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下着の買い物は大騒ぎ 「わるい王様とりっぱな勇者」 二次創作小説01

下着の買い物は大騒ぎ

縮小の魔法、その手の書籍にはいくつかの方法が散見されるわけだが、わたしはずっと昔に習得した、そのままの「スモール」を使って巨体を小さくさせた。今でこそおとうさんであるわけだが、かつては名を轟かせた魔王。魔力はほぼ無尽蔵と言ってもいい。このくらいの魔法であれば、骨格も意識もすぐに馴染む。甘く見られては困るのだ。
ゆうがなんとか抱けるぐらいのサイズ、見た目はぬいぐるみだろう、となったわたしは、パタリコパタリコと羽ばたいてねぐらの奥にある、ゆうの部屋スペースに声をかけた。はあい! 元気な返事が返ってくる。何あろう、これからいよいよゆうの下着を購入しに出かけるのだ。サカサ? 昨日の夜泣きながら、ゆうの成長を喜んでいた。今は泣き疲れて眠っている。
元気よく飛び出してきたゆうの後を追うように、わたしはパタリコパタリコと飛ぶ。なかなかに飛びづらいが、巨体のままで大規模スーパー、西友に入るわけにも行くまい。入る以前に、建物を破壊してしまう。
ゆうが通学で使っている駅前の一等地に、西友は、どほほほおん、とそびえている。一宇の魔城のようだ。わたしは改めて気を引き締める。初手から相手のペースに巻き込まれては、勝てる勝負も勝てぬ。そして、いい加減飛び疲れたわたしは、本物のぬいぐるみよろしくエレベーター内でゆうの肩に止まる。目的地は4Fの一角だ。それくらいは調べてある。
エレベーターのドアが開いた。ゆうは、
「おとうさん! すっごいあるよ!」
と、いきなりブラ売り場に飛び込んだ。待つのだ、ゆう。
「いやいや、いきなりそれではまずかろう。まずは測ってもらいなさい」
「はあい!」
わたしははしゃいでいるゆうから振り落とされぬよう、しっかりとつかまりながら女性店員に声をかけた。慣れているのだろう、二言三言で事情を察し、ぱっとの見立てでいくつかブラを取り、ゆうを試着室に導いた。わたしは肩から離れ、パタリコパタリコとホバリングだ。
「おとうさん、いってきまーす!」
響き渡るゆうの無邪気な声。と、それと同時になぜか、チクチクするような視線が、フロア全体からわたしに向けられているのを感じ取った。敵性生物か。違う、婦女子のものだ。なぜ、わたしを疎むように見る? この飛び方が邪魔なのか? 今はこれしかできぬ、容赦願いたい。
「あのねー? おっぱいふくらんでるよおとうさん!」
試着室からゆうの声。そうかそうか、喜ばしい。初潮の時のように、赤飯をサカサとこしらえるべきかもしれぬ。だがしかし、視線がますます痛い。わたしの頭上にある天蓋を、激しき豪雨が叩いているかのようだ。飛び方がいけないのかもしれぬ、そう考え、脚でブラが多数かかっているハンガーに降り立った。そして、近くで商品を見ていた女性に、
「いや、嬉しいものです」
と声かけをした。しかしながら露骨に困惑した表情を、その女性は浮かべる。そうか、これがいわゆる”コミュ障”なのだろう。わたしはおおらかに笑ってみせた。と、
「あの、お客さま……」
先ほどの女性店員が、大変に申し訳なさそうな口調で話しかけてきた。わたしは祝いの言葉だろうと思い、先んじて、
「ありがたきことです。ゆうはすくすくと育っておりますな。あの子が、おっぱい……」
泣いてはならぬ。わたしはおとうさんと同時に、王様ドラゴン。ここで泣いている姿を見られては、村に住む魔物たちや、果てはサカサにまで心配をかけてしまうことになる。
ウロコの隙間にしまって持参していたハンケチを取り出し、一粒の涙を拭う。
