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同一性とはなにか 愛とは?
平野啓一郎 「手先が器用」 in 「富士山」
「ともちゃん これを留めてくれる?
ともちゃんは手先が器用だから」
「うん!やってみる」
そして 私は
そんな子になるよう努力して
そんな子になった
娘ができた
「ひなちゃん、
このネックレス うしろで留めてくれる?
ひなちゃん、手先が器用だから」
そして
ひなちゃんもそんな子になって行くのだろう
平野啓一郎 「本心」
「その写真の人は、
多分、本当のお父さんじゃないと思う。」
「じゃ、誰なんですか?」
「わからない。ただ、……
本当のことを話せないまま、
ずっと育ててきたこと、
間違いだったんじゃないか
って、悩んでたかな。未だに迷ってるって。」
「母がそう言ったんですか?」
「そう。」
「何なんですか、
その本当のことって?」
「その写真の人を『お父さん』だって、
信じさせてたことだと思う」……
「父は一体、誰だったんでしょうか?」
平野啓一郎 「Re:依田氏からの依頼」
in「透明な迷宮」
目の前には、(右の乳房の) 斜めに
二つホクロが並んでいる。
彼女の肉体を見分けるための最も確実な特徴が
他の美点にも勝ってこんなものだというのは、
同一性のアイロニーだった
愛とは、誰でもよかったという交換可能性にだけ
開かれた神秘ではあるまいか?
あのジーパン越しの柔らかい太腿の熱。
香水と溶け合った肌の匂い。
私の愛した乳房。
未知恵にはない二つのホクロ。
私の頭を掻き抱くあの腕の力…
涙ぐんで、記憶を抱きしめようとする私を、
未知恵は哀れみ、蔑むような目でみていた。