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シェフ交代事件

 事件、これは事件だ。平日の夕方4時、在宅での仕事の合間に夫が台所にたって夕飯の仕込みを始めている。野菜を刻み計量した水とコンソメと共にホットクックへイン。白米を炊飯器にセットしてタイマーセット。冷蔵庫を開けて残っていたエリンギとベーコンを発見すると刻んでバター炒めも完成。「よし、あとはフライ焼くだけ。今日お迎えいつもどおりだよね?」と聞かれ、内心の動揺を隠して「う、うんそうだね」と答えるわたし。。え、これってお迎えから帰ったらごはんできてるっていうやつ?内心の喜びを悟られないように心の中でちいさくガッツポーズをする。

 きっかけはオイシックスのお試しセット、だった。何の気無しに申し込んでみたキットが思いのほか美味しくて、毎日のメニューづくりにも疲れていたし我が家もそろそろこういうの使ってもよくない?と思いつくままに提案してみたのだった。いつもの通りの勢いでしょ、普通に作ればいいのにちょっと高くない?と話はじめから否定気味の夫に少し腹が立って「いやいやだからさ」とファイティングポーズを取ってしまったんだ。

 だって確かに作れば、いいんだけれども料理ってそれだけじゃないのよ。献立を考えてパルシステムとネットスーパーの注文して。仕事終わりに下準備して保育園へお迎えダッシュ、帰宅したら仕上げして食べさせてお風呂、寝る。もう私、いっぱいいっぱい。

「じゃあやってみてよ」という若干キレ気味の流れで、しばらく夫が夕食の担当になった、というわけだ。

 共働きの我が家のモットーは「フィフティフィフティ」。子育ても家事も半分ずつ一緒にやろうね、ということになっている、一応。もともと「食」にはとても興味があった私がなんとなく食事を担当することになって、新婚当時はいそいそと食事を整えてみたりもしたけれど、仕事が忙しくなるにつれ外食も増え、子どもが2人になってからは本当に毎日を過ごすのが精いっぱい。ホットクックやヘルシオウォーターオーブンといった素晴らしい家電に支えられてなんとかこなしてきたけれど、楽しみだったはずの料理がいつの間にか義務になっているのがとても残念だなぁと思っていたところだった。本当は「今日は何つくろうかなー」と考えながらぶらぶらと商店街を歩くのが大好きだったのに、買い物さえも十分に楽しめなくなっていた。今思えば、余裕がなかったんだろうな、と思う。

 やってくれるからには文句は言うまい、と心して囲んだ食卓は思いのほか美味しくて(ホットクックさまさま&夫の底力が嬉しいサプライズ)、そして何より自分の心がゆったりとしていていつもの10倍くらい食事を楽しめた。洗い物も(食洗器にいれるだけなんだけれども)「よろこんでー」なんて心持になってしまい、ワインを片手に微笑みながらキッチンに立つなんていつぶりだろう。

 冒頭シェフ、なんてたいそうなことを書いたけれどいやいやこれって、給食のお当番みたいなものかも、とほろ酔いで一人うなづく。順番に、無理なくやっていけばいいんだ。誰に強制されたわけでもないのに、食事は妻が作らねば、なんて思っていた自分を少し恥じる。なにを一人で頑張ろうとしていたんだろう。

 そうして当番を交代して3ヶ月。目下、夫は子どもの「ぱぱのごはんは美味しい」という笑顔に支えられて夕食作りを楽しんでいる様子。一番のモチベーションは好きな時に好きなメニューが食べられることなのかもしれないし、もともとの研究熱心な性格が顔をだし「究極の麻婆豆腐」みたいな完成品を目指して日々研究をつづけるのも楽しそうでこれは素直に尊敬。次はこれ作ってみようとおもうんだよ、なんてレシピ本を手に取って子どもたちと話し込んでいることもしばしばだ。我が家はしばらくは、この体制で様子見となりそうだ。

 いつか「代わって」となる日がくるかもしれないけれど、給食のお当番なら、いつでもやりますよーと気持ちは軽い。そうそう、正解なんてなくて、こんなふうに、自分たちでいい形を探していけばいいんだった。無理して我慢しなくてよかったんだなー。今週末は久しぶりにゆっくり商店街で買い物に出かけよう。八百屋さんとお話するの、楽しみだな。気持ちも軽やかに、今日も一日が終わる。

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