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そこかしこに
もう、いもしない人のことを、街中で、カフェで無意識のうちに探してしまう。帽子が、シャツが、メガネの感じが少し似ているだけの赤の他人に、その人の姿を投影している。
先週、親戚が亡くなった。
頭のどこかで、その人のことを考え続けているからなのだろうか。それとも、会いたいと思っているからなのだろうか。街のそこかしこに、彼の姿がちらつく。
人の目にものを見せるのは、願望とか欲求とか理想の類なのかもしれない。何でもない日常では通り過ぎていたのに、失った時に限って、願いが幻覚をみせるのだ。
それでも数日、数ヶ月が経てば、その姿を人混みの中に探さない日が来て、普通の日常に戻るのかもしれない。