越境ECの”不都合な真実”
売る側と買う側の大きすぎるギャップ
私は、一時期海外にも会社を持っていたので、行政などから越境ECの相談を受ける機会が多くありました。その海外法人(シンガポール)は、越境というよりもそこから他の国に対して、つまり「海外to海外」のECを目指して立ち上げた会社なのですが、当時(2012年ごろ)の東南アジアは、まだEC市場が未成熟。ローカルの人気サイトが少し出てきたような状況で、ユーザーの大半は、まだネットでの購入には懐疑的でした。
タイミングは早くても遅くてもダメなのはご存じの通りで、資金力があれば、早く参入してシェアを取って、収益化まで待つこともできますが、それも相当な体力を伴うギャンブルです。そういえば、シンガポールではかなりがんばっていた楽天も、数年で撤退しました。
そのため、私もECを水面下で準備しながら、海外の展示会に日本の商品を出したり、現地のバイヤーと商談の場をセッティングしたりと、何年かはリアルな活動を中心に行いました。それはそれで、どの分野にどんなニーズがあるかがよくわかり、今でも貴重な経験だったと思います。
この数年(もっとかな)、日本の行政の目線が越境販売(EC、リアル双方)に向いていることは事実です。急激な人口減少と超高齢化で、市場がシュリンクしている中で、海外市場に活路を見出すのは当然の流れです。その意味で、明らかな上りエスカレーターではあります。
そんな状況なので、特にリアルな商談の大半は、行政(補助金)絡みです。国内でやる越境ECセミナーや展示会の類も、中小機構などが絡んでいて、そこへの出店は無料だったり一部補助が出たり。国はとにかく日本製品を海外に売りたいのです。私は、そんな場所で必ずと言っていいほどブースを出し、セミナーをし、越境販売をアピールしてきました。そこで、売る側と買う側の大きなキャップを連日肌で感じていました。
そんな私ですから、越境ECに関しては思うところがたくさんあり、とても一回では書ききれません(と引っ張る)。一番重要な事実を先に言いますと、
日本製品の評価が高いと思っているのは日本人だけ
ということです。
いや、自動車があるじゃないかと思う人も多いと思います。その通りで、自動車は最高です。特に小型車は断トツでいいと思います。でも、それ以外はどうですか。家電?何年前の話でしょうか。品質は日本のそれと変わりなく(日本企業の技術者が中国韓国から高給で引っ張られ、技術がダダ洩れ状態という話も聞きました)、見た目は格段におしゃれです。中韓の家電は品質が悪いというのは過去の話。そして、日本製品よりも見た目がよくて安いのだから、なかなか太刀打ちできません。
日本の食べ物は安心安全。それもよく聞くフレーズですが、いったい、どこの国の何と比べて、何が安心安全なのでしょうか?そもそも、その「安心安全」というワードは、政治家が好む「人にやさしい町」とかのフレーズと同じで、明確なものはないが何となく耳触りがいい、便利な言葉でしかありません。
例えば東南アジアのスーパーでは、オーガニック食品が日本のスーパーよりも遥かに豊富に安く並んでいます。それ以前に、日本の野菜は現地のスーパー(イオンも含む)では販売できません。GAP(国際的な農業安全基準)の認証をほとんどが取ってないからです。東京オリンピック選手村の食事も、日本製品はGAP認証を取得したものに限られる(つまりほとんど出せない)ことは、ご存じの方も多いでしょう。スタバの抹茶も海外では日本製ではないと聞きました。GAPを取ってないからです。
どこまでが安全か、何が体に悪いのかは、私は専門外ですのでわかりません。しかし、GAPという国際的な安全基準がある中で、それを取ってないものを現地の人は「安心安全」と認識するでしょうか?そもそも、大手スーパーは輸入すらできないのに。ぶっちゃけ、「安心安全」と言ってるのは日本だけで、「ならなんでGAP取らないの?」というのが、海外バイヤーの正直な感想です。
