はじめてのおつかい
泣きたくなるような綺麗な夕焼けにみとれながら、保育園までの道を自転車でダッシュする。今日も家を出るのがギリギリになってしまった。在宅が増えて通勤時間がなくなった分、お迎えにも余裕がでるはずだったのについ、ぎりぎりまでやっちゃうのはもう性分だなぁ…とぼんやり考えながら力いっぱいペダルを漕ぐ。
長女が1歳の時から保育園に通い始めてはや5年。この春、長女は卒園を迎える。歩くのさえおぼつかなかった入園時、2階にあった1歳の部屋から毎日手をつないで階段を降りたこと。教室の入り口脇のちょっとしたスペースでお友達と追いかけっこをしていつまでも帰らなかったあの日。思い出す姿はとてもとても小さいのに、気付けば6歳、身長は120センチを越え言葉もずいぶん達者になってきた。(朝寝ぼけ眼で「おんぶしてー」なんて言われた日には丁重にお断りしてしまう。)
5つ離れて生まれた妹と同じ保育園に通うことになった1年前からはお姉さんらしさに磨きがかかり「妹ちゃん、こうだよ!」なんて得意げに披露する一方で「妹ちゃんばっかりずるい」と複雑な気持ちを口にすることも増えて、なかなか難しいお年頃。それにしても後ろに6歳、前に1歳を乗せて進む自転車はなかなかヘビーだ。
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保育園からの帰り道、明日の朝食用のパンを買い忘れていたことを思い出し「パンやさん寄ってくねー」と告げる。通い慣れた近所の小さなお店。ふと思い立って「ムスメちゃん、おつかい、してみる?」と聞くと一瞬止まってから「してみるー」との返答。
これはいい機会とお店の前で自転車を止め、お金を渡そうとしたらしまった、こんな時に限って小銭入れを忘れている。仕方ないのでpaypay払いでいこうと、スマホを渡す。神妙な顔つきでスマホをしっかり握りしめ、ドアをあける6歳。トレイをもち、パン屋のお兄さんと会話する様子をどきどきしながらガラス越しに見つめる母。お気に入りのバゲットをお兄さんにとってもらい、スマホでpaypayのコードを読み込もうとしたところでこちらを振り返り、戻ってくるムスメ。「ど、どしたの?」と聞くと、なんのことはない残高不足。すみません。急いでチャージするとぱっと店内にかけもどり、支払いを済ませて片手にバゲット、片手にスマホを持って無事凱旋。お店から出てきたときの、なんとも言えない、嬉しそうな笑顔。
「買えたよー」に続き「また明日もおつかいしてあげるよ」なんて少々生意気な言葉も飛び出したけれど、なんだかこちらも嬉しくなって「あら、おねがいしますー」と軽やかに返す。はじめてのお使いは100円玉を握りしめておとうふやさんかな、と勝手に想像していたのに、なんとpaypayデビューとは。思い描いていたものとは少々違ってしまったけれど、なんだかはじめてってやっぱりいいなーとホクホクしながら再び自転車のペダルに足をかける。
子育てをはじめて6年、全然しっかりした母ではないけれど、子どもはいつの間にか大きくなって、こんな風にできることも増えて。それはとっても嬉しいけれどちょっぴり寂しい。春からは保育園に行くのも妹ちゃんだけになる。だったら、このヘビーな道のりをもう少しだけ楽しもうかな。お家まではあと3分。少しだけセンチメンタルな気持ちで、ゆっくりペダルを漕いだ。