余白を歩く 《思い出しグルメ⑦ 小平うどん本店》


ダンナが生きていた頃、家族で行った店、行きたかった店。なくなってしまった店もあるけれど…。
思い出しながら、ぼちぼち語っていくシリーズ。



         * * *






「小平うどんっていう店なんだけどさ。今日これから食いに行かない?」


うどんが好きなダンナだった。
結婚するまで、うどんを食べる習慣がそれほどなかった私も、気づけばすっかりうどんが好きになっていた。外食といえばうどんが多かったし、子どもたちの離乳食にも大活躍した。我が家の冷凍庫にはうどんが欠かせない。
聞けば小平うどんは普通のうどんとは少々違うらしい。どれどれ、皆で食べに行ってみようではないか。家族四人、車で新小金井街道をめざした。2013年8月4日のことだった。


新小金井街道といえば、ラーメン屋が立ち並ぶことで有名だが、そのラーメン屋が途切れた辺り、ちょうど小平に差しかかった辺りに「小平うどん」はあった。ラーメン屋のような店構えの暖簾をくぐると、食券機がある。
ここは噂に聞こえし肉汁うどん一択で。ダンナはもちろん肉増しうどん。子どもたちはまだ小さかったので、肉汁うどんを半分こ、だったかな。


運ばれてきたうどんに目を奪われる。蕎麦のような少し黒味がかった色。食べてみると、かなりコシがある。麺も太くザラつきのある食感で歯応え充分だ。なんと野生味溢れるうどんだろう。豚肉とネギの浮かぶ甘めのしっかり醤油が効いたつゆがよく合う。このうどんには関西風のあっさりしたつゆは合わないだろう。よく噛まないといけないので、会話もそこそこに無言になる。
武蔵野うどん、というらしい。武蔵野台地で生産された小麦粉を使った郷土料理だそうだ。猪や鹿の肉なんかも合いそうだ。


「メンチカツもうまいから頼んだら?」


よし、追加注文しよう。ついでにビールも、と思ったが、この後運転お願いとダンナに頼まれ、しかたなくノンアルコールビールにした。やられたぁ…! でもダンナはビール飲んでいただろうか。酒呑みに見えるダンナだが、実はお酒をそれほど飲まない人だった。私の方がよほど、呑兵衛なのだった。


先日ふとこの日の記憶が鮮明によみがえってきて note を書いている。キラキラした日差しの降り注ぐ、平和で楽しい夏の一日だった。この後、たぶん皆で武蔵村山にあるピーデー熱帯魚センターに行った。というのは当時の家計簿からわかったことだ。ダンナの休みの日曜日、家族揃ってペットのエサを買いに行くのが恒例だった。むやみに細かくつけていた家計簿だが、いま見返すと立派な記録になっている。
小平うどんが無性に懐かしい。すっかり成長した息子と、近々行こうねと話している。


〈追記:2023年10月6日 金曜日〉

何年ぶりか、小平うどんに夕食を食べに来た。今日は娘の彼氏も一緒だ。彼も家族で来たことがあるとのこと。車を走らせながら通りかかるあの店この店、思い出話に花が咲く。
四人で席に付く。私と娘は400g、彼氏と息子は600g。息子と私はメンチカツを付けて。そしてもちろんノンアルコールビールも。
娘に彼氏ができて、ダンナも気が気じゃないだろう。あるいは楽しい場面に思わず出てきたか、私の電話に謎の着信が…! ロックがかかっているはずの娘の携帯からだった。最新機種だったダンナの携帯を娘に譲り渡したのだった。うーむ、やはりダンナは墓にいないな…。
しかし、うどんもさることながらメンチカツ、絶品だ。食べ盛りの息子もあと400g食べられたと言う。また来よう。