2人分のチョコの行方
先月、東京に来た母に、バレンタインデーのチョコを渡した。父と母、2人分のチョコだ。
いつも、いただき物のお菓子を子どものように奪い合っている2人なので、ケンカをしないよう、今年はそれぞれに1箱ずつ、同じものを贈った。パッケージにスヌーピーが描かれた、9粒入りのかわいいチョコだ。これで、年甲斐もなく争わずに済むだろう。そう思っていたら、母がこんなことを言った。
「あなたからのチョコをパパに渡したら、箱のフタを開けて『どれがいい?』って私にきいてくれたのよ。こんなこと、初めてだわ」
何ということだ。あの父が、母に自分のものを分けようとするなんて。やっと母に対して思いやりの心を持てるようなったのだろうか。それにしても、チョコは父と母に1箱ずつあるというのに、なぜ父は母に自分の分をあげようと思ったのだろう?
「それでね、『私もあの子から同じのをもらったのよ』って伝えたら、『なんだ!!』ってガッカリしてたわ」
……母よ、自分ももらってたことを、なぜ黙っていた? 母の性根の悪さが垣間見えた気がした。まぁ、素知らぬ顔で父からチョコをもらうよりはマシなのだけれど。
以前よりは、ちょっと丸くなった父。良かれと思って両親それぞれにチョコを送ったが、そんなことをする必要はなかったのかもしれない。争いを取り除いたつもりだったが、もしかしたらそれは、父の「妻を思いやる心」を台無しにし、彼らから「シェアする喜び」と奪い取ってしまったのかもしれない。
来年のバレンタインはまた、「2人につき1箱」に戻そうと思う。