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ロボット初心者の妻が、クレイジーおもちゃオタクの夫に腰を据えて話を聞いてみた

私の夫である池田明季哉(いけだ あきや)は、「クレイジーおもちゃオタク」を自称する、デザイナー&小説家です。所持しているロボットおもちゃは優に100を超え、自室の棚にはロボットがずらり。Twitterには大長編の自作のロボットおもちゃストーリーを投稿しています。

▲自作のおもちゃストーリー。読み切るのは大変な長さです。

さらに、Twitter上でロボットおもちゃの「非公式ファンイベント」まで主催して、最新では880機以上の写真投稿を集めるなど、かなりクレイジーなおもちゃ遊びを展開しています。

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▲非公式ファンイベント、大人のブンドド企画 ダイアクロン『トライヴァースコンペ3』の宣伝ポスター(自作)。デザイナーの力を存分に発揮。

そんな夫は、自分が『オーバーライト』という作品で小説家になることができたのは、おもちゃ遊びのおかげだというのです。

妻である私は完全なるロボット初心者。夫はなんだか精力的に活動しているけれど、正直なところ何をしているのかよくわからない。おもちゃと小説の接点もまるで見当がつきません。そこで、夫・池田明季哉におもちゃで何をしているのか、おもちゃと小説にどんな関係があるのか、じっくりと話を聞いてみることにしました。

「僕の中には、ユニバースがあるの」

——まず、肩書きがとても気になるんだけど、どうして「クレイジーおもちゃオタク」を名乗っているの?

もともとはTwitterのプロフィールのために考えた名称なんだよね。以前からおもちゃを含めていろんな話題をつぶやいていたんだけど、2020年に小説家としてデビューすることになったから、小説から僕を知ってくれる人も増えてきて。そういう人がいきなりおもちゃに関するツイートを目にしてもびっくりしないように、「クレイジーおもちゃオタク」とあらかじめ名乗ることにした。なんというか、自分でもクレイジーだってわかってるから、突然おもちゃについて熱く語り出してもあんまりびっくりしないでね、というメッセージです。

僕はおもちゃ遊びでストーリーを作るのが大好きなんだけど、それは一般からするとクレイジーな趣味のはず。でも、自分ではすごく豊かな遊びだと思っている。「クレイジー」 には、おもちゃ遊びが「変わっているけどかっこいいこと」になったらいいなという願いもあるよ。

——ストーリーを作るおもちゃ遊びはいつから始めたの?

3歳ぐらいかな。好きだったおもちゃは、トランスフォーマー(※乗り物などに変形可能なロボット玩具)、勇者シリーズ(※リアルロボット路線に代わる子ども向けのロボット玩具シリーズ)、ウルトラマンの怪獣だった。今も昔も一番好きなのはロボットで、当時からロボット自体をキャラクターに見立てて遊んでいた。

——キャラクターに見立てるというのは、おままごとみたいに時と場合によって役割が変わるの? それとも基本的には固定?

僕のユニバースでは、それぞれのキャラクターに単一の役割があって、どういう人物なのか決まっているの。たぶん意味がわからないと思うけど、頭の中にオリジナルのユニバースがあるんだよ。公式の世界観とは関連しつつも異なる、僕だけの設定や世界があって、持っているおもちゃはみんなその中の登場人物。だから、基本的に役割は固定ってことになるかな。

——待って、今うちの棚にダイアクロン(※小さなパイロットが乗り込めるロボット玩具)が20とか30とかいっぱいあるでしょう? それが全部相互に関わりがあって、同じユニバースに登場しているということ?

そうだよ。ダイアクロンもトランスフォーマーも100体以上持っているけど、僕のユニバースのなかではほぼ全員役割が決まっていて、その中で相互に関係している。

——ダイアクロンユニバースとトランスフォーマーユニバースは交差しないんだよね?

いや、それがするんだよ! どういう仕組みでクロスオーバーするのかという設定もあって、今年か来年に書こうと思っているところ。

——ストーリーを実際に書いているんだ?

小さい頃は頭の中だけで話を作っていたんだけど、大きくなってからは設定をメモし始めて、ダイアクロンにハマってからは写真とテキストを組み合わせた脚本形式で、自分の作ったストーリーをTwitterに投稿している。今は、おもちゃを買うとき、自分の中のユニバースに必要なキャスティングからどれにするか決めているくらい。

——それって、おもちゃ好きのあいだでは一般的な遊びなの……?

