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病人レポート5 : 「がんという目に見えないもの〜白血病編〜」

14日間連続投与の抗がん剤も無事終わりました。第一関門突破です。3日に1度ペースの血液検査に加え、様々な点滴、、腕には注射痕のアザが多数、、いま下界を歩けば間違いなく職質されるであろうジャンキーな様相を呈して来ている今週です。
<ただいまの戦闘力=免疫>
・白血球 ; 約1 / 10
→(主に)外敵から身を守る力
・赤血球 ; 約1 / 2
→(主に)身体に酸素を運ぶ力
・血小板 ; 約1 / 20
→(主に)出血を止めたりキズを修復したりする力
というわけで、この状態で下界に降りるとたちまち何かの菌をゲットし、最悪それにやられて没。というくらいレッドカード状態になってきています。無菌室という施設を配備できる現代の文明に感謝。。。白血病の抗がん剤治療は、毎回こうしたキワキワの、生死ゾーンをくぐり抜ける長い長い旅路でもあります。
白血病にはものすごくたくさんの型があり(https://www.jalsg.jp/leukemia/pathology.html)それらは、A)抗がん剤だけで「寛解」を維持しやすいもの、B)抗がん剤+骨髄移植を念頭に入れねばならないもの、C)抗がん剤+骨髄移植をしても非常に再発率の高い予後の悪いもの、ざっくりこの3つにカテゴライズされます。
※寛解とは(http://pj.ninjal.ac.jp/…/teian…/teiango-ruikei-a/kankai.html)
私はBとCの間くらいの病態ですが、どのグループも基本的には、大量の抗がん剤投与から治療を開始します。投与期間+2週間くらいは、骨髄抑制(https://ganclass.jp/confront/associate/marrow.php)という、血球を作ろうとする力を抑え込む副作用が働くので、戦闘力=免疫は右肩下がり。様々な症状が次々出て来るデンジャラスウィークが続きます。
その期間を経ると、身体は血球づくりを再開し始めます。失った血球たちが正常値まで増えたら1クール完了。ここまでに要する期間は、大体中央値1ー1ヶ月半といったところです。(※個人差あり)
1回で叩ける白血病細胞の数には限界があるので、このルーティーンを何回も繰り返します。前述の「型によるカテゴライズ」によって、数回から数十回のルーティーンののち、寛解維持が確認されたらそこで卒業タイプ、それだけでは抑え込めないので、プラス骨髄移植へ進み卒業となるタイプ、どちらにしても、半端なく長い入院期間を要するのがこの病気の特徴で、退院まで前者はおおよそ半年強、後者だと最低でも1年弱という見込みです。(私は初発時1年半入院しました、、)
ちなみに今回の私の治療は、骨髄移植後の再発ということもあり、いろいろイレギュラーな状況となっており、1クールの化学療法で一度下山となります。レポート1・3に示したように、この後骨髄移植のコーディネートを待って、再移植の道に進む線が濃厚です。。
<戦闘力=免疫が落ちると起こること>
・高熱が出っぱなしになる
・下痢、腹痛
・吐き気、嘔吐
・めまい、立ちくらみ
・口内炎がびっしり
・痔
・出血性の膀胱炎
・味覚障害
AND MORE……
個人差がかなりありますが、大体こういう症状とお友達になります。
白血病の治療の場合は特に、これらに重ねて足りない血球を補完するために、頻回に赤血球と血小板の輸血が行われます。(注 ; 白血球は人工的に補えないので輸血できません、、)ただこの輸血がまた問題、、人によっては重篤なアレルギー反応を引き起こす要因になります。(私は血小板輸血でアナフィラキシーを起こしたことがあります、、http://www.hiroshima.med.or.jp/pamphlet/256/5-2.html)
がんは治る病気と言われて久しい昨今ですが、白血病に限らず、がんの治療をされている方は、おおむね都度、このような割とハードな症状や副作用と向かい合って、、’健康’ を取り戻しておられると思われます。
病人歴7年を越え、すっかりがんとお近づき(になりすぎた)わけですが、依然として「がんという目に見えないもの」の正体を、私自身が ‘実感’ として感じたことはありません。何度も言うように特に白血病は、ビジュアルとして出てこないのがボトルネックと思います。レントゲンを見せられ「ここに影が」と言われれば、「ああ、これか。こんな形してるのか」と嫌が応にもその姿が目に焼きつくことでしょう。でも白血病は血液検査の数値がメインです。高くなくちゃいけないものが低く、低いはずのものが高い、、アベコベになって表示される。それだけです。
そもそも自分の通常時の白血球や血小板の値がいくつか、すぐに答えられる人がどれだけいるでしょうか。血圧が200と聞いたら、さすがにあれ?おかしいのかな?という感覚を覚えるかも知れないですが、血小板が5万です。と言われて危機感を感じる人は少ないのではないかと思うのです。。。(今は数値を見れば何がおかしいのか大体分かるようになりました)
実際治療をしている最中も、体感的には「ずっとひどいインフルエンザが治らない」といった感じしかしません。ただ自分の見た目が、治療と共にどんどん移り変わっていく。敢えていうならそういうところから「がんという目に見えないもの」と、確かに自分は対峙しているのだなと実感させられてきた、、という感じです。
ただ実感があろうがなかろうが、白血病細胞が増えるのが先か、治療の中で菌にやられるのが先か。毎度毎度、そのとんでもない緊張感の中で自分のいのちを賭さねばならない。アタマでわかること、カラダに起こる異変、メタ認知して無理やりでも把握せねばならないこと、これらに温度差や相違が生まれていても、特に急性の白血病はとんでもなく進行が早いので、物事を整理して受け止める猶予がほとんど無いのが実情です。
このモヤモヤの中に、「よし、じゃ、もう、わかんないけど生きてやる!」みたいな。火事場の馬鹿力のような、ヤケクソのようなものと「いやー、もう、こんなしんどいなら今すぐ召されたい」という相反する感情がさらに入り乱れます。答えのない禅問答。どうしたいか、じゃなくて、どうしなきゃいけないか。。。この暗闇の中でどれだけ光を見いだせるか。混迷を極めます。
そんな時いつも、大変ありがたいことに、たくさんの方の応援、祈りのエネルギーがそこに降り注がれます。そのとんでもないパワーが「生きる!」優勢の状態に私を押し上げてくださると感じます。自分の7年に渡る病との日常を振り返る時、こうしてそれでも生き延びているのは、そういう目に見えない力、みなさんからの「生きろ!」という強い強いエネルギーの集積がそこにあるから、としか思えません。
「生きて、生かされている」。本当にびっくりするくらい、真実はいつもシンプルで、当たり前すぎるくらい当たり前のことでしかない。。いま目に見えている世界が全てではない。目に見えないものの中にも、信じられないくらいのパワーが詰まっている。
世の中に悩んだり困ったりしていない人はいないと思っています。生きる上でのしんどさは、病気だけじゃない。だからそんな時、ものの見方の角度をちょっと変えてみる。目に見えていないものを手繰り寄せてみる。そうすると見えてくるものがある。生きていくための力が待っている。そしてその力は、誰しもの中に眠っていて、一番大事な時にちゃんと出てくる。「がんという目に見えないもの」との日々を通して、そのことだけは ‘実感’ しています。
写真は信じられないような奇跡の夕焼け。世界はうつくしい。73年前の今日、一瞬の光の中で散ってしまった全ての魂へ、黙祷。
2018.8.9