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藍染と絞りを、天然灰汁醗酵建とセンスで作る手島さんと工房『一○庵』のこと

こんにちは! 感じるサロンPramana(プラマーナ)です。体感イベントに加えて、私が”感じる人・もの・コト”もここで紹介していきたいと思います。

さて今回の”感じる人”。天然灰汁醗酵建(てんねんあくはっこうだて)という、国産の天然藍を醗酵させ手間も時間もかけて染め上げる昔ながらの手法で、藍染と絞りの作品を作る工房『一○庵(いちえんあん)』の手島一恵(てしまいちえ)さんです。

工房玄関のタペストリー。白地に藍が滲む”際”が、手島さん曰く「可愛い」ポイント

まずは藍染の歴史など

藍染は日本だけのものではなく、古代から世界中で使われてきました。西アジアでは紀元前6000年ごろからあったようで、エジプトでは紀元前2400年ごろミイラを包む布に藍染の糸が織り込まれ、ペルーでも高度な染色が行われていたそうです。どの地域でも原料に青く染める成分を持つ植物が使われ、種類はさまざまでした。中でもインドのインド藍が、シルクロードや東インド会社を経て世界へ広がり、青の染料「インディゴ」として名を残しました。

日本の藍染は飛鳥〜奈良時代、中国、朝鮮から入ってきたようです。平安時代には京都で蓼藍(たであい)を栽培していた記録が東寺に残っています。貴族の衣装に用いられた藍染は、特に濃い色を「褐色(かちいろ)」と呼ぶことから鎌倉時代の武士が「勝色」と縁起を担ぎ、その後庶民へと広がりました。

江戸時代には木綿栽培が盛んになり、藍は木綿によく染まることからさらに普及しました。ちなみに藍染にはこんな特徴があります。
・繊維を丈夫にする
・汗で変色しない
・汚れが目立たない
・染め直しができる
ふだん着、仕事着にピッタリですよね。
絞り、型染め、絣(かすり)など染色技法の進化とともに、着物、帯、暖簾、風呂敷など、さまざまな用途の布に藍染が施されていきました。

全国の城下町に残る「紺屋(こうや・こんや)」というは、藍染屋と職人が集まってできた町の名前。明治に来日したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が着物や暖簾の青について書いており、多くの外国人にとって日本の藍色の風景はとても印象的だったようです。「ジャパン・ブルー」という言葉はその頃生まれました。

日本で藍の産地といえば、阿波・徳島です。年間を通して染められる「すくも製法」を確立させ、江戸時代には大きな富を藩にもたらしました。
しかし1880年(日本は明治13年)にドイツで合成インディゴ(合成藍)が開発されます。世界中で使われるようになり、様子が変わりました。

藍染工房『一○庵(いちえんあん)』の暖簾

「天然灰汁醗酵建(てんねんあくはっこうだて)」とは

簡単に安価で染められる合成藍は、当時あっという間に世界へ広がったようです。ジャパン・ブルーと称賛された日本でも明治には使われるようになり、藍の栽培も減っていきました。

江戸時代に一大産地となった徳島では、数を減らしながら現在も蓼藍(たであい)を生産しています。藍染の原料となる「すくも」は、蓼藍の葉を100日かけて醗酵させたもの。それを「クヌギなど堅木の灰汁」「小麦のふすま」「貝灰」などと合わせて(染師によって異なる)、また何日もかけて醗酵させ、藍の染料液を作ります。

そしてまた何日も、時間をかけて染めるのが
「天然灰汁醗酵建(てんねんあくはっこうだて)」です。

天然素材は染まるのに時間がかかります。だから手早く染まる合成藍が開発され、多くの(ほとんどの)生地に使われるようになりました。

天然藍は時間も費用もかかります。が!
「天然灰汁醗酵建(てんねんあくはっこうだて)」だから表現できる、特別な美しさがあるのです。

合成染料は洗うたびに色が落ちて、褪せていきます。色褪せた服を捨てたこと、ありますよね。逆に天然の藍染は年月を重ねるうちに灰汁が抜け、色が冴え、藍色が鮮明になり、洗うほどに色が定着して青みが増していくといわれます。それってどんな感じ? 使いながら見てみたいと思いました。 

