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わたしのかて。

あなたの人生の糧は何ですか?

もしそう聞かれたらわたしは迷わず答える。あの出版社で過ごした10年かな...  と。

28のとき父を亡くした。胆管がんだった。必ず治ると信じ込んでいた病魔は辟易するほどしつこく、無情で、憎むべき存在だった。闘病の末、父は56の若さでこの世を去った。

それまでの私といったら、ちゃらんぽらん。気が向けば留学、若いくせに転職を何度も繰り返した。考えるのは目先の楽しいことばかりで、本当の意味で自分を大切にできていなかったように思う。

これを人生の岐路と呼ぶのだろうか。父の生きた証をつくろうと、がむしゃらに働ける新天地を探した。そして手にしたフリーマガジン。抜群に面白いエッセイを書く作家が編集長をつとめる雑誌で、この辺りじゃ話題の一冊だった。

亡くなった父が導いてくれたのか、編集の仕事はわたしの天職だった。入社して2年、広告営業を経て、ライター、そして雑誌の構成を担うディレクターにまでなっていた。月に3冊のフリーマガジン、3冊のタウン誌を発行する。朝も夜もなく、遊びも恋愛も忘れて、この仕事に明け暮れた。仕事は紛れもなく私の『ライフスタイル』だった。

何よりも財産だったのは人との出会い。一風変わった人たちの集いだったのは間違いないが、そして主義主張ももちろん違ったが、誰もが仕事に対して真っ直ぐで一途だった。仕事に嫌われたくない...と。 ものづくりという刺激だらけの世界を知り、今もそれを続けているのは、この人たちのおかげだと思ってる。

駆け抜けた、という表現しか思いつかない10年。だから当時のことなんてほぼ思い出さない。わたしはいつも「今」に忠実だ。

この文を書きながら久々に懐かしい人の顔が浮かぶ。なんだか幸せな気分だ。

土俵を変えた今も、仕事場で、細々と表現することを続けている。あの頃の自分に恥じないわたしでいよう。モットーはこれくらいのものである。



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