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組織デザインの「3つの基本構造」──機能別組織、事業部制組織、マトリクス組織について

組織デザインとは、分業と調整を設計し、両者を組み合わせながら組織を作っていく方法論のこと。その歩みは「分業」体制の構築、すなわち「組織構造を描くこと」から始まります。

それゆえ組織デザインのHowを学ぶためには、組織の基本構造を理解するところから始めねばなりません。

もちろん、これは「分業と調整」の一部である「分業」における最初の一歩。一度組織構造を描いたからといって、想像通りに組織が動くことはあり得ず、不断のリデザインが必須であることは念頭に置く必要があります。

とはいえ、「どのようなときに、どのような組織を作るべきか」という基本的な考え方は抑えておく必要があります。そこでこの記事では、①機能別組織 ②事業部制組織 ③マトリクス組織という、組織の3つの基本構造について解説します。

それぞれの構造について解説しながら、運営していく際のポイントや、組織構造を組み替える適切なタイミングまでお伝えしていきます。


組織の基本構造①:機能別組織

50人を超えると起こりがちな、機能別組織へのリデザイン

まず、最初に解説するのは「機能別組織」です。

簡単に言ってしまえば、機能別組織とは、「機能」ごとに部門が分かれている組織のこと。プロダクトをつくる開発部門があり、できたプロダクトを売る営業部門がある。財務管理や人事管理などの機能を含む経営管理部門が、その2つの部門を横断的にマネジメントする……このような組織を、機能別組織と言います。

とりわけスタートアップでは、組織規模が40〜50人ほどに達したとき、組織構造を機能別組織にリデザインする企業が多い印象があります。

機能別組織を選択するタイミングは、多くは事業がPMFしたタイミングと合致しますが、これには必然性があると考えています。

起業した当初は、資源や資本はほとんどなく、プロダクトの開発もこれからという状況にあると思います。そういった状況下での企業運営は、「とにかく試行錯誤を繰り返しながら、みんなで力を合わせてボールを拾い、課題を解決する」という方法によって、PMFに向けて事業価値を磨き上げていくことになります。

そうして無事PMFに達すると、今度はその事業価値を組織的再現性を持って生み出せる体制をつくることが必要になる。つまり、組織としてのPMFが必要になります。そこで選択される組織構造が、機能別組織というわけです。

またシンプルに、全メンバーが意識を共有することによって生まれるカルチャーだけで乗り切れるのは、組織規模が30〜40人が限界です。それ以上の規模の組織で同じスタイルを貫こうとすると、目線を合わせるためのミーティングだらけになってしまい、プロジェクトを推進するための時間が取れなくなってしまうでしょう。一説によれば、50人の組織においてミーティングなどの手段によって情報の対称性を保つためには、10人の組織と比較すると、10倍もの時間が必要だとされています。

だからこそ、組織規模が40〜50人を超えたあたりで組織を再編し、各部門の中で情報共有をしながら、部門ごとに意志決定ができる体制を整える必要があるのです。

この機能別組織は、その後の組織デザインの雛形にもなります。ここでしっかりと機能別組織をつくっておかないと、言い換えればここでしっかりと“組織PMF”を果たしておかないと、組織拡大後に負債として積み重なっていってしまいます

THE MODELやクロスファンクショナルなど、変わりゆく機能別組織の形

現代企業における機能別組織の形は、さまざまに移ろい、複雑化しています。

たとえば、昔ながらの機能別組織における「営業部門」は、プロダクトや業界ごとに第一営業部、第二営業部などと分けられ、それぞれが営業プロセスのすべてを担当するといった考え方でつくられることが一般的でした。一方、昨今は営業プロセスを「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」による「THE MODEL」という分業体制を敷く企業が増えています。

また、機能別組織では「営業部門には、営業担当だけが所属している」というイメージがあるでしょう。言い換えれば「機能別組織における部門には、単一の職能を持ったメンバーが所属している」と考える方が多いかもしれませんが、そうではない場合もあります

たとえば、エンジニアやデザイナー、プロダクトマネジャーなど、さまざまな職能を持ったメンバーをまとめたクロスファンクショナルなチームによるユニットで組織を構成している企業も見られます。この組織構造は、たとえば以前取材したSmartHRさんが非常に巧みに実践されていました。

こうした企業の存在は、単に機能ごとに分けて、部門やチームをつくればいいというわけではないことを示しています。重要なのは「いかに分割し、いかに組み合わせるか」。その分割と組み合わせをうまくデザインすることによって、機能別組織はその真価を発揮するのです。

組織の基本構造②:事業部制組織

事業多角化に伴って生じる、事業部制組織へのリデザイン

2つ目は、機能別組織と同様にポピュラーと言える「事業部制組織」です。

事業部制組織とは、複数の「事業部」を持つ組織のこと。プロダクトごとの「縦割り組織」と言えばイメージしやすいかもしれません。

事業部制組織が導入されるタイミングとして多いのは、2つ目の事業が必要になった時、すなわち事業多角化が起こる時です。

組織が50人から100人規模になったタイミングで組織を「機能別組織」へとリデザインし、その後一つ目の事業が成長し、次の柱となる事業を立ち上げる際に、事業部制組織に再編する……そのような流れが一般的でしょう。

