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イザドラ・ダンカンと、芸術としてのダンス

19世紀末から20世紀はじめは、バレエとは異なるダンス表現が開拓されていった時代。その中で、ダンスが「芸術」として認知されるのに大きな役割を持っていたのがモダンダンスの創始者として知られるイザドラ・ダンカン(1877〜1927)。

彼女のダンスは古代ギリシア風のチュニックに裸足という姿で、解放的に踊るというものでした。


フランスの振付家ジェローム・ベル(1964〜)が「Isadora Duncan」という作品を2019年にやっていて、このトレイラーといくつかのweb記事しか情報がないのだけれど、ダンカン振付作品をエリザベス・シュワルツが踊り、その解釈を言葉で行うという内容だったらしい。
6つの作品をそれぞれ3回繰り返し、動作や伴奏の意味を説明する。それをダンカンの生涯史として並べることで、彼女の経験から動きがどう発展していくかを可視化していく。その場で振付レクチャーを受けたい観客を募り舞台にあげ、振付してともに踊るというシーンもあったとか。

私はジェローム・ベルの作品を実際に観たことはないのだけど、ダンスの捉え方が好みな気はしてるんですよね。なので、このダンカンへの解釈について自分なりに調べた内容から考えてみました。

まずダンスが「芸術」と認知されるとはどういうことかというと、ダンスは見世物や余興であり芸術とはされていなかった背景があります。
ダンカンは独自の「舞踊哲学」を主張するとともに、ショパンなどの音楽や詩の朗読で踊った。文明社会の中で縛られた女性の身体の解放、自然な環境での自由な動きが人間に必要だという思想がダンスの表現になるという「舞踊哲学」は、フェミニズムや自然な健康法への関心の高まりという社会運動と連動、また古代ギリシア由来の衣装や動きの参照は古代ギリシア回顧が盛んだった芸術動向と添っているし、すでに芸術と認められていた音楽や詩などとダンスを組み合わせることでこれらは同等であることを体現した。芸術としての美には思想的な部分が重視されていて、ダンスにはそれがあるという確信がダンカンにはあったといえます。

ダンカンが自らの舞踊表現を確立するまでには、アイルランド民族舞踊、社交ダンス、体操クラブ、デルサルト体操、バレエなど様々な身体メソッドに触れていました。ただバレエは不自然な動きであると批判。自然のなかにある動き、特に波をモチーフとして、サスペンションのように重力と緊張を扱ったとされます。
精神と身体の動きは対応しているとしたデルサルト体操は同時代の他ダンサーも採用していて、モダンダンスの身体特徴として参考になる理論。心のままに自由に踊るっていうのは、舞踊表現としてはこの時代にでてきたものなんですよね。その点がバレエと比較されやすく、古典的な形式ではなく個人が自由な振付と衣装で踊る表現といえます。

ダンカンと音楽の関わりはピアニストの母からはじまっていて、母のピアノで兄弟とともに踊る芸能一家であったし、自作でも既存曲を使い、踊るための音楽とは見なされていなかったヴェートーヴェンの曲で踊り批判されたりもしています。
音とダンスは一致しているべきか否か。さらに共通認識となり得るのか。構造的理解との関係性はよくわからないけど、ダンカンの踊りにとって音楽は感性的に動きに反映するものだった様子。個人の心=内面を表す踊りなので、音楽もその要素のひとつといったところでしょうか。

自由な精神と身体という思想とスタイルこそがイザドラ・ダンカンのダンスで、明確な振付の型や譜はなく弟子によって継承されています。撮影を嫌ったためダンカン本人の映像はほぼ残っておらず、ダンカンダンスの動きは特徴的だけど個人的にイマイチ掴みきれてないところが。ただ、彼女の思想や時代背景から窺えるところはあって、彼女の創作のベースになっていることは確かかと思われます。

ジェローム・ベルの作品での解釈と同視点であるかはわからないけれど、イザドラ・ダンカンという一人の表現者から伝わってくるダンスの可能性は未知数です。そして、わからないからこそもっと知りたくなります。

映画『イサドラの子どもたち』(2019年)では、幼い2人の子どもを亡くしたダンカンが遺した『母』という作品の振り起こしとともに、3組のストーリーが語られます。ダンカンの精神が時代を越えてそれぞれの内面に伝わっていく。これもダンカンダンスの解釈のひとつなのかもしれませんね。



参考文献
柳下惠美「ダンカンの初期舞踊形成・公演活動について -アメリカでの活動を中心に-」『Waseda RILAS journal 3』2015年
國本眞由子「イザドラ・ダンカンの音楽観」『日本女子体育大学紀要』第42号、2012年
バレエチャンネル「【インタビュー】イサドラ・ダンカンの3代目継承者、メアリー佐野。「私が私のダンスを踊っても、そこにはダンカンの魂が入っている」https://balletchannel.jp/32789
YACI「ON THE DISPOSITIVE OF MEDIATION: JÉRÔME BEL AND ISADORA DUNCAN」https://yaci-international.com/on-the-dispositive-of-mediation-jerome-bel-and-isadora-duncan/


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