巨大なものに見える。その注射器の容積は20ccだ。深井朱里に使用した注射器は5ccだから、その4倍である。長さも太さも、さっきの注射器の倍くらいあるように感じられた。注射器の中には目盛りの半分、10ccの所まで透明な薬液が入っている。その太い注射器を掲げ持った柳沢は親指でピストンを押し、注射針の先から少量の注射液を噴出させた。
その注射針を見て私は少し驚いた。注射針と注射筒の接続部分、「針基(はりもと)」の色がイエローだった。その色は、さっき女性患者に使用した注射器の針基の色、グリーンと異なっている。針基の色は注射針の太さを示し、イエローは20G(ゲージ)、グリーンは21Gを表す。私は指示していないから、その20Gの針は看護師が自分の判断で選んだのた。
普通、筋肉注射には、23G~21Gの針を使用する。それらの針の外径は0.65~0.80mmである。Gの数字は小さくなるほど針の太さは反対に大きくなるから、20Gの針は、23G~21Gの針よりも太く、外径は0.90mmある。つまり、柳沢は通常よりも太い注射針を西沢の臀部に刺すつもりなのだ。20Gの注射針を刺入されたら、患者の尻には強い痛みが生じるだろう。
柳沢は勘の良い看護師でいつも私の意図を正しく理解し、指示したことを的確に処理する。その点ではとても助かっている。今回も、私が何も言わなくても、どういう意図を持って西沢に筋肉注射を打つことにしたのか感じ取ったようだ。
確かに私は、西沢の邪な好奇心と楽しみの代償として、それに見合った苦痛を与えようと、特に痛く量の多い薬剤を彼の臀部に筋肉注射すると決めた。それを見抜いた柳沢は、薬剤だけにとどまらず注射針も十分な苦痛を与える太い物を準備したのだ。私は、彼女の機転に感心すると同時に、可愛らしい顔に似合わないサディスティックな一面に若干の怖さを覚えた。
看護師は注射を右手に持ったまま、注射部位を探すように、左手の指で男性患者の尻の左側上部を何度か押した。男の尻には明らかに力が入っている。目の前で見せられた太く長い注射針が自分の体に突き刺されることへの恐怖が、尻の筋肉を緊張させているのだ。
「お尻を消毒しますね。」
柳沢は患者にそう声をかけると、アルコール綿で尻の表面を拭いた。
「お尻の力を抜いてくださいね。お尻に力が入っていると、注射針を刺すときすごく痛いですよ。」
依然として柳沢の声ははずんでいる。しかし看護師の言葉は、むしろ患者の恐怖心をかき立てたようだ。力が抜けるどころか、逆に臀部の表面に浮き出した筋肉の形は強ばりを増した。そんな強ばった尻の筋肉に20Gの針を突き刺したら、看護師が言う通り「すごく痛い」のは間違いない。しかし柳沢は、かまわず処置のプロセスを進めた。
「ちくっとしますよ」
看護師は左手で男性患者の左腰を押さえるようにつかむと、情け容赦なく右手で太く長い注射針を尻の中臀筋の部位にブスリと突き刺した。
「うぐっ」
尻肉に注射針が突き立てられた途端に、西沢は苦しそうな声を出した。太さ20G、長さ38mmの針を深々と刺された臀部に激しい痛みが生じているのだ。
「じゃ、お薬入れますね」
柳沢は患者の痛そうな声は無視し、注射器のピストンを押して薬剤の注入を始めた。尻の奥まで突き刺された針を通って、太い注射器から薬液がたくましい筋肉の中に送り込まれていく。
「う、うー」
立ったまま尻に注射されている男性患者は目を閉じ、また辛そうな声を出した。
「痛いですか?もう少し我慢しましょうね。」
看護師は薬液の注入を続ける。太い注射器の中の多量の薬剤は少しずつ減っていくが、全てが臀筋内部に注入されるには時間がかかる。柳沢は10ccの注射液をすっかり筋肉内に注入し終わると、筋肉質の尻から長い針を引き抜いた。
その痕から血がタラリとこぼれ出し、尻の表面を流れ下って3cm程の赤い筋を作った。看護師はすぐにアルコール綿を押し当て、圧迫止血をする。この太い注射針を刺入したら、注射痕から血液が流れ出るのもあり得る現象だ。
「ちょっと血が出たので押さえてますね」
看護師は30秒くらい、指が尻肉にめり込むほど強く押し、それからアルコール綿を外した。白い綿の表面には血液が赤い丸の形に残っている。看護師は血が止まったのを確認すると、尻の表面についた血の筋を別のアルコール綿で拭き取った。
「西沢さん、もう1本お注射しますね。今度はお尻の右に打ちます。少し痛い注射ですから頑張りましょうね」
患者にとって酷なことを伝えているのに、やはり彼女の口調は楽しげだった。
看護師は金属トレイから次の注射器を取り出した。それはやはり20ccの太い注射器で今度は白濁した薬液が10ccの目盛りまで入れられている。私が指示したその薬は、抗生物質の中でも特に強い痛みを注射された臀部に引き起こすものだ。柳沢は患者の後ろに立つと、尻の右側の上部をアルコール綿で拭き、患者に声をかけた。