はっきり言って少数派だね。大人になってもおもちゃ遊びをすること自体が少数派の趣味だけど、僕の遊び方はその中でもさらに異端だと思う。ほとんどのおもちゃはキャラクター商品だし、公式の設定があるから、それを再現して遊ぶ人のほうが圧倒的に多いね。あとは、部分的にオリジナルの物語を作ったり、設定を書いたりしている人も少しいる。でも、公式とは違う自分のユニバースを設定して、ある一つの物語を最初から最後まで貫く人はすごく少ないね。そういう人は同じスタイルとして、僕もすごく尊敬している。

——時系列のオリジナルユニバースがあるんだね。3歳くらいからずっと同じ物語を広げ続けているということだよね。それを書き続けて、今どれくらい話が進んでいるの?

世界観はだいたい同じなんだけど、持っているおもちゃも入れ替わったりはするから、完全に同じというわけでもなくて、ちょっとずつ編集されていたりはするんだけど……脳内にはすごく膨大なストーリーがあるから、今アウトプットできているのはほんの一部だよ。 今Twitterに書いているダイアクロンをメインにしたストーリーは、1シーズン6話ぐらいのシーズン制。1話の長さは30〜100ツイートくらいだから、1シーズン1万字前後かな。それが今シーズン3まで終わったところ。シーズン4でダイアクロンの物語は完結するんだけど、シーズン3とシーズン4の間に全3部のミクロマンの話が入る予定だよ。

今は同じおもちゃで遊んでいる人を中心に読んでくれる人がいるんだけど、たとえ読む人がいなくなっても完結させると思う。
こうやって冷静に言語化すると、やっぱりちょっとクレイジーだよね……。

おもちゃ遊びのストーリーづくりから、小説執筆へ

——そうやっておもちゃ遊びをしてきたことが、小説執筆にも活きているの?

そうだね。おもちゃ遊びをしていて一番よかったのは、小説家になれたことかもしれない。僕の中ではおもちゃ遊びと小説は同じ仕組みのもの。小説は基本的に、何人もの登場人物が相互に関係しながらいろんなことが起きて、それによって最終的に物語が出来上がるという構造になっているよね。じつは、僕がおもちゃでやっている遊びはこれとまったく同じなんだよ。ロボットやフィギュアがいくつかあると、戦ったり協力したりしながらそこにいろんな物語が生まれていって、最終的には結末にたどりつくから。

——デビューまで長編の小説はあまり書いたことがなかったよね。でも、脳内だったら、何回もストーリーを完結させたことがあったということ?

誠実に答えると、完結させたことはあんまりなかった。ぼやっとした基礎設定や終着点がたくさん集まって束になっていて、すごく大河なドラマの企画書が永久に増えていく感じ。ストーリーとしてちゃんと書きはじめたのはけっこう最近の話。

でも、小説の執筆方法は、おもちゃ遊びのスタイルと限りなく近い。たとえば、おもちゃって、買って手にとってみないとわからないことが意外と多いんだよね。細かく見ていくと、「このパーツがついているなら飛べるはずだ。じゃあ飛行部隊所属にして……」とかね。そうやっておもちゃを見ることでストーリーが生まれるように、小説も、テーマを決めたらまずはキャラクターを配置して、「この人はどういう人なんだろう」と掘り下げていく。そうすると、語るべき物語は自然に生まれてくる。それを編集したり組み換えたりしながら、最終的な完成形を目指すというのが僕の小説の書き方。

——最初にプロットを作ってそれに当てはまるキャラクターを設定するのではなくて、配置したキャラクターから生まれてくるストーリーを観測して記録していくんだね。

強調しておきたいんだけど、おもちゃの物語は、おもちゃの側にあるんだよ。悪そうな顔をしているおもちゃだったらきっと悪役だし、キリッとしている顔ならきっといいやつでしょう? よく観察すれば、もっと細かいキャラクター性やストーリーも見えるようになる。小説を書くときも一緒で、物語はキャラクターの側にある。

——じゃあ、書いているときには、キャラクターが最終的にどうなるかわからない?

基本的にはそう。伝えたいメッセージとしての結論ははっきりしているんだけど、物語として登場人物たちが最後にどうなるのかは、作っている段階では僕にもわからない。そこは究極的には僕が決めることではなくて、キャラクターが内包している運命を記述しているにすぎないと思っているから。もちろん小説の場合は仕事だから、ちゃんと読んでいる人を楽しませたり、物語に引き込むテクニックもたくさん駆使するけどね。

創作が人生を豊かにしてくれる

——おもちゃ遊びのストーリーは、他の人を楽しませるために作っているわけではないよね。小説の方は、ストーリーを通して伝えたいことがあるの?

