所得税の「個人単位課税」が見直される理由
戦後の日本では所得税について「個人単位課税方式」を採用しています。
所得は個人のものであり、だから税金も個人が支払う、と言うものです。
ところが、この個人単位での課税については様々な問題が出てきました。特にそれが顕著になるのは共働き家庭です。
ここで2つの家庭を想定してみましょう。
【家庭A】
夫の所得:800万円
妻の所得:200万円
【家庭B】
夫の所得:500万円
妻の所得:500万円
この場合、現行の制度では家庭Aが支払う所得税は130万6500円です。一方、家庭Bが支払う所得税は114万5000円です。
保守主義では家族を単位に考えます。家族ベースでみるとこの2つの家庭の所得は同じなのに負担する税金が違うのは可笑しい、となる訳です。
では、戦前みたいに「戸主がまとめて所得税を支払う!」と言う方式にするとこの問題は解決するのでしょうか?
「戸主一括納税方式」だと、どちらも所得は1000万円と言うことになり、支払う税額は一緒です。しかし、いざそんな制度を導入すると家庭Aも家庭Bも反対するでしょう。
何故か。それは「大増税」になるからです。
所得1000万円と言うことは、税額は176万4000円となります。家庭Aも家庭Bも数十万円単位の大増税を余儀なくされます。
現実問題、仮にこんな制度を導入すると「戸主」になりそうな方は結婚せずに事実婚を選ぶでしょう。「戸単位」ではなく「世帯単位」で徴税する、と言っても一緒です。今度は事実婚すらせず、誰も結婚なんかしないという状態になってしまいます。そうなると「家庭尊重」のはずが「家庭解体」の結果を生むこととなります。
そこでアメリカやドイツでは夫婦の所得を合算した上で2分し、それぞれに税額計算した上で合計するやり方が考案されています。これを「2分2乗方式」といいます。
これは、家庭Aも家庭Bも夫婦全体の所得を半分で割った額を夫と妻とがそれぞれ支払う、と言うものです。これだと夫婦が支払う所得税はどちらも114万5000円となります。
この制度では家庭Aにとっては減税であり、家庭Bにとってはこれまで通りですから、無難な制度に見えます。
もっとも、「一人で1000万円稼いでいる非モテの独身男性」からは相当な反発が来ることでしょう。ただ、男女関係なく高所得で独身の方の多くは自分で独身を選んでいるケースが多いため、ある程度の税負担は「必要経費」と捉えるかもしれません。
また、こう考えることも出来ます。複数人が家族として暮らすことには独身の場合よりも負担が大きいから、その分税負担が下がるのはむしろ公平である、と言う考えです。
そう考えると「2分2乗方式」でもまだ不十分です。フランスで採用されているような「N分N乗方式」を使った方が良いでしょう。
「N分