「それじゃ注射します。ちくっとしますよ」
1本目の注射で強い苦痛を味わったことにより、臀部の筋肉は前にも増して緊張している。しかし、今回も看護師は、若い男の大きくたくましい尻に容赦なく太く長い注射針をブスッと根元まで突き刺した。
「ぐ、うぐ、ぐ…」
患者も1本目の注射針を刺された時と同じような声をもらす。
「お薬を入れます」
柳沢は注射器のピストンを押し込み、白濁した薬剤の注入を始めた。その瞬間、患者は叫び声を上げた。
「いてっ!いっ、いっ、いっ…痛い!」
目をきつく閉じている。その様子を柳沢は明らかに楽しんでいた。
「ごめんなさい、痛いですねー。病気を治すためだから、痛くても我慢しましょうね」
筋骨たくましい男に向かって、彼女は子どもをあやすような言葉を使った。看護師の慰めの言葉にもかかわらず、患者の口からは声が洩れ続けた。
「いてっ、いてててて…いー、痛い」
看護師はにこやかな表情で注射器のピストンを押し薬剤の注入を続けている。
「うー、うぅぅぅ」
男性患者のうめき声は止まらなかった。西沢佑樹は、若い女の臀部に筋肉注射が打たれる光景を近くで見る楽しみを味わった。彼は今、その代償を払わされていた。
診察台に腰掛けた深井朱里は、目の前で西沢佑樹が立ったまま尻に注射の処置を受ける光景をじっと凝視している。
柳沢は長い時間をかけて、太い注射器中の10ccの白濁した液体を患者の臀筋内に注入し終えた。
「はい、終わりましたよー。痛かったですね。我慢できましたねー」
そう言うと彼女は男性患者の右の尻から注射針を引き抜いた。また、注射痕からは血液が流れ出す。その量はさっきよりも多い。看護師はアルコール綿を押し当て止血した。血が止まったのを確認してから、流れ出した血が作った赤い筋を新しいアルコール綿を使って拭き取った。尻の表面を流れた血液の先端は、水色のニットトランクスに達していた。
「ごめんなさい。パンツにちょっと血がついてしまいました。後でしっかり洗ってくださいね」
看護師は患者の尻の左右にアルコール綿を押し当て揉み始めた。
「注射した所がしこりにならないように良く揉んでおきますね」
両手の人差し指と中指を揃え、尻の左右の注射箇所をグリグリ揉んでいる。筋肉質の臀部の弾力を味わっているのだろう。男性患者は尻を揉まれながら口を開けやっと安堵の息をついているようだった。
「はい、じゃ注射の痕に絆創膏を貼りますねー」
臀部を揉むのを止めた看護師は、2つの注射箇所に白い注射絆を貼った。
「お尻のお注射はこれで終わりです。服を直していいですよ」
その言葉を聞いた患者は、ほっとしたようにトランクスとスウェットパンツを引き上げた。
柳沢は診察台の足元の位置に置いていた丸イスを元の患者用イスの隣に戻し、二人の患者を最初の位置に導いた。
臀部への2本の筋肉注射の処置を受けた若い男女は、私の目の前にある丸イスに並んで座った。二人の顔には筋肉注射で与えられた苦痛の色が表れている。それぞれの尻の左右にまだ鋭い痛みを感じているだろう。深井朱里のふっくらした顔には悲しげな表情が浮かんでいた。西沢は顔をしかめ、うっすら涙ぐんでいる。彼が味わった苦痛は、彼の楽しみに釣り合うものだったろうか。
西沢佑樹に目を向けたまま視線を下げた私は、自分の目を疑った。二度までも臀部に太く長い針を突き刺され強烈に痛い薬剤を注射されたにも関わらず、若い男のスウェットパンツに浮き出した股間の膨らみは屹立した状態を保ったままだった。スウェットパンツの分厚い生地に棒状の形がはっきりと表れ、その長さと太さはむしろ注射される前よりも増しているようにさえ思える。上に向かう先端が向かって左側にやや傾いた棒の形は、長さが20cmくらいはある。そして太さは、彼に使用した20ccの注射器どころか極太の100ccの注射器クラスで、凶暴さを感じるほどだ。
スウェットパンツの表面に棒状の形を作り出している男の器官には、海綿体という名称の組織が3本、縦に走っている。男がある種の心理的または身体的な刺激を受けると、その組織に器官内の動脈から血液が流れ込む。組織のスポンジ状の構造は血液を吸い込んで膨張し、体の外に飛び出した器官の長さ、太さを著しく増大させ、同時に、内部に血液が充満した器官の硬度は高まる。それは、その器官が担う生殖という機能を果たすためのプロセスだ。西沢が臀部に筋肉注射を受ける前に始まったそのプロセスは、今もなお目の前で継続していた。
