余白を歩く 《思い出しグルメ④ 三鷹〜王華》
ダンナが生きていた頃、家族で行った店、行きたかった店。なくなってしまった店もあるけれど…。
思い出しながら、ぼちぼち語っていくシリーズ。
* * *
三鷹南口商店街から二本隔てた細い路地裏にあったラーメン店「王華」。狭い間口に老夫婦が立ち、夜遅くまで店を開いていた記憶がある。どうやら2017年頃に閉店してしまったようだ。
「ここのタンメン、うまいよ」
ダンナが教えてくれたタンメンが、ギョーザやチャーハンのかげに隠れて密かにおいしく、行くと必ずタンメンを頼んでいた。だからなのか、私にはタンメンの記憶しかない。
テレビのついたカウンター席に陣取り、いつものタンメンを注文すると、店の主人は中華鍋の火力を全開にする。ときおり火柱をあげながら野菜が宙を舞う。あっという間にカウンターに運ばれてきたタンメンを湯気ごとすする私の横で、ダンナは違うものを口に運んでいた。パワーメン、だったろうか。揚げた豚肉がドンとのっている。タンメンじゃないんかい…!
日付も変わりそうな時刻だが、店は賑わっている。一緒にギョーザをつつきながら何を話しただろうか。仕事のグチだったか。それでもグチりながらも、なんで野菜がこんなにシャキシャキなんだろう、と毎度私はつぶやいていた気がする。
「強火で一気に炒めるんだよ」
中途半端な火加減でノロノロしていると、野菜から水分が出てグチャっとしてしまう。店の主人の手際は見事だった。かくいうダンナも炒め料理が得意で、私が作ると「焼き飯」になってしまうチャーハンが、ダンナが作ると見事にパラパラな「炒飯」になっていた。冷飯で、とか卵を絡めておいて、とかではない。ひたすら強火で、あとは中華鍋と硬い木ベラで米を叩くように作っていた。モヤシ炒めもよく作ってくれた。あんまりおいしいので、レシピを残してある。
買ったばかりの行平鍋の柄をダンナに焦がされたことがある。私が怒ると、ダンナは困ったように口ごもっていた。その鍋で、今日も私は料理を作っている。