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生きてるうちに、地中海でどうしても暮らしたくて【日本→マルタ】

絶対的に、今までの旅と違う、という確信を持ちながら歩いていた。地中海。ずっと憧れていたようで、ずっと長く滞在するのをどうしてだか避けていたような。

「死ぬまでに行きたい」なんて言ったら大げさだけれど、行きたさすぎて、行ってしまったら「次に生きる目標」を見失ってしまうくらいの怖さがあって。

そうそう。そういえば昨年、私が「人生で最も行きたい場所」だと考えていたあの土地。名前をペルー・マチュピチュという。そういう遺跡に、たった一人で向かって、丘の上で風に吹かれて、遠い昔に想いを馳せた記憶がある。


「もしかしたら長く生きられないかもしれない」。昨年、そういう心配を一瞬でも抱いたことで(一瞬だった)、私の毎日は少しずつだけれど色合いを変えた。そういう風に考えていた、昨春とか、昨夏とかの出来事。

「次に行くべき場所は、マルタ島とイタリアのシチリア島だと想う」。

たとえあの不安が一瞬だったとしても「じゃあ、行かないと後悔してしまいそうな場所はどこか?」と考えることはやめられなくて。考える間もなく浮かんだ場所が、やっぱりその小さな、地中海の島々だった。

口から出た言葉と音は、いつか自分の耳に向かって届いて、そして言霊となって魂に宿る。「いつか、シチリア島かマルタ島に住みたいんだよね」。今まで幾度となく質問をもらう度に、答えていたその地名。地中海。

シチリアは、村上春樹さんの紀行本『遠い太鼓』の舞台だった。大好きな雑誌『Figaro Voyage』の印象的な特集でもあった。(その雑誌は、結局2冊買って今も大切に実家の部屋に飾ってある)。

マルタ島は、高校生の頃のあの思い出。ねぇ麻衣、まだ覚えてる? 大人びた思考を持った私の大切な友だちの親密な。相手の人が、突然「マルタ島に留学に行きたいんだよね」と旅立った先。数ヶ月間、すっぽりと消えた彼。

「どうして、マルタ島?」「というか、それ何処?」まだスマホなんてなかった時代だから、私たちはたしか、小さな地図でも広げたんだと思う。青い海と、世界遺産に溢れる美しい小さな島がそこにはあって。


あのマルタ島。いま歩いている、と私は想う。

潮風に吹かれながら、エメラルドグリーンに輝く海を視界の端々に感じながら、遺跡のかたまり。イタリアの隣、ギリシャがまるで見えそうな。世界で一番恋しい景色をしているクロアチアまで、ひょいとジャンプでもしたら届いてしまいそうな。地球で多分一番愛しているイスラムの気配あふるる、モロッコのそこここ。チュニジアの白い街々まで。

「どんな街並みをしているんだろう?」。到着したばかりの私は、歩き回る。時折は誰かと、時折はひとりきりで。どうしてだか私は、時々「黙っていたい」と感じる時がある(人なんて、きっとみんなそんなもんだと思うけれども)。

「言葉をためたい」。だって、そもそもがおしゃべりだから。口に何かを話させるより、指先が紡ぐそれの方が、どうしたって本当は心に近い。思ってもいないことを音に出すより、祈りのような文字の並びを、真っ白なキャンパスに連ねてゆけたら。

マルタはそれに、うってつけの街のようだった。「美しい」それ以外の言葉って、この街には果たして必要なのかしら。

坂を登って、坂を下って。街を歩いて、家まで帰る。たった3週間。されど3週間。私はマルタ島の丘の上にある、背伸びをしたら海が見える、プール沿いの、まるで遺跡のような。きっと遺跡なんだろうと思わせる風貌の、元リゾートホテルとの噂の語学学校に通っていた。

8人が暮らせるフラットの、個室の一室。近所の「GREENS」に買い物に行って、セントジュリアンの街まで散歩をして、ときおりバレッタまで出かけて、おいしい獲れたての海鮮をパスタだとかフリットだとか、お刺身だとかでいただく。海を見て、風に吹かれて、坂を登ってやっぱり下りて。どこからでも海は見える。地中海だ、と私は想う。これが毎日。いまの日常。

そうやって人生のひと時を過ごしてゆく。目指したい場所は一体どこだろう? けどまずは、日本語ではない言語を、きちんと操れるようになりたい。

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伊佐 知美
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