「そうか。あの子が、おっぱい……。見えているか、勇者よ。ゆうは元気に発育している。ついにブラを購入する記念日が、かくも訪れたぞ」
「お客さま?」
「ああ、いや。申し訳ない。そうですな、祝いの言葉は祝電の形で、すみかまでお願いしたいところです。サカサがおりますゆえに、受け取れるでしょう。多数届くと思われます所存、ご紹介できるかはタイムキーパーの実力に任せたいところですが」
「お客さま」
なんだろう、いい加減しつこい女性店員だ。あまりに度が過ぎては、社長室行きのハガキを書かねばならぬ。しかし、わたしは寛大極まりない王様ドラゴンだ。そんな考えをおくびにも出さず、
「なんでしょう?」
と聞いた。
「他のお客さまの、ご迷惑にもなりますので」
「ああ。他の皆さんも祝電を。それは大変にありがたいことです。可能な限り、ご紹介しますので」
「いえ、ではなく」
「おとうさん! わたしのブラだよ!」
試着室から、肝心要のゆうが大声で言う。見やると、カーテンを大きく開き、白い下着を胸部に着けている。その白さと、ワンポイントになっているブルーのリボンが、実に眩しい。とうとうわたしは滂沱の涙を流した。
「おお! 見えているのだろう、勇者よ? お主の娘は、ついにブラを着けた。くぅッ、泣くな、わたしよ」
もはや涙で視界が曇り、よく見えない状態だ。フロア中がバタバタとして、
『おおおおおお嬢様!? カーテンを!!』
『もう、こんなお店来ません!』
『責任者出してください!』
『あの人、わたしが選んでいるところに着地したんですよ!?』
などなど、大騒ぎになっている。そうか、そこまでみな、ゆうの記念すべき日、記念すべき出来事を祝いたいか。やぶさかでない、くるしうない。飽くほどにも盛んな祝いの席をもうけようではないか。
騒ぎは大きくなる一方のようだが、わたしとゆうはちゃんと購入せねばならない。それでこそ、このクエストも終わらせられる。わたしは再びハンケチで視界をクリアにして、
「ああいや、祝いの気持ちはキチンと受け取りますゆえに。お支払いをしなければなりませんな」
「本当にまったくごもっともでございますねお客さま」
女性店員の声色に、かなりの怒気を感じたが。わたしは、ブラの上に服をちゃんと着たゆうの肩に止まり、レジにて支払いをした。無論、クレジットカードでだ。この記念すべき買い物は、レシート1枚にとどめておくことなど、できるものではない。この女性店員は、勤務の都合上で祝いの席に出られぬことに、自ら怒りを感じているのだろう。哀れと言えば哀れだ。
「後ほど、祝いの品を届けさせます。それでは」
「あのねあのね? ゆうのおっぱい、AA60って言うんだよ!」
「そうかそうか。良かった、本当に良かったな、ゆう……」

翌日、泣き疲れのサカサが、またもや泣きながら飛び上がって、何かの請求書を謁見の間に持ってくるのだが。それについてはまた、改めて語る機会もあろう。

おしまい


こんにちは。
さすがに寒いともみです。

今回はここのnoteでは初めてになる、二次創作小説です。元になっているのは、日本一ソフトウェアさまの「わるい王様とりっぱな勇者」と言うゲーム。こちらも涙無くしてはクリアできぬ、めっちゃ名作です。
その換骨奪胎、パスティーシュですね。オマージュでもいいや。あ、リスペクトも。

これ、かなり前にDiscordに載せさせてもらったものなんです。ちょこっとだけ手直し入れて、投稿しました。元のゲームをご存知なくても楽しんでいただけるよう書いたんですが、いかがでしたでしょうか?

どのくらいの頻度になるかわかりませんが、この先も二次創作やっていきますねー。

未熟者ですが、頂戴いたしましたサポートは、今後の更なる研鑽などに使わせていただきますね。どうかよろしくお願い申し上げます。