発熱も喉の痛みも、男性患者の性的エネルギーの発露に全く影響していなかった。この火山は、火口付近までマグマが湧き上がり、もはや噴火してそのマグマを吐き出さなければ鎮まりはしないのだ。 この膨らんだ生地の中にあるものこそが、深井朱里を惹きつけ、この男女の関係をつなぎ止めている理由なのだろうか。再び私は彼らの若さに嫉妬した。
私は二人の患者に向かって話した。
「今、症状を鎮めるお薬をお尻の筋肉に注射したばかりです。少し痛かったと思いますが、その注射の効き目のためにも、うちに帰ったらしばらくゆっくり休んで、安静にしてください。」
ただし、そう言いながらも、私はその言葉が何の効果も持たないことを意識していた。
今は二人とも神妙な顔をして私の言葉を聞いている。しかし、明らかに男は、今にも暴発を起こしそうな精神と肉体の昂ぶりを解き放つために、隣に座っている女の瑞々しくたおやかな体を必要としている。その体には男の昂ぶりに対応する器官が備わっているのだ。
中学生だった私が吉村厚子の尻への注射シーンを見た時、あるいは高校生の私が内科医院の処置室のベッドにうつ伏せになりながら、カーテンを隔てた隣のベッドでスーツ姿の女性患者が尻に注射される音や声を聞いた時は、体の芯が震えるような興奮を鎮めるため私は自分の手を使って自分自身を慰めるしかなかった。しかし、今の西沢には別の方法がある。
このクリニックを出たら、直ぐ若い男女は一緒に住まいに戻るだろう。それは女の住居かも知れないし、男の住居かもしれない。いずれにしろ、住居にたどり着き玄関のドアに内側から鍵がかけられるやいなや深井朱里のジーンズとショーツは脱がされ、西沢佑樹のスウェットパンツと血のついたニットトランクスは脱ぎ捨てられ、白い絆創膏が2か所に貼られた二人の大きな尻は再び明るい光の下にさらされる。
女の丸い尻の上の二つの絆創膏は注射の情景を男の脳裏によみがえらせ、その本能的な衝動をさらにかき立てるに違いない。当然、深井朱里のトレーナーと肌着はめくり上げられ、豊かな2つの乳房もさらけ出される。その後、尻の左右にまだ鋭い痛みが残る体で男女がどんな行為に及ぶか、火を見るよりも明らかだった。その状態はとても安静とは言い難い。
私の頭に、四つん這いの姿勢をとった若い女の後ろに突き出された丸い尻の映像が浮かぶ。その白く大きな尻には、左右の上部に小さな四角く白い絆創膏が貼られている。その両側から、男のたくましい手が指が肉に食い込む程がっしりと尻をつかんでいる。
もちろんクリニックを出た後の患者の行動を完全に管理することはできないし、それは医師の責任の範囲を超えている。発熱も喉の痛みも妨げにならないのなら、衝動にまかせた男女の行動を抑えるものはもう何もない。二人の患者とも病状は大して重くはないし、予想される行為に至ったとしても病状に懸念されるような変化はないだろう。
こうなることは、私が西沢に深井朱里の診療に立ち会うことを許した時点で定まっていたのだ。そう思った。
男のスウェットパンツの股間に浮き出ている太く長い棒状の膨らみを視界に捉えながら、私は、ついさっき見たばかりの深井朱里の白い尻のイメージを脳裏に思い浮かべていた。左右二つ並んだ大きく丸い尻肉の膨らみは、女性が持つ許容力と包容力の象徴のように思われた。
私が2本の冷たく鋭いステンレスの針を突き刺し合計8ccの薬液を注ぎ込んだ女の柔かな肉体は、次はその注射箇所から遠くない所に、性的興奮によって熱く充血し極限まで膨張し硬直した男性生殖器の侵入を深々と受け入れるのだろう。それも間もなくのことだ。侵入した男の器官は、熱いマグマをすっかり吐き出すまで動きを止めることはない。
自分の内部をいっぱいに満たした西沢佑樹の極太の生殖器官が猛々しく律動するのを感じながら、深井朱里は、先ほど診察台の上で注射を打たれながら出した高い声を、再びこのふっくらした唇の間から漏らすのだろうか。 女の高いあえぎ声は体内で律動する男の器官の動きに合わせてリズミカルに長く続くに違いない。
私は三度、二人の若さに嫉妬した。
「では、今日の診療はこれでおわりです。お大事に。」
私の言葉に、若い男女は立ち上がった。西沢佑樹は、自分よりはるかに小柄な深井朱里の背中に股間を隠すように彼女の後について診察室のドアへ向かった。西沢は両手を後ろに回し、尻の左右をさすっている。手が体の後ろに回されたことによって、何も覆うものがなくなったスウェットパンツの前面には、太く長い棒状の形がそびえ立つように浮き上がっている。
私は、すぐ近くに柳沢が息を潜めるようにじっと立っていることに気がついた。その顔は明らかに上気している。頬を赤く染めた女性看護師の刺すような視線は、若い男の股間に浮き出した長大な膨らみに真っ直ぐ向けられていた。
(終わり)