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1on1だけでは足りない?組織開発の重要性を問い直す

こんにちは!MIMIGURI代表Co-CEOのミナベです。私たちは多角化経営に関する研究とコンサルティングを専門としています。今回はその中でも、私たちが得意とする方法論である、組織開発(OD:Organizational Development)についてお話ししますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです!

組織開発には様々な定義がありますが、今回は私たちが研究対象とし、実際のコンサルティングでも活用している「対話型組織開発(Dialogic Organization Development, Dialogic OD)」についてご紹介します。

対話型組織開発とは?
対話型組織開発(Dialogic Organization Development, Dialogic OD)は、組織開発アプローチの一つで、組織内での対話を通じて、組織文化のアンラーニング、関係性の課題解決、組織の求心力向上など、より深いレベルでの変革を促進することを目指しています。具体的には、「集団」で集まり、組織内でダイナミックな対話活動を行う仕組み作りに取り組むことが含まれます。

なお、著書「問いのデザイン」では、大企業や集団における組織開発実践事例をもとに、組織開発施策の課題設定をどのように効果的に進めることができるのかについて説明されています。そちらも是非合わせてご確認ください。

個別対応では解決しきれない問題

最近、1on1は組織内で広く受け入れられ、特にスタートアップやテック企業で重要な手法となっています。さらに、コーチングの導入など、その効果を向上させる取り組みも増えています。私自身も1on1の価値実感から普及提案を行っています。

しかし、1on1が確かに重要である一方、組織の課題や問題を解決する上で、1on1だけでは十分でない場合もあります。すなわち、「集団」で生じる問題には、個別対応の1on1では取り組みが難しいのです。

1on1で解決できること:
・個々の問題や悩みに対応する
・上司と部下間のコミュニケーション改善
・個人の目標設定や評価に焦点を当てる
・個人の育成支援を通じたフィードバックやコーチング

1on1で解決できないこと:
・組織全体の文化浸透やアンラーニング
・チーム単位同士のコミュニケーション不足の解決
・組織全体のビジョンや戦略の理解促進
・大規模組織での組織全体のモチベーション向上

規模が数百人から数千人、さらに数万人へと拡大すると、1対1の質を向上させるだけでは組織の課題解決に十分対応できず、また小規模組織のように全員で対話を行うことも困難になります。さらに、人数の増加に伴って集団ネットワーク性が生じるため、ネットワークそのものにアプローチしなければ問題解決が達成されません。このような集団特有の問題に対処するために、対話型組織開発の手法が組織全体で取り組むべき重要な方法となります。

集団の問題を解決する、組織開発

小規模なスタートアップ企業では、全社員が集まって合宿を開き、理念を再確認したり、重要な議題についてディスカッションしたり、ロードマップを作成するために意見を出し合ったり、チームの問題点を見つけ出したり、意思決定の前提を確認しあったりすることがあります。これらの活動は、対話型組織開発の一例と言えます。

こうした取り組みには、成果や重要性を実感できると思われますが、問題は「人数が増えたときにどのように対応すべきか」や「価値観が多様化した場合、どのようにファシリテーションすべきか」といった疑問です。組織規模の拡大と共に難しさが急激に増し、集団対話を諦めることもあります。その結果、1000人程度になった時には気づけば、組織の一体感が多いに失われるケースが多く見られます。

タイミングが見逃されがちですが、組織の成長において300~1000人規模の段階で明らかなパラダイムシフトが発生するため、この時期以降が組織開発手法を導入する適切なタイミングと言えます。

組織開発活動の効果を引き出すために、長年にわたって各所で理論開発が進められており、大規模集団でも小集団のような対話を通じた成果創出が可能になりつつあります。国内ではまだ組織開発が十分に認知されていない状況ですが、MIMIGURIでは集団を対象とした組織開発に取り組んできました。

以下では、MIMIGURIが実際に手がけた「対話型組織開発(Dialogic Organization Development, Dialogic OD)」の具体的な実例を紹介して、そのイメージをお伝えします。

組織開発事例①資生堂

大手化粧品メーカーの資生堂が、2020年に向けて「TRUST 8」という行動指針を新たに策定しました。2018年当時、役職や職務、国籍も異なる世界中の資生堂グループ社員4万6千人に対し、その行動指針や組織ビジョンを浸透させるため、各部門・事業所単位でワークショッププログラムを実施することとなりました。そこで投げかけた問いは、「もしこの8つの行動指針から一つ差し替えるとしたら?」というものでした。

大企業においては、経営シナリオやその実行に向けた指針をどのように浸透させるかは重要課題です。しかし、数万人規模の組織でも、年間を通じて実施できる充実したプログラムと、それを実行するためのファシリテーターを社内で育成する仕組みが整っていれば、対話型組織開発は運用可能であることが、このプロジェクトによって証明されました。

組織開発事例②NECソリューションイノベータ

NECソリューションイノベータ(以下、NES)は、NECグループの社会ソリューション事業を担う中核企業です。組織学習を「組織と個人が包含するシステム全体のルーティン変化」と位置づけた上で、事業開発に関する習慣変化を促すプロジェクトを実施しました。

新規事業を推進する際、適切な事業開発文化の構築は、両利きの経営で提唱されている「サクセストラップ(既存事業のルーティンにより圧迫され、新規事業に適応するための適切な行動習慣が生まれにくい現象)」を考慮すると、難しい課題であることが明らかです。