藍の染料液にいる醗酵菌は、染色後も繊維の中で永く生き続けているといいます。そう、「天然灰汁醗酵建(てんねんあくはっこうだて)」は味噌や日本酒など、世界に類のない醗酵の仕組みを駆使する日本らしい染色法とも言えるそう。日本で大切に残したいものの一つなのです。

ちなみに天然藍の効果として、こんなことが分かっています。
・殺菌・防虫作用がある
・香りに睡眠を促す作用がある
・醗酵菌の力で、布が丈夫になり長持ちする
日本でモンペや野良着、アメリカでジーパンに藍染が使われたのは害虫から身を守るためだったんですね。

上記は、手島さんに教えてもらった以下を参考にしました。
『生きている青「藍の世界」』竹田耕三監修:芸艸堂(うんそうどう)
『藍染の絵本』山崎和樹編:一般社団法人農山漁村文化協会

オールシーズン使えて旅にも重宝する、藍染のストール(写真は麻24,200円)

そして、手島さんのこと

実は数年前まで悶々とした会社員時代があった手島さん。ある時、知人の勧めで話題の占い師のところへ行くと、あなたは芸術、美術、ファッションの世界で生きる人と言われたそう。会社? 今すぐ辞めたほうがいい。道が違う! とキッパリ。辞めないと大変なことになるよ…とまで言われたそうです。

その言葉が響いて、手島さんは行動を開始します。20代の頃、アメリカンカジュアルの店に9年勤めた経験もありファッションの道を選択。まずミシン、縫製を学ぶ職業訓練校へ通いました。作りたいもののイメージを膨らませる中、「オリジナルの生地でやりたいという思いが湧いてきたんです。そして、アメカジの店でインディゴのジーンズが好きだったのを思い出したの」と手島さん。

とはいえ、最初から自分で染めるとは思っていませんでした。藍染屋さんに依頼した生地を加工するものと考えていたら、友人があっけらかんと”自分でやれば?”と。「やるなら、”すくも”でやりたい」とすぐ思ったそうです。でも、どうやって始めたらいいか分からない。

そこで染料屋さんを訪ねました。その店ではインド藍で染められますが、薬品で還元させた液を使うため、染色後その液を捨てて(海まで流して)いいのだろうか? とまた悩むことに。。
「やっぱり国産藍のすくもで、天然灰汁醗酵建をやろう」と肚を決めます。すると染料屋さんが「シボリコミュニティ」の存在を教えてくれました。

(インド藍を薬品を使わず染める方もいるし、国産藍のすくもと薬品で染める方もいます。手法は染師次第、とのことです)

2023年6月福岡市立美術館「シボリコミュニティ福岡作品展」で、お客さまに解説する手島さん(左)

「シボリコミュニティ」は350年以上続く名古屋の有松絞りを、学び、表現する場です。名古屋、東京、京都、広島、北九州、福岡に拠点があり、年に1度地域ごとに作品を発表しています。それを知った日が、まさに福岡の作品展の初日。

会場の福岡市美術館へ行くとシボリコミュニティ代表の早川先生がおられ、初対面で2時間、先生から藍染と絞りの歴史をたっぷり聞きました。そして藍染作品を作り、販売してみたいと相談。そう簡単ではないと思うが、どんどんやればいいと言われ、教えを受けることになりました。

2019年、手島さんはシボリコミュニティで天然藍のすくもを使う藍染と絞りの技法を学び始めました。ところがこの年は藍が不作、すくもが手に入らない。藍染を学んでも、すくもがなければ何もできないのです。また悶々とする日々…。

翌2020年、世界にコロナが蔓延しました。社会活動が停止したあの時期、なんと、すくもが手に入るように! 早速シボリコミュニティの先輩にアドバイスをもらい、「天然灰汁醗酵建(てんねんあくはっこうだて)」に取り掛かりました。マンションのベランダでのスタートでした。

