正弦定理10
□夏月(なつき)23才
「あ~なるほど。そうなのですね。はい、はい・・ですよねえ、わかります」
いっこうに話は終わらない。
聞くのも仕事ではある。
「ええ。で、ですね」
何度か解決策を言いかけた。そのたびに遮られる。
「お疲れさま。秋月さんってなんか聞いてくれるオーラ半端ないから長くなるよね~お客様」
やっとお帰りいただき、くたくたのわたしに所長が一言。
そう思っているなら助け舟を出して欲しい。
【女性の様々な心の悩みに対応し、各連携機関につなげる窓口】という役割のNPO団体。
そこで働いている。
「でも、自分で切らないとねえ」
わたしの思いが伝わったのか、絶妙なことを言う所長。
…それが出来たらわたしはもっと楽に生きている。
わたしは何も答えず、口角だけあげて所長をみた。
切れないのだ。
話だけではない。人の思いを。
幼い頃からずっと、「聞かなきゃ」という強迫観念にかられている。
「わたしが救わなければ」
心の奥から湧いてくる妙な感情、感覚。
「わたしには救える」
「だって私だもの」