騎手という職業についての私見
忙しいこともあって秋までは記事を書かないつもりでいたが、かなり重大な事件があったので自分なりの私見をまとめてみた。
表に出ている以上の事情は知らないので個別の件としては触れないが、一般的な問題として今後起こり得そうなことへの懸念を書いておく。
騎手というのは基本、難儀な商売だと思う。
ご存知の通り、GIを勝ちまくるような華やかなスター騎手がいる反面、GIどころか重賞すら勝てずにひっそりといなくなる騎手も多い、厳しい世界だ。
そして騎乗については常に公の目に晒される。
馬主、調教師などの関係者はもちろん、騎乗馬のファンやそのレースの馬券を買ったいわゆる「お客」からもチェックされ、勝つか最低でも馬券に絡めなければ批判が容赦なく飛ぶ。
トップクラスの存在にまで上り詰めれば、この騎手でもダメだったんだから仕方ないという風潮になるパターンもあるが、大抵の騎手はそうではない。
競馬はスポーツだのロマンだのという名目で時にクリーンな打ち出し方をしているが、今の形ではどこまでいってもギャンブルの要素はついて回る。
本当に大きな騎乗ミスをしているケースもあるが、そうでなくとも博打に負けた金額が大きいほど損失のストレスを誰かの責任にしたい、他責志向が強くなり、そこで一番ターゲットにしやすいのはやはり騎手だ。
相当強固な精神力がなければとてもやっていけない。
そしてレースというのものも結局はパイの奪い合いにすぎない。
ごちゃついた混戦で、誰にも迷惑をかけずに大人しく好位が開くのを待っていてはまず勝てないし、他人を押しのけてでも勝利を掴み取る、馬が走る気がなければ無理矢理にでも動かす、そういう気性も上に行くためには必要とされる。(ごく一部の例外もいたりはするが)
今までの騎手業界は、現代の基準から言えば問題は多々あっただろうが、それでも自然と落ち着く形に落ち着いてはいたと思われる。
気性の激しい馬がサラブレッドの歴史を作ってきたように、エキセントリックな騎手も競馬界に貢献してきたことは確かだ。
しかし馬と違い人間は社会性も求められるので、その隔たりが問題となったことは常にあった。具体的な名前やケースは伏せるけど。
そこは閉鎖的だの前時代的だのと批判されることもある騎手社会がある程度防波堤になっていた側面もあるだろう。
ところが近年はだいぶ事情が変わってきていると思われる。
ひとつはあまりにSNSというものが生活に身近なものとなってしまったことだ。
特に若者は、SNSの反応こそが世界のすべてだと思うくらい影響が大きい人も多いと聞く。
今の二十歳くらいだと物心がついたときからSNSを使うのが当然となっている世界で育ってきているのだからそれもまぁ仕方がない。
SNSは性質上、過激な意見に注目が集まりやすいし、それに触発されて乗ってくる人間がいて、いわゆる炎上というものが簡単に起こる。
それで一斉に叩かれれば、今の若者からすればまるで世の中の全てが敵になってしまったかのような感覚になってもおかしくはない。
今回の件ではどこまでSNSによる影響があったのかは分からないが、いつか深刻な事態を起こすんじゃないかと懸念している。
一方でネットでの繋がりに依存しすぎるといった面もある。
若手によるスマホ持ち込み事件もこのあたりの要素も大きいはず。
もうひとつは競馬というものが一般レジャー化しすぎてしまったことにあるだろう。
いうまでもなく昭和に比べて今の時代、物事に対する大衆の目線は厳しくなっている。
人生行き詰まったおっさんがやるものというイメージが抜け、一般レジャー化して入ってきたいわゆる「まともな人間」「良識のある人間」といわれる層は、むしろ昭和のガラが悪いおっさんよりも風紀にうるさかったりする。
そして上記の通り今はSNSで誰でも情報共有が出来、気軽に意見を言える時代だ。
これは競馬業界に限った話ではないが、かなり相性が悪い業界の1つではあると思う。
当然、JRAをはじめとする業界団体としてもそのことは考えているだろうが、だからといって世間に批判をやめさせることは出来ないし、この情報化社会で完全に問題を隠蔽することも難しい。
若者には口を酸っぱくして言って聞かせ、いくら罰則を厳しくしたころで問題を起こす者は出てくるはず。
いざコトが起こってしまった時に、業界全体としてどういう対応を取っていくのかが今後問われていくことになるであろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?