余白を歩く 《思い出しグルメ⑩ テキサス東伏見店》


ダンナが生きていた頃、家族で行った店、行きたかった店。なくなってしまった店もあるけれど…。
思い出しながら、ぼちぼち語っていくシリーズ。



         * * *






亡くなる前にダンナが行きたいと熱望していたテキサスへ、先日子どもたちと行ってきた。テキサス ——。飛行機に乗って、ではなく家から車で20分ほどで到着する東伏見のテキサスだ。

「ハラミステーキを食いに行きたい」

ダンナは病気がわかった時にこう言った。
よし、家族で食べに行こう。
しかし、それは叶わなかった。
告知を受けてから二か月足らずの闘病で、二度入院と退院を繰り返した。二度目の退院で家に帰ってきたとき、動けなくなっていた。癌は最後の一か月で急速に悪化するというが、今思えば本当にその通りだった。


「這い上がってでも行くから」


店は階段を上がり二階にあるらしい。テイクアウトじゃ駄目か。ダンナは首を縦に振らなかった。家族四人で、店に食べに来たかったのだ。


ダンナよ、三人で行ってきたよ。
ハラミステーキ、抜群に旨かったよ。脂っこくないし、柔らかいね。娘は175g、私は250g、息子は350gを頼んでペロリと食べちゃったよ。最後までまた食べたいと言っていた意味がわかったよ。
ごめん、遺影を持って行こうと思っていたのに忘れ、代わりに出した携帯の待ち受け画面がスリープになっているのを横目にステーキにがっついていたダメ女房です。
でも、それくらい旨かったよ。
悔しかったら戻ってこーい!

テキサスは呆気ないほど家から近かった。なんだ、考えるより先に行ってしまえばよかったんだ。這い上がると言っていた階段だって、思っていたより短い。車椅子ごと担ぎ上げることだってできたはずだ。ああすれば…、こうすれば……。そればかり考えている。
店のロゴマークに、なんだか見憶えがある。「since 1978」とあるので私が小さい頃からあったんだな。ひょっとすると食べたこともあるかもしれない。


帰りはダンナのもとあった店の方から周って帰った。この道は何度も往復した思い出の道だ。ダンナが肩を脱臼し、朝晩車で送り迎えをしていたこともあった。義理の父や母と来たレストランや家族四人でたまに来ていた回転寿司店、娘のダンスの発表会をした市民体育館、待ち合わせでよく使ったコンビニ、私が結婚前に一人暮らしをしていたアパート……。車で走っていると走馬燈のように思い出が蘇ってくる。
その瞬間、桜並木が見えたような気がした。桜の季節、大きな桜の木が立ち並ぶこの界隈は沢山の人で賑わうのだ。きっとダンナもその中に紛れていたはずだ。


次は義理の母と姉も誘おう。
何度でも来よう。テキサスへ。