そこで、NESは事業開発に適した行動習慣の変革を実現するために、適切な行動指針の策定、実行能力の定義、対話型の人材育成プログラム、そして日常業務で活用できる知的資本データベースの構築を進めました。

組織開発事例③シチズン

創業100周年を迎えるシチズン時計株式会社は、過去100年間のデザインを振り返り、次の100年に残したいブランド・アイデンティティを定義する社内横断型インナーブランディングプロジェクト・CITIZEN DESIGN SOURCE PROJECTを展開しました。

本プロジェクトでは、ワークショップを通して創り手の一人ひとりが持つ"シチズンらしさ”の言語化と共有を行い、その成果と全社アンケートで収集した意見とを合わせてテキストマイニングなどの手法で解析。その後も対話を重ね、最終的に6000にも及ぶ過去モデルからデザイン・ソースを抽出し、"シチズンらしさ”を体現する12のカテゴリーと100のモデルを選定しました。

らしさを抽出する対話で、理念浸透を行うことは、対話型組織開発でも核になる手法といえます。本プロジェクトはAXIS増刊号でも巻頭にてご紹介されております。ぜひチェックしてみてください。

組織開発事例④MIMIGURI

最後に弊社自身の事例をご紹介いたします。弊社はフルリモート勤務ではありますが、「対話型組織開発(Dialogic Organization Development, Dialogic OD)」の手法を組織習慣に取り入れることで、文化維持と変容促進を実践しています。

まず一つ目の取り組みとして、社内放送局をご紹介します。これは限定的な有志による活動ではなく、全社規模で取り組んでおり、様々な視点からの放送が毎日行われています。オフィシャルな内容だけでなく、特定の部門や個人を主題にした放送もあり、さらに自己開示的なプライベートな話題も含まれています。

フルリモート勤務のデメリットとして、表面的で機能的な情報だけが共有され、他者との人間的な交流が減少し、協力的な文化が失われることがあります。しかし、このようなルーティンを組織の習慣に取り入れることで、人間的な対話が実現できることが証明されました。

次に紹介する取り組みは、毎月開催される全社会です。MIMIGURIでは、現行の経営戦略や現場部門での課題設定、個人の気づきなどを"わかちあう"ために、毎月全員が参加する対話の場を設けています。

全員が半日集まってオンラインでの対話はかなりのエネルギーを要しますが、組織全体として変化し続ける中で、外部環境に適応する変化や内部で蓄積された知識資本の共有、さらには関係性の構築は非常に重要です。私たちが異なる居住地、考え方、バックグラウンド、専門性などの多様性を持ちつつも、オンラインで相互に協力する組織を築いているのは、全員が全力でファシリテーションする機会があるからです。具体的な実践知についてはCULTIBASEでも紹介されていますので、ぜひご覧ください。

さらにご紹介したい前提事項として、MIMIGURIはもともと2つの異なる企業がM&A(経営統合)を通じて設立された企業であることをお伝えします。異なる企業が統合される際に最も問題となるのは、異なる組織文化や行動慣行を融合させ、新しい組織へと一体化させることです。

これらの課題に対処するためには組織開発以外では困難であり、組織全体を対象としたダイナミックな対話を通じてのみ変化を実現することができます。MIMIGURIは顧客の経営統合の際に組織開発をコンサルティングする経験はあったものの、自社でそのアプローチを試みることは挑戦でした。しかし、理論と実践を繰り返しながらアレンジを行った結果、通常よりもはるかに迅速に変革が促進されたという成果が得られました。関連する研究結果は以下のリンクでまとめられていますので、ぜひご覧ください。

また、誤解が生まれない様にお伝えしたいことは、すべての取り組みが完全に成功しているわけではなく、私たち専門家でさえも日々の葛藤を経験しながら試行錯誤を続けているということです。

我々の対話型組織開発の知見はまだまだ発展途上と感じています。自分たち自身の取り組みや顧客企業での実践、そして絶え間ない研究活動を通じて、より良い知見を提供できるように今後も努力し続けます。

なぜ組織開発は効果が得られるのか?

最後に、なぜ組織開発が現代の組織で効果を発揮するのか、簡単に説明して締めくくりたいと思います。

対話型組織開発の手法は、もともと戦時中に心に傷を負った兵士たちを癒すための集団カウンセリング手法として誕生しました。その文脈を引き継ぎつつ、企業という環境でさらなる発展を遂げているのが、対話型組織開発(Dialogic Organization Development, Dialogic OD)です。

対話型組織開発においては、ナラティヴアプローチが一般的に使用されます。このアプローチは、物語やストーリーテリングを活用して、心理療法、カウンセリング、コーチング、そしてコンサルティングなどの分野で幅広く採用されています。この手法では、言葉を他者に開いて繋がることで、自己認識を深め、気づきを促し、問題解決や自己理解の向上を目指します。よく比喩されることですが、対話型組織開発は東洋医療的とされます。

近年、経営者向けのビジネスコーチングが徐々に増えており、自己の日常の課題に気づき、それをアンラーニングすることで驚くほどの成果を得られるようになる事例が取り上げられ始めています。このアプローチを組織全体に展開するのが、ファシリテーションを通じた対話型組織開発と言えるでしょう。

長くなりましたが、ここまで組織開発についてご紹介差し上げてきました。もっとこのアプローチが一般的になるといいな〜と日々思っています。
もし対話型組織開発や、内部ファシリテーター育成のお仕事オファーがあればぜひMIMIGURIのサイトからお問い合わせください。

それではまた!



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