農作物は脇に置いたとしても、あらゆる商品に言えることは、日本製品は過剰品質です。もちろん、それが日本の売りなんだから、そこを突き詰めればいいのですが、それで海外のマスマーケットを狙うから過剰とされるのです。日本では、作り手の想いが伝わる「こだわり」は受け入れられますが、海外のマス層には響きません。OK, so how much that's gonna be?(なるほど、で、いくらになるの?)の質問が最後の会話になるでしょう。
さらに重要な事実を言いますと、
何でもかんでも補助金頼み
です。どうなるかわからない海外販売に打って出る際に、補助金を使って少しでもリスクを低くする気持ちはわかります。しかし「補助金が出たらやる」という姿勢が強く、それはもはや”補助”ではなく”主体”になっている感もあります。それでは本末転倒です。あってもなくてもやるけれど、あればもう少し動けるというのが、本来の補助金だと思うのですが、現状は全く違います。
補助金事業の成功確率の低さは、ご存じの方はご存じ(当たり前ですが)だと思います。誤解を恐れずに言えば、本気度が圧倒的に足りないので、そりゃ成功しません。あと、バカみたいに無駄な書類手続きが多くて、補助金申請に仕事の時間を取られすぎです。特に、未知の市場に出るときは、ある程度の資本と時間が必要です。それを補助金ベースでやろうとしても、よほどの商品力がない限りは無理です。
どうも、海外、特にアジアでは日本の製品は待望されていて、みんな憧れているとか、そんなイメージを持っている人が多いように思います。日本のテレビ番組を見ても、そんな空気を感じます。でも、それって大きな勘違いです。社交辞令で「日本製品が好きなんです」という人は多いけれど、とっくにモノが溢れているアジアは、そんな甘い市場ではありません。人口ボーナスを狙って、それこそ世界各国が入ってきている市場です。日本にとって入りやすい国は、他に国にとっても入りやすいのです。仮にいい日本製品があったとしても、瞬時にパクられて、より見た目のいい安価な模倣品(模倣とわかっているのは日本人だけ)に市場を取られてしまいます。
そんな厳しい市場に対して「補助金出たからやってみるか」では絶対に無理なことは、何度言っても言い足りないくらいです。
越境ECとリアルな販売をごっちゃにして書きましたが、基本同じことです。
そして最後にもうひとつ、不都合な真実を言いますと、
売れる商品は、すでに売れている
ということです。越境ECとなると、国際ロジや決済、言語などの問題が先にきてしまう風潮がありますが、売れる商品はそんなの関係なく売れてます。ほしい商品があれば翻訳して「どうにかして送ってくれないか」という問い合わせがガンガン入ります。
もちろん、最低限英語表記をするとかであれば親切だし、ロジや決済も対応していると、ユーザーとしてはより安心です。しかし、欲しい商品であれば、そんな壁は乗り越えるのです。そして、欧米の人は特に、誰も知らないいい商品を自分が発掘したという満足感もあり、どんどん壁を乗り越えてきます。
例えば、アニメは日本が誇るキラーコンテンツで、ECでも海外に売れまくっていますが、日本に来る外国人は、ネットで買える商品ではなく、誰もが知らない、あるいはネットには出てこない商品を血眼で探したりしています。そんな商品を仮にネットで見つけた日には、日本語であろうが国際ロジに対応してなかろうが、翻訳して一生懸命頼み込んできます。
要は「こういうツールを使って、こういうマーケティングで」という話が必要なのは、(また怒られそうな表現ですが)基本売れない商品なのです。極端な表現ですが、それを売れるように持っていくためには、時間も資本も必要なのは言うまでもありません。
シュリンクする日本の市場を考えると、越境EC、海外販売はこれからも「国の戦略」であり続け、一定の予算もつくでしょう。しかし、成功事例が一向に増えないのは、こういう事情です。私は、日本の製品は海外に打って出るべきだと強く思っていますが、少なくともこの「不都合な真実」を理解したうえで、きちんとした戦略を立てることをお勧めします。