「僕らはみんな生きている」 ウクライナ現地報告 2024年6月
「僕らはみんな生きている」2024年6月の現地報告をお届けします。
ウクライナは現在、ロシアのインフラ攻撃に起因する計画停電の真っ最中。2022年ー2023年冬に続く第二弾の計画停電になりますが、想像以上に苦労している現地の模様をお届けします。インタビュアーはHANAさん、答えるのはウクライナリヴィウ在住の安成さんです。
ウクライナ全土で計画停電実施中
HANA 早速ですが、停電で大変だとおっしゃってましたね。
安成 はい、どんどんひどくなっていきます。うちでは昨夜9時に停電が始まって、そのまま深夜まで電気なしでした。おそらく、深夜の1時から5時頃までは電気があったんだと思いますが、朝6時に目を覚ましたときはもう電気はありませんでした。
今日は5時から9時までが計画停電だったので、しょうがないと思ってお掃除、お洗濯してたんですが、9時になっても電気が来なくて。Viberの住民チャットをみたら、10時まで停電が延長になったってお知らせが。
さらに、10時になっても電気は来なくて、こわごわチャットを見たら、緊急停電で15時まで停電っていうお知らせが。
HANA 「うそー!」って感じですよね。
安成 「うそー!やめてー!」ですよ。他の人も怒ってて、「15時まで緊急停電で電気がない、と。それは結構なお話で。そして、17時から21時までは計画停電で電気がない、と。何て言ったら良いのやら」って。
HANA いつも思うんですが、割と遠回しに怒るんですね、そちらの方。
安成 そうなんです。面白いでしょう?私はウクライナ人のこういう所が好きなんです。チャットにウクライナ電力のお知らせを転送してくるのは住民代表のオジサンなんですが、その方に文句を言ってもしょうがないじゃないですか。それもあって、遠回しのチクッとした表現になります。
私はそのやり取りを見て、これはダメだと思ったので、原稿を送るために歩いて10分くらいのところにあるコワーキングスペースに来ました。一日チケットで400フリヴニャですから、日本円で1500円くらいですね。
HANA 一日で10ユーロくらいならまあまあですよね。
安成 はい、こちらでも妥当なお値段です。利用するのは3ヶ月ぶりなので、値上がりしてると思ってたんですが、してなかったし、土曜日なんでガラ空きです。広いスペースに私だけなんで、のびのびしてます。普通のオフィスと同じように、キッチンがあって、フリーのお茶やスナックが用意されていますし、一日チケットなら出入りは自由、階下にはカフェやコンビニもあるんで、とても便利です。
ただ、ここもいま給電はないんです。ジェネレーターで電気を供給しています。なので、充電は全然進まないです。私のスマホは朝起きたとき30%くらいで、その後ずっと停電だったので、ここに来てから充電してますが、2時間で10%くらいしか回復してません。携帯用の充電器があるんですが、これもすぐに空っぽになっちゃって、なかなか回復しません。停電がないときでも電気の供給量自体が少ないんですよね。
HANA 色々と副次的な厄介事があるんですね。
安成 そうなんですよ。停電っていうと電化製品が使えなくて困るって思われるんですが、それ自体はそんなに大事(おおごと)じゃなくて、副次的な厄介事が多いんです。
恐怖のエレベーター
安成 たとえば、これも副次的なことなんですが、停電のときは頻繁にエレベーターが故障しますし、停電を知らずに乗り込んで閉じ込められるのも日常茶飯事です。もともとエレベーターが動かなくなることはよくあって、地元の人は慣れてるので割と平気な顔してますが、私は、これだけは何回経験してもめちゃくちゃ怖いですね。
HANA それは怖いですよね。日本だと、エレベーターが止まることなんてまず経験しないですから。
安成 ですよね!今日もあったんですよ。今いるコワーキングスペースは複合レジャー施設の11階にあるので、当然、エレベーターに乗って上がったんですが、よく考えたら、停電中はエレベーターの使用は避けなきゃいけないんです。
HANA そうなんですか?
安成 そうなんです、電動ですから。全面的に使えないので、9階や10階の人は大変なんですよ、停電のとき。私もうちのエレベーターは極力使わないよう気をつけているんですが、外出先だったんでうっかりしてて。それで、緊急用の電話をかけて、「ドアが開きません!」って訴えたら、「ちょっと待ってて」って。「またか」みたいな感じでした(笑)
HANA 笑い事じゃないですよね!
安成 全っ然笑い事じゃないです。エレベーターに閉じ込められるって、何回経験しても、本当に怖いんですよ。ここのは外から見えるタイプのエレベーターなんで、11階の高さがひしひしと伝わってきて特に怖かったです。炎天下歩いてきたところを陽が照りつけるエレベーターに閉じ込められたんで汗ダラダラかいてるんですが、怖くて脚はガクガクという。手に汗かきながら、手すりにつかまってました。
HANA すぐに脱出できたんですか?
安成 はい。しばらくしたら急にエレベーターが動き出して、勝手に一階まで行ったかと思うと、そのまま6階まで上って、軍人さんが乗り込んできたんです。
HANA 普通に?
安成 普通に。他の施設を使って、帰るところだったみたいです。「一階でよろしいですか?」って紳士的に訊いてくださったので、私も、さっきまで手すりにすがりついてガタガタ震えてた素振りも見せず、「あ、すみません、これ、いま上ってるんです。先に上に行きます」って気取って答えました(笑)
HANA 急に立ち直るんですね!
安成 しゃがみこんでたんですけど、「景色見てただけなのよ」みたいな感じで。そういうもんなんですよ、人間って!その軍人さんがとても感じの良い方で、ご自分は下に降りるところだったのに、11階で降りる私のために扉おさえてくださって、「良い日を!」って。なので私も、「そちらも良い日を!さようなら」って気持ちよくお送りしました。
HANA 戦争中でも、停電中でも、そういう会話を交わせるっていうのは素敵ですね。
安成 そうなんです。それ、よく言われるんですよ、外国から来た方に。戦争中に「良い日を!」って言い合うのを不思議に思う方もいるみたいなんですが、私達はそう言い慣れているので、急に言わなくなったりはしないですね。
停電将軍はかなり手強い
HANA 生活は大丈夫なんですか?
安成 うーん、大丈夫とは言い難いかも。昨日も友達と、ナポレオンの冬将軍と比較して、ウクライナは冬将軍には耐えたけど、灼熱の停電将軍は思ってたより手強いよねって言い合ってました。最初のうちは、冬じゃないから大丈夫だろうって思ってたんですよ。冬だと暖房が止まるから大変だけど、夏は特に困らないだろうと。
HANA 確かに、ウクライナ冬が厳しくて、夏は涼しそうなイメージです。
安成 そう思いますよね?でも、実際は全然違って。うちのような高層の新建築だと、建物に隙間が全然ありませんので、冬に暖房が止まっても死ぬほど寒いというわけではなかったんですよ。寒いですけど、猫たちと抱き合っておふとん被ってれば、耐えられるレベルでした。
HANA では、冬より夏のほうが大変?
安成 もちろん、冬もきつかったんですけど、夏も思ったよりきついんです。この暑さで一日の半分も停電すると、まず、冷蔵庫が役に立たないんです。最初に半日以上停電したとき、冷凍庫の氷が溶けて水浸し、葉物の野菜はぐちゃぐちゃになってしまいました。掃除するの大変でしたよ、臭くって。
洗濯機は電気を使うのであまり使わないようにって前の停電のときから言われてますし、作動している途中で停電になっちゃうと、故障しやすくなるんですよ。うちのはもう2,3回動かなくなりました。
HANA 冷蔵庫と洗濯機が使えないと、日常生活がきついですね。
安成 きついですよ。何度も修理の人を呼ぶのはお金が勿体ないので、私はもうタライみたいなおっきな洗面器でつけ置き洗いしてます。昭和のおばあちゃんみたいです。それに、うちの建物はガス電化の給湯器なので、電気が止まったら、シャワーもバスも使えないんです。ガスコンロもマッチかチャッカマンで着火しないと点きません。もろ昭和です。
あと、うちは4階なんでギリギリ水は出るんですが、高層住宅の5階以上の部屋では、電気が止まるとお水も使えなくなる所があります。なので、8時間から10時間、トイレも流せないんだそうです。勿論、電気が止まったらエレベーターも使えないので、9階や10階で小さなお子さんがいるお宅は本当に大変です。
停電でいちばん大変なのは若いおかあさん
HANA お子さんがいて、電気も水もないというのは、想像を超えますね。
安成 停電のときと警報がなったときはエレベーターに乗るなと言われてるんで、ベビーカーは階段で運ばないといけないですし、おむつの処理したゴミなどもこまめに捨てに行かないといけないですし。うちも、猫砂捨てにゴミ捨て場に何度も行くので、気持ち分かります。実際に、10階の部屋でワンオペ、赤ちゃんと3歳の子どもがいるお母さんは、「脚に良い筋肉ついたわ」って言ってましたよ。
HANA 大変ですね。地味に大変なことがたくさんある感じですね。
安成 そう。そんな感じです。たまにご近所チャットで「どなたか男のひと、10階まで運ぶの手伝ってください」って書いてる方がいますが、男の人は昼間家にいないので、毎回確保できるわけではないみたいです。女性同士で助け合ったりもしますね。あとは、ジェネレーターで悩んでるお母さんもいますね。
HANA ジェネレーターというのは、停電時に使う発電機のことですよね?
安成 そうです。こんなに停電時間が伸びると、発電機の騒音がけっこう神経にこたえるんですよ。
HANA 発電機って、そんなにうるさいんですか?
安成 うるさいと言えばうるさいです。去年の停電は冬で、ずっと窓を閉めてましたし、一度の停電時間は2時間程度だったので気にならなかったんです。今は夏なので、どの家も窓を開けてますから、前より気になるんでしょうね。
ちなみに、ハルキウなどの東部では一般家庭でもエアコンが設置されてることが多いですが、西部は全般に夏が短いので、エアコンを設置している一般家庭はまだ少数派です。高層住宅の一階や二階は夏でも朝は寒いほど涼しいです。うちは4階ですけど、家の中は夏でも涼しいですよ。
発電機は屋外に置くものなので、使ってる当人にはうるさくなくて、通りを歩く人や近隣の住民がうるさく感じるんです。通行人は別に良いですよね、一瞬ですから。住民は、今なら半日その音を聞くわけですから、だんだん負担に感じるようになります。
HANA 長時間だとこたえますか、やはり?
安成 はい。ただ、住んでる場所によって、かなり違いますね。発電機からの距離によってという意味です。
私のところだと、うちの建物の1階がコンビニなので、停電になると発電機を使い始めます。うちは4階なんですが、けっこう響いてきます。窓を開けているとうるさいので、停電になると、窓を閉めます。向かいの棟のテナントも3軒くらい発電機使ってますから、4階でも、気にしだすと耳について眠れない程度にはうるさいです。なので、2階や3階に住んでる人たちにはもっと響いているはずです。
この間から、うちの住民チャット(LINEグループのようなもの)で、階下のコンビニの発電機がうるさくて子供が寝てくれない、コンビニのホットラインに発電機の場所を変えてくれるよう電話してるけど、ご意見ありがとうございますと言われるだけで、一向に改善されないって嘆いてる人がいます。若いお母さんです。他の人にも場所をずらしてもらえるようホットラインに電話してほしいってお願いしてます。
HANA そういうのって対応してもらえるんでしょうか?
安成 難しいでしょうね。まず、他の住民に納得してもらうのも難しいと思います。9階とか10階といった上階の人には発電機の悩みは分からないので、ピンとこないと思うんです。
さっきも言いましたが、上階の人には上階の人の悩みがあって、停電になるとエレベーターが動かないから赤ちゃんのいるお母さんはベビーカーを階段で運ばないといけないですし、水も出ないんですよ。赤ちゃんのいる家で毎日8時間から10時間、電気も水もトイレも使えないのはめっちゃ大変です。彼らにしたら、発電機の音くらい・・・と思えるでしょうね。
チャットでも、「うちも子供がいるけど、発電機がうるさいときは外で過ごすようにしてる」とか「私は家で仕事してるけど、耳につくときはお店で休んだり、ワークプレースで働いたりするわ。対応は期待できないし、何とかしのぐしかないわよ」って慰められていました。私は4階という中間の階に住んでるんで、どちらの気持ちも分かって、つらいんですよね。
計画停電のシステム
HANA 一日どれくらいの時間、停電があるんですか?
安成 この一週間は、8時間から12時間ですね。
HANA 一日8時間から12時間ですか!?全国一斉に停電になるんですか?
安成 いいえ、どの地域でも通りごとにグループ分けされていて、それぞれのグループの停電時間が曜日ごとにズレていくんです。
例えば、Aグループの月曜日は、1時から3時まで停電、3時から5時までは電気が不足していれば停電、安定していれば供給、Bグループは5時から7時までと7時から9時まで、Cグループは9時から11時までと11時から1時まで、という風に。それが午前と午後の両方なので、電気が不足しているときは、一日に8時間停電ということになります。
前回、2022年から2023年にかけての計画停電のときはたいてい一日4時間ずつだったんですが、今回は時間が長くなりました。インフラ攻撃のせいでずっと電気が不足していて、午前と午後の4時間ずつ8時間停電が普通になってます。さらに、昨日、一昨日は、追加の停電が2時間ずつあって、グループによっては10時間、12時間の停電でした。
こういう状況は先週からですけど、もっとひどい所もあったようです。郊外の友人や、キエフの知り合いは、何度か一日中電気がなかったって言ってましたから。
HANA 最近はウクライナも暑いですか?もし暑かったら停電の間大変だろうなと。
安成 めちゃ暑いです。だから、イライラしちゃうんですよね、夏のほうが。去年の停電のときより、イライラが募っています、みんな。そういう意味では、(ロシアの)戦術的に成功してるといえるかもしれません。
停電で政権不信にも拍車
HANA 先ほども言われてましたが、以前にも長期の計画停電があったんですよね。
安成 はい、2022年の後半から2023年の初めにかけて、ありました。ただ、そのときとは心構えが違うんですよね。
HANA どう違うんですか?
安成 あの頃はまだゼレンスィキー政権への信頼感がありましたし、「前線の兵士はもっと大変なんだから、私達も勝利のために我慢しないと」っていう風潮だったので、電気がないことに対して大っぴらに愚痴をいえるムードじゃなかったんですよ。
HANA 今は違うんですか?
安成 今は全然違います。ゼレンスィキー政権の人気は凋落していますし、厭戦感が充満しています。当時流行った「勝利」という言葉、いまはニュアンスが変わってしまいましたね。庶民の人気が高かったザルジュニー総司令官が解任されて、戦争への期待感というか、戦後の明るい未来像が見えなくなりましたので、何とか気を張ってがんばろうっていう気持ちが切れてしまった気がします。
今のゼレンスィキーの人気というのは、ちょうど、政権晩年のゴルバチョフの人気に似ていますね。国内では人気がなく、西側で人気があるという形。
それと、停電を実施しているウクライナ電力に対する不信感も厭戦感を後押ししていますね。ウクライナ電力自体は国有ですが、停電を実施している地方電力は、コロモイスィキー、アフメトウといった悪評高いオリハルヒ(ロシア語のオリガルヒ※)グループの経済的影響下にあると噂されていますので。
※編集追記:オリハルヒ(オリガルヒ)とは、ソビエト連邦崩壊後、旧ソ連圏で経済界を支配する特定の新興富豪や新興財閥をさす。(参照:日本大百科全書)
そもそもウクライナでは、夏に大量に電力消費するのは産業電気で、一般家庭の電力消費量はわずかなんです。私の家では冬の電気代の半分以下です。
HANA 日本と正反対なんですね。
安成 そうですね、夏と冬が正反対です。うちはテレビもエアコンも使いませんので、電灯とパソコンくらいです。あとは冷蔵庫と洗濯機で、それも今は使ってないんですから。なのに、毎日毎日ウクライナ電力から、「電力消費量が超過しましたので、今日は白のゾーンも停電になります」って言われたら、「えー!」ってなるじゃないですか。「産業電力をカットしろよ!彼らは発電機を持ってるんだから!エリート娯楽施設がガンガンエアコンかけてるツケを何で一般庶民が分け合うんだよ!」って。
HANA なるほど。それで、以前と変化して複雑な心境なのですね。
安成 そうです。こういう状況で秩序を維持して社会としてこらえているのは、逆にすごいと思いますよ。
最初の話に戻りますけど、戦争と停電でギスギスしているときでも、顔を合わせれば、「こんにちはДоброго дня!」と挨拶して、「良い日をГарного дня!」「そちらもВам також!」と言って別れます。知らない同士でも、先刻のように、エレベーターで乗り合わせた人やタクシーの運転手さんなどとも言い合いますので、一日に何度もこの挨拶を繰り返します。そういう風習が、戦争の中でも社会が持ちこたえる一助になってるんじゃないかなって思いますね。
HANA それは良いですよね。ぜひ、そうした伝統で乗り切ってほしいです!
安成 そうありたいですね。
(2024年6月30日)
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