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あせももも

最近、左の腕に「あせも」ができてしまった。すぐに治ると思っていたのに、なかなか治らない。とりあえず就寝時の腕のベタベタ感を解消したくて、薬局に行った。

しかし、買おうと思った商品がなかなか見つからない。「シッカロール」と言っても、店員さんに通じるのだろうか? 他の言い方があったような気がして、店内をうろつきながら考える。ああ、そうだ。「ベビーパウダー」だ!

「ベビーパウダーならこちらです」。店員さんが案内してくれたのは、薬局の隅に置かれたワゴンの一角だった。20センチほどのこじんまりとした区画に、3種類のベビーパウダーが置かれている。丸い缶に入れられたもの、細長いプラスチックの蓋付き容器に入れられたもの、「固形タイプ」と書かれ化粧用のコンパクトのような形のもの。私は子供の頃から馴染みのある丸い缶のものしか想像していなかったので、他の形状が売られていて驚いた。

以前、手が滑ってベビーパウダーの缶の中身を家の中にぶちまけてしまったことを思い出し、私は「固形タイプ」を買った。ちょうどコンパクトに入っているファンデーションのように、プレスされ固められたベビーパウダーが容器に詰まっている。これならば誤ってぶちまけることも、扇風機の風で撒き散らしてしまうこともないだろう。

ところで、幼いころの私にとって、あせもの対処法といえばベビーパウダーの他にもうひとつあった。桃の葉である。桃の葉を煎じた煮汁をあせもに塗っていたのだ。もちろん、約35年前の日本の人がみな鍋で煎じ薬を作っていたわけではない。田舎育ちの私の親が幼い頃にやっていたことを、そのまま私にも適用させたのだろう。

私が住んでいた場所の近くには、山なんてなかった。(まがりなりにも東京23区内である。)だから私の親は、近所の大きな公園に植えられている桃の木から、その葉を数枚「いただいて」来ていた。(私も朧げにしか記憶がないけれど、このあたりの事情は厳密に言えば公園の管理的に怒られてしまうようなことなのか、よく分からない。そうだったとしても「時効」ということでい願します。)団地に持ち帰った桃の葉を、母が鍋で煮出す。暑い夜の部屋の中に漂うその薬っぽいにおいは、いかにも「効きそう」だった。

うすい茶色のような緑色のようなトロミのある液体が出来上がると、それを冷ましてあせもにペチャペチャと塗る。何だかひんやりとする。その後あせもがすぐに治ったのかどうかは覚えていないけれど、それが我が家でのあせもの治し方だった。

1980年代とはいえ、そのころ東京都内でこんなことをしていたのは、うちぐらいなものではなかっただろうか? 時代が昭和から平成に移り行く中、私は板橋区の片隅で、あせもに桃の葉の煮汁を塗られていた。

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