読書記録・2010/07/11「傷は絶対消毒するな」を読んで

2010年7月11日
夏井睦著、「傷は絶対消毒するな」を読んで
今回の本で常識だと思っていたことが覆された。世の中には嘘がまかり通っている。安全だ、本当だと信じていたものが、実は人間に害を及ぼすものであったりする。すべてのものを簡単に信じてはいけない。巻き込まれないためには、判断するための目を養うこと、科学の目を養うことが大切だ。
常識とされていることは、真実であるかどうかは関係なく、皆が信じているということだけが問題なのだという。この、その時代の人々が皆、正しいと信じていたことをパラダイムといい、科学的根拠に基づいて行われていると思われた現代の医学は、パラダイムの集合体だと著者は言うのだ。
著者は形成外科医であり、創傷治療のスペシャリストだ。現在、傷を治療する際にとられている方法は、傷を消毒する、傷にガーゼを当てて乾かすという治療法である。著者はこの治療法が科学的根拠のない単なる風習に過ぎないことに気がついたという。医学の基礎研究の分野では1960年頃から傷が治るメカニズムが解明されてきており、著者は10年ほど前からそれに沿った治療に取り組み「傷の湿潤治療」として確立させた。傷は決して消毒してはいけないし、乾かしてはいけない。なぜなら消毒して乾かすことは皮膚再生を妨害する行為だからだ。消毒薬は細菌を殺すために利用しているが、これは、細菌のタンパク質を変性させる作用によって殺菌している。人間の細胞膜もタンパク質でできているのでそれも破壊してしまうのだ。さらに、傷はそこから出てくる滲出液によって細胞を成長させ傷の修復を促しているため、乾かしてしまうと傷の治りが悪くなるのは当然のことであるという。しかしながら、現在のパラダイムはいまだ「傷は消毒して乾かす」というものであり「傷の湿潤治療」は少数派でしかない。
そのほかにも、タンパク質を変性させ、油分を分解する作用のある界面活性剤入り軟膏が一般的に使われている。私たちが普段使用しているローションやクリーム、シャンプーなどにも界面活性剤が含まれていて、人間の皮膚に必要不可欠な常在菌を除去してしまっているという事実があるのだ。
著者がもつ命題は、医学はどこまで科学に迫れるのかという問題であり、同時に科学的志向で医学の諸問題をどこまで解決できるかという挑戦でもあるという。
これを実現するためには、基礎科学の法則を根底に据え、様々な問題点の本質を明快にし、医学の理論を再構築するしかないというのが著者の考えだ。
私はこの部分が非常に重要だと感銘した。これは医学の分野だけでなく生活、情報、すべてのことにいえることだ。基礎科学の法則を理解していれば、科学的にものごとを考え、自分の力で判断できる。
これからも、正しいとされている常識がどんどん覆されていくだろう。時代によって、人々が信じるものは変化するし、科学それ自体も進化していくだろう。
このことを前提に、判断する力をつけていくことが大切だ。
田畑智美

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