組織の規模で言えば、150人から200人くらいになったタイミングで、事業部制組織への移行を検討することになるのではないかと思います。

事業部制組織は、完成された機能別組織の上に成り立つ

もちろん創業と同時に複数の事業を運営する場合は、いきなり事業部制組織をつくることもありえます。しかし、僕は基本的には機能別組織をつくってから、事業部制組織へと移行していくことをおすすめしています。

一般的に、「一つ目の事業をしっかりとPMFさせてから、二つ目の事業に投資すべき」と言われていると思いますが、組織デザインでも同じことが言えると思うのです。機能別組織のナレッジを構築しないまま新しい事業と組織を立ち上げてしまうと、プロダクトも組織も「どうしたらいいのかわからない」状態になってしまい、組織内に混乱が生じてしまうでしょう。

つまり、“最初の”機能別組織をうまく機能させ、事業の価値をしっかりとユーザーに届ける仕組みを確立した後、そこから得られたナレッジを転用する形で、二つ目の機能別組織をつくるべきだと考えています。

権限委譲とAll for oneの両立に向けて

事業部組織をしっかりとワークさせるためには、マネジメントの階層を作ることが必要です。

ただ、この時にただ業務権限の委譲を行うだけではなく、「事業多角化を通じた理念の実現」を実現できるよう、マネージャーたちを全社におけるリーダーとして育成することが重要になります。

各事業部がAll for oneの目線を持てるよう、経営層が全社課題に即して「なぜその事業に取り組むのか」のコンテクストを意識的に合わせたり、組織全体が適応・変容し続けるための価値観をつくりあげたり、施策ではなく問いに対して向き合い考える力を組織単位で練りあげたりすることが重要なのです。

またその際、いかにして事業シナジーを生み出すか、についても考えることが必要になるでしょう。

コーポレート部門の重要性

そして、事業部制組織において、重要になるのがファイナンスやHRなどのコーポレート部門です。

事業部が単一であれば、人事は一つの事業計画に基づいて人員計画を立て、採用や育成を進めれば事足りますが、事業部が複数になるとそうはいきません。同じことが財務や経理領域にも言えるでしょう。

事業部制組織に移行したとき、コーポレート部門は複数のラインをコントロールしなければいけなくなり、その難易度は一つの機能別組織を管理していた時よりも格段に上がります。しっかりと全体戦略を立て、それをブレイクダウンする形で、各事業におけるHR戦略やファイナンス戦略を推進していかなければなりません。

その際、コーポレート部門は、主に以下のような役割が求められます。

・ファイナンス/HRを軸にしたシナリオ(ロードマップ)を描くことを通じて、経営層をファシリテーションすること
・事業が自律的に推進なされるためのファイナンス/HR機能と全社のインフラとしてのコーポレート機能、すなわち「遠心力」と「求心力」を兼ね備えた組織の設計
・経営層と短/中/長期目線で対話を行うルーティーンの確立

だからこそ、事業部制組織に移行する際には、高い能力を持ったメンバーをコーポレート部門に配置することが、大きなポイントの一つになると考えています。

事業部制組織におけるコーポレート部門のあり方については、それだけで非常に奥深いテーマですので、より深堀りしたいという方は以下も参照にしてみてください。


組織の基本構造③:マトリクス組織

機能別組織と事業部組織をの掛け合わせであるマトリクス組織

最後に紹介するのは、組織デザインにおけるラスボスとも言える「マトリクス組織」です。

なぜラスボスかと言うと、特に設計の難易度が高く、軌道に乗せるためには、かなりの試行錯誤が必要になるからです。

マトリクス組織とは、端的に言えば、機能別組織と事業部制組織を掛け合わせた組織です。

マトリクス組織には「縦軸」と「横軸」があります。縦軸とは「事業」のことであり、ここだけを見れば、組織構造は事業部制組織と何ら変わりはありません。しかし、そこに「機能」という横軸が追加され、複数の縦軸と横軸の交点に、さまざまな部門がある。それがマトリクス組織の構造です。

各事業部の「サイロ化」を防ぐ

先程、事業部制は、基本的に「縦割り組織」だと説明をしました。そうすることによって、各事業部がそれぞれに事業部に個別最適化した意志決定を下せるようになることは事業部制組織の大きなメリットですが、そこにはデメリットも存在します。

それは、各事業部が「サイロ化」してしまい、各事業部が独立した会社のようになってしまいがちだということ。

こうなってしまうと、一度配属したメンバーを事業部を超えて配置換えをすることは難しくなってしまいます。さらには事業Aで構築されたプロダクト開発の知見が、本来なら事業Bにも転用できるはずなのに、組織が分断してしまっているために、それもできなくなってしまう。つまり、さまざまな資源が各事業部に最適化しすぎてしまい、調整が効きにくくなってしまうわけです。

本来であれば、全社戦略の実現や、個々のメンバーのポテンシャルを伸ばすためのベストな機会選択を実現するために、経営層で議論して協力しあう必要があります。しかし、事業部ごとがサイロ化してしまうと、それが難しくなってしまうのです。

こうしたサイロ化を防ぎ、組織改編やリソースの再分配をしやすくするために、縦軸(=事業部)を横断する形で「機能」という横軸を通し、「事業部×機能」の交点にチームをつくる。それが、マトリクス組織の構造であり、狙いなのです。

スモールチームの「意志決定の仕組み」をデザインする

しかし、「事業部×機能」の交点に組織をつくることによって、一つのチームに複数の「組織長」が存在することになり、意志決定が難しくなってしまいます。これが、マトリクス組織のデメリットであり、最大の課題でもあるのです。

ファイナンス部門やHR部門については、先に説明した事業部制組織においても、本社機能として独立的に存在しているケースが多いので、比較的意思決定が行いやすいでしょう。一方で、マトリクスで厄介なのが、マーケティング部門や開発系部門など、事業部の中に独立した機能として包括されがちな部門です。

たとえば、事業Aのマーケティングを担当するチームのマネジャーであれば、事業Aの責任者とマーケティング部門の責任者が「上司」となります。事業部制組織であれば、事業部長と話して、チーム運営の方針を決定すればよかったわけですが、マトリクス組織においては、事業部長とマーケティング部門の責任者のどちらともコミュニケーション取る必要が生じ、細かな調整を繰り返しながら意志決定をしなければならないのです。

これらを踏まえ、それぞれのスモールチームがいかにスムーズに意志決定を下せる環境をつくるかという点が、マトリクス組織の設計における大きなポイントになります。

この課題を解決するための、絶対的な方策はありません。それぞれの企業の中で細かな調整を繰り返していただく他ありませんが、組織として「どちらの軸を優先するか」を決めておくことは重要です。

たとえば、縦軸、つまり事業部を優先することを決め、日次ないしは週次で事業部長との目線合わせのための時間を取る。一方で、「機能部門」の責任者とは月次でロードマップレベルのすり合わせのみを行う、といったイメージです。

求められる、短期/中期/長期の3つの目線

最後に、マトリクス組織の運営においてきわめて重要なポイントが、企業が短期/中期/長期の3つの目線で価値再現性を創れる仕組みを設計することです。

短期目線というのは、機能別組織で実現してきた、現場で自律的に価値を創るシステムのことです。この方程式がセンターピンにないと、そもそも土台がないために組織増築ができません。

中期目線というのは、事業部性組織で実現してきた、事業計画を各自で実現しながら、収益改善と同時により価値が生まれるモデルのリデザインを実現すること。それらが各事業で自律的に実現されるように、コーポレートを含む各種投資システムや、事業ポートフォリオのマネジメントがうまくいくような全社モデルを創りあげることが大切です。また、その会社において重要視されてきた価値を生むための、知的資本(優位性)を見極め、それらを蓄積して各事業で活かすことも大切で、製品開発部門の知を蓄積し、それらを活かすことも重要です。

そして長期目線というのは、新たなる市場開発を志し、大胆な投資により「いま企業には存在しない価値」の創出を目指すということです。

つまり、マトリクス組織で求められるのは、全社的な視点を持った経営陣でダイナミックに話し合いながらも、現場のスモールチームの価値発揮を重要視して、さらに異なる時間軸を経営層で噛み合わせること。まさに経営の鳥・虫・魚の目の複眼が求められる、経営において歴戦の経験値を持った人材でも使いこなすのが難しい構造といえます。

機能別組織の導入を組織の「0→1」とすると、機能別組織から事業部制組織への移行は「1→10」にあたると言えます。そして、事業部制組織からマトリクス組織への移行は、「10→100」だと言えるでしょう。

マトリクス組織においては、少しでもバランスが崩れると、すぐに遠心力あるいは求心力が高まりすぎてしまい、事業多角化による理念の実現が阻まれていまいます。それゆえ以下記事で詳しく解説したように、「分散と修繕」戦略によって問いを常に変容させていきながら、「ワークショップ型組織」を導入して問いを磨き込み組織創造性を高め続ける必要があるのです。



本記事では、3つの「組織の基本構造」と、それぞれの特徴や移行のタイミング、そして設計の際の注意点などについて紹介しました。

今後もこうした難題への処方箋としての組織デザインにまつわる知見を、このnoteや、MIMIGURIが運営するオンライン学習プログラム「CULTIBASE Lab」、オンライン対話型学習プログラム「CULTIBASE School」にてたくさん蓄積・発信していきますので、ぜひチェックいただけると嬉しいです。


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