小説は、読んでくれた人によりよく生きられるようになってほしいと思って書いているかな。

デビュー作の『オーバーライト』の主題は、「正しくなくてもものを作り続ける」こと。僕は物語を考えるのがすごく好きで、3歳くらいからずっと同じ物語について考え続けているわけだけど、それが一般的には割とクレイジーだということはわかっていて。だっておかしいでしょ、自分の中にめちゃくちゃ広大なユニバースがあって、そこに登場人物が200人も300人もいるなんて。しかも、それを常に更新しながら生きているというのは、一般の感覚からすると相当おかしなことだし、みんなドン引きだよね。

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▲デビュー作『オーバーライト』と。

でも、僕にとっては当たり前のことだし、自分の人生と並行して、銀河を救うもう一つの物語を生きることはとても豊かだとも思う。究極的には、役に立つから、正しいからものを作るわけじゃないんだよ。そういう合理性を超えた次元に行かないと、僕にとってエンターテイメントとしての物語は成立しないんだと思う。

——人生には「ものを作る」ことが必要だということだよね。

僕は自分だけのユニバースを作っているけど、絵を描くことでも、小説を書くことでも、二次創作でも、なんでもいいから、誰にでも創作は必要だと思う。だって、人間は創造することでしか人生を肯定することができないから。

おもちゃって、それ自体はただの樹脂と金属の塊にすぎないし、なんの役にも立たない。でも遊びの目線で見ることで、想像力の中ではものすごい迫力を持つ「本物」になる。小説だってひとつひとつはさほど意味のない言葉の組み合わせだけど、すごいメッセージを伝えることができる。

人間も同じだと思うんだよね。人間だって、言ってしまえば物質が有機的に展開していくシステムに過ぎない。だからそれそのものには全く意味がない。そこに物語という形式を与えることで、初めて価値を感じとれるようになるし、だからこそ、この世界を良い物語で満たしていくのは大事なことだと思う。あらゆる創作は、無意味な世界に対して自分で意味を創造していく営みだから、なんであれすごく尊いことだよ。

——おもちゃ遊びの趣味がまさかこんなに広大な宇宙につながっているとは。もう、おもちゃは人生そのものだね。

そう、おもちゃって人生なんだよ。ついこの間、おもちゃ友達の一人が、買ったジャンク品のおもちゃがあまりに傷んでいてどうしようと言っていて、二体あったうちの片方を譲ってもらうことになったんだよね。それでせっかくだから二人で設定を考えたの。同じ部隊に所属していたこの二体は、疲弊して傷だらけになりながら戦い抜いた最後の生き残りで、でもいろいろあって離れ離れになってしまうという。本当にボロボロのおもちゃなんだけど、これから傷がついているところを活かしてダメージ表現を追加したりするつもり。

おもちゃは遊んでいるうちに壊れたりもするし、そもそも他の人が作ったものだから、全然思い通りにならないの。でも、その思い通りにならなさを物語として回収していくときに、ダイナミズムが生まれて、意外な面白さを発見したり、感動を味わったりすることがある。そういう感覚を大事にしていきたい。人生だって、思い通りにならないことばかり起きるじゃない。そういう思い通りにならなさを回収して、自分なりの価値を見出だすことは、生きるうえでも大事なことだから。

——初めて聞く話ばかりでびっくりしちゃった。おもちゃ遊びへの認識がすごく変わった気がする。いろいろ聞かせてくれてありがとう!

夫のおもちゃ哲学、おもちゃとおもちゃづくり関連が明らかになり、改めて話を聞いてみて驚きと発見の連続でした。こんな夫が書いた、『オーバーライト』は3巻まで発売中です。よろしければお手に取ってみてください!

池田明季哉(いけだ あきや)
Twitter : @akiya_skeleton
1986年生。デザイナー/ライター/小説家。デザインに宇野常寛『母性のディストピア』(表紙デザイン)、石岡良治『現代アニメ「超」講義』(ブックデザイン)、遅いインターネット(ロゴデザイン)など。ライティングに根津孝太『カーデザインは未来を描く』(構成)など。第26回電撃小説大賞を受賞、2020年4月に『オーバーライト――ブリストルのゴースト』で小説家としてデビュー。現在3巻まで発売中。ダイアクロンとミクロマンとトランスフォーマーをこよなく愛する、生粋のおもちゃオタク。

写真提供:池田明季哉

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イケダトモミ
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