空いっぱいの気球に感動! 佐賀インターナショナルバルーンフェスタ
2018年にイギリスの南西部の街、ブリストルに留学していた。現地で知ったのだが、ブリストルは熱気球の街だった。成り行きで大学の熱気球部に所属することになったのだが、帰国する頃にはすっかり熱気球に魅了されていた。日本でも熱気球を楽しむことはできるのだろうか。
調べてみると、佐賀県で毎年、アジア最大級の熱気球イベント、「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」が開催されていた。今回は、気球の魅力とともに、2019年の佐賀インターナショナルバルーンフェスタの初日の様子を紹介したい。
気球を求めて、佐賀へ
佐賀インターナショナルバルーンフェスタは、佐賀県佐賀市にある嘉瀬川河川敷をメイン会場に、毎年10月下旬から11月上旬に実施される、熱気球の競技大会だ。2019年に開催された第40回の記念大会は10月31日から11月4日までの5日間、121機の熱気球が参加し、およそ90万人もの観客を動員した。2020年の大会は感染症の影響で中止、2021年は無観客での実施が決まっている。今のところ、2019年が実施済みの最新の大会だ。
会場の嘉瀬川河川敷は、普段はけっしてアクセスのよい場所ではない。しかし、大会期間中はJR長崎本線に臨時駅「バルーンさが駅」が設けられ、佐賀駅から2駅5分で河川敷直通になる。会場では、たくさんの熱気球の一斉離陸や、さまざまな競技のほか、気球ともっと間近で触れ合えるイベントも用意されていて、地上につながれた個性的なデザインの気球のカゴに乗ったり、ふくらましている途中のバルーン(球皮)の中に入ったり、夜にはバーナーでライトアップされた気球を楽しめたりもする。
熱気球の競技やイベントの実施は、天候に大きく左右される。安全に飛べないと判断されれば、その日の競技は中止だ。現に、2019年大会でも、いくつの日程で競技が中止になっている。下手をすれば、佐賀にまで行って、雨の降る河川敷を見つめて帰ってくることになりかねない。万全を期して、私は全日程分の予定を空けて大会前日に佐賀に乗り込んだ。その甲斐あって、全行程決行となった初日に心ゆくまで気球を堪能することができた。
むくむく気球が起き上がる、河川敷の朝
大会初日の10月31日、6:40に到着する始発でバルーンさが駅に到着した。その日は7:00から一斉離陸が行われることになっていた。
一斉離陸では、河川敷に設けられた「ローンチエリア」という区画の中で、たくさんの気球が同時組み立てられ、次々に空に舞い上がっていく。河川敷に着くとすぐ、威勢の良いバリバリの佐賀弁のアナウンスが耳に入った。放送席にいるのは、地元の気のいいおじさんだろうか。そう思っていたら、突然同じ声が流暢な英語でアナウンスを始めた。声の主は、総合司会のライオ・ランドリーさんだった。カリフォルニア生まれのランドリーさんは14歳のときに日本に渡り、佐賀弁を習得したのだというのだ。佐賀愛を体現したかのようなランドリーさんのアナウンスに包まれた会場は、どことなく温かい雰囲気だった。細かい観戦の規則も、ランドリーさんのアナウンスだとすっと会場に浸透する。地元のお祭りをみんなで盛り上げようという、手作りの楽しげな空気が会場全体に広がっていた。
一斉離陸を見学は、ローンチエリアの柵の外側からだ。地上でむくむくとふくらんでいくバルーンを見ていると、これが空をいっぱいにするのだと期待が高まる。人気の観戦場所は、ローンチエリアの対岸、川を挟んだ向こう岸らしい。ローンチエリアの近くから気球を眺めるのも捨てがたいが、やはり人気スポットからも見てみたい。
会場入り口付近からローンチエリアを横目に川沿いを進み、向こう岸へと続く嘉瀬橋を渡ろうとすると、20分はかかる。向こう岸に着く前に、パラパラと離陸が始まる。ローンチエリアはみるみる、むくむくの気球でいっぱいになり、ぱんぱんになったバルーンはするすると空に吸い込まれていく。
どうにか全機体が離陸を終える前に向こう岸にたどりつくと、心躍る光景が待っていた。朝の穏やかな川に、くっきりと映り込んだ色とりどりのバルーン。気球で満たされた空。そして日本の街並み。気球がとけこんでいく佐賀は、バルーンの街だった。
熱気球の行き先が、風任せだって知ってた?
▲競技の合間には、個性的なバルーン設置が
この日の午後には「フライ・イン」の実施が決まった。この競技では、河川敷のローンチエリアに大きな×印のターゲットが設置される。参加機体はこのターゲットを目指して離れた場所から飛んできて、気球のカゴの中から「マーカー」と呼ばれる重石をつけたテープを投げる。マーカーが×印の中央に近いほど高得点だ。
なぜこれが競技として成り立つのか。熱気球には、ハンドルもアクセルもブレーキもないからだ。熱気球にできるのは、バルーン内の空気を温めたり冷ましたりすることで、高さを変えることだけなのだ。上空の風はいくつかの層になっていて、高度によって違う風向きの風が流れている。特定の場所を目指すには、行きたい方向の風をつかまえられるよう気球の高度を調整し、風に運んでもらうしかない。ターゲットの近くに来ることができたら、熱気球のスピードや下の風向きを考慮しながら、マーカーを投下する。ぱっと見の印象よりも、知識と技術が必要な競技なのだ。
観戦のために、河川敷の階段に、太陽の方を向いて腰を降ろす。10月の午後の河川敷の日差しにじりじりと照りつけられ、まぶしさと暑さにめげそうになりながら、気球が近づいて来るまでひたすら×印を見つめる。
▲食事エリアでは佐賀の「うまかもん」が買える
観客に疲労と退屈の色が浮かんだころ、ようやく一機目の気球が視界に映る。これは、ローンチエリアに入ってきそうだ。しかも、かなりの低空飛行だ。ターゲットをねらえるかもしれない。会場の視線が、一点に集まる。気球はまっすぐに、×印へと吸い寄せられていく。観客を一気に期待色に塗り替えた気球は、ターゲットのほぼ真上に差しかかった。そして、マーカーがすっと真下へ差し出される。落下地点は×印のほぼ中央だ。
わあっと歓声があがる。興奮気味のランドリーさんのアナウンスに、大きな拍手が重なる。喝采をさらった一機目が遠のいていくころには、他の機体も顔を出し始めた。一機目と同じくターゲットの近くを低空で飛ぶ機体。やや高いところから、ターゲット近くですっと高度を下げる機体。遠いところから、なんとかマーカーだけでもターゲット近くに投げ込もうとする機体。マーカーを投げるのは諦めて、観客の近くを低めに通り、サービスに徹する機体など、アプローチはさまざまだ。最後には、観客の頭上はバルーンでいっぱいになる。
すごいものを見せてもらった。気球を見られた満足感も大きかったが、お祭りの雰囲気もすっかり好きになってしまった。臨時駅の設置、佐賀弁のアナウンス、佐賀の食べ物。街をあげて盛り上がりを見せるこのバルーンフェスタは、その気概がきっちりポジティブな雰囲気に昇華され、観客をもてなしていたのだ。今年が無観客開催になってしまったのは残念だけれど、いずれ再開されるときがきたら、また行ってみたい。そう思わせてくれるイベントだった。
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