手島さんは「天然灰汁醗酵建」で、こんなことをやっているそうです。

【灰汁醗酵建】
・木灰・貝灰・こむぎのふすまを使用し、すくもを再醗酵。微生物の力で還元させ染料液を作ります。
・木灰の上澄み液をとるのに、約2週間かかります。
・木灰の上澄み液を使い、発酵させていくのに数日かかります。(季節で異なる)
・毎日かき混ぜて、藍の染料液の調子を見る必要があります。
・藍の元気がない時は染められないなど、人が藍に合わせます。

まず藍を醗酵させた染料液を作り、それを長期間(数ヶ月〜1年以上)維持することが難関なのだそうです。本来は経験が必要な作業で、藍が建たない(醗酵しない)こともあるらしい。

「なぜ私のやり方で灰汁醗酵建がスムーズにいったのか分かりません。先輩も”人の言う通りにしても上手くいかない”と言い、正解がないのです。ただ勘がいい、それだけかもしれない(笑)」

しっかり醗酵している藍の染料液。@ichien_an のインスタより

2019〜2020年にかけ、藍の染料液をじっくり育てて維持し、藍染と絞りに集中して過ごした手島さん。染め、絞り、作品を作る毎日を繰り返し、コツコツと腕を磨きました。また有松のほか京都へも足を運び、高名な染色家の先生のところで直接手ほどきも受けました。

そして制作を続けるうち日中に気兼ねなく作品づくりができて、お客さまに藍染体験や作品を見てもらえる空間が必要だと感じるように。山奥になるかも…と覚悟して探したところ、奇跡的に福岡市中央区で見つけたのが2022年夏に開いた現在の工房です。植物園そば、小さな前庭付きの昭和な住宅です。

手島さんが「天然灰汁醗酵建(てんねんあくはっこうだて)」で藍染をし、絞りを施した作品を作るようになり、今年で3年。大好きな藍色を表現するため、手間を惜しまず、デザインにこだわり、染める素材を選び抜いています。

オンラインショップのほかマルシェにも出店して作品を販売していますが、通りかかったお客さまに、他の藍染と違う、あなたのは素敵ね! と感想をもらうそう(お洒落なマダムが多いそうです)。そりゃそうよ、色やデザイン、作家のセンスがバーンと全面に出ていると私も感じます。藍色が濃く、色を重ねた部分のグラデーションが美しい。ぜひ直接手にとって、見てほしいのです。

会社で悶々としていた時期を脱してからの展開の速さ。そして藍染と絞りにピタリとハマった彼女のセンス。当てた占い師も流石ですが、選んだ道を突進している手島さんに拍手を。私より少し年上の彼女の話を聞いていると、「天性」「天職」「生きる道」というものを感じます。

オーガニックコットンの藍染Tシャツ(14,300円〜)。藍の出かたはそれぞれに異なる一点もの

『一○庵(いちえんあん)』でできる藍染体験

さて、手島さんの工房『一○庵(いちえんあん)』では、予約制でいろいろな藍染と絞りの体験を受け付けています。

いちばん手軽なのは、工房で用意されているヘンプコットンの手ぬぐいを染めるもの(4,000円〜)。せっかくならTシャツとか、ストールとか、大物に挑戦するのも面白いと思います。Tシャツはオーガニックコットンのものが用意されているので染めて自分で着るもよし、誰かにプレゼントするもよし(16,500円〜)。

器用さに自信があるなら、こんな可愛い絞りに挑戦してはいかが?
「基本の絞り」「ねこの絞り」「藍染め」全3回の講座です(15,000円)

詳しくは、「藍の絞り染め講座 ねこ編」へ

個人的には、手持ちのコットンストールの染め直しもいいと思います。旅に便利なストールを、防虫、睡眠に作用して汚れが目立たない藍染にするって合理的。持ち込んで自分で染めてもいいし、藍染オーダーで手島さんに染めてもらうこともできます。

持ち込みの場合、染料液の中で色が落ちる可能性があるなど、素材によっては藍への影響を考慮して(生き物ですから)お断りされることもあるそうです。いずれにしても事前に手島さんへご相談ください。

工房では天然の藍染という日本の文化と、天才作家!の感性を同時に感じられると思います。そして微生物がふつふつ醗酵している、藍瓶の香りもお楽しみに。

https://www.instagram.com/ichien_an/


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