「ほんでも、お母さん、喜んでみえるよ」、家の前のおばさんの一言で。
先日、冷蔵庫の野菜が、じゃがいもと、玉ねぎだけになってしまって、実家まで、野菜を分けてもらうだけのつもりで、と姉には伝えて日帰り直行直帰で帰った。
前回は、5日間という日々が長居しすぎたせいか、母の甘えにぶち当たり、家には、「ヒエラルキー」があるってことを感じながら、それでも我慢して雑用をこなして、本当に疲れ切ってしまい、体調が優れなかった。
先日の出来事、野菜をもらい受けるだけの目的だったが、念のため作業に必要な、汗拭きタオル、手拭い、靴下、日除け帽子をザックの底に入れて帰った。
案の定、竹藪は、雨で、破竹が所々に出て、それ以外の竹も、枝垂れた竹も数本あった。完全防備で、竹藪の整理から、スクスクとのびた破竹の竹の子を切り倒したり、伸びきってどうしようもないものは、場所を考えて、裏留め作業と並行して行った。雨上がりで、地面はグジュグジュ状態。いつもの、隣家との境界線も整理しておいた。
いいストレス解消と、前段階のいつもの習慣的なものである。
それから、一休みして、母に「10時ぐらいになったら、買い物に出かけるけど・・なんか買ってきて欲しいもんある?」「アリ除けのスプレーと、ゴギブリのスプレー・・お金出すで。」と。今日は、日中の温度が高くなりそうなんで、あまり本気モードはなしにして、気楽にやるつもりで来たから。そんな打ち合わせをしていたら、私も目が悪いんか、見慣れぬ若い男の人が犬の散歩やろか、生垣の向こうで、なんかしとる・・。
段々、近づいてみると、道路を挟んだ、家の前の奥さんだった。髪をショートカットにして、黒のTシャツをきて見えたから、なあんだ、いつものおばさんかと。
「今日も、草引きかね?」「竹藪の整理やなあ・・いつもの恒例は・・」
「ほんでも、お母さん喜んでみえるよ・・」
「私も、やることがあるもんで、いつも来れんわ・・」
「ツツジの生垣も、刈り込みすぎって、いうけど・・」
「すぐ、生えてくるで大丈夫や・・」
私も、静かにうなづく。
二人で、おばさんが育ててみえる花を見ながら。
「これ、ひまわり、これは、鳳仙花」と、私がいう。
今回は、全部正解だったので、うんうんと、静かにうなづくおばさん。
「まあ、そろそろ、ゲンキーでも、買い物に行ってくるわ!」と私。
いつも、なんの気もなしやけど、見られているんだ。
近所のおばさんに、そういうこと言われると、前回の我慢の限界モードがゆるゆるとなっていくようだった。
本当は、おばさん、自分とこの娘と「これ、ひまわり?」というさりげない会話がしたい気持ちがひしひしと伝わってきた。だけど、現実は、働き盛りと、家計を支えていかねばならないので、無理な話である。私のような還暦過ぎになれば、また別であろうが。
娘の代打で、還暦過ぎの私が、「これ、ひまわり?」と、言ってあげただけでも、嬉しかったのかなあと。
おばさんの、家の中に入っていく、後ろ姿は、少し、右足を引きずるようにして、ゆっくりとした、足取りが目にこびりつく。
本当に、この世の中、言葉一つ交わすだけでも、持ちつ持たれつだなあと、その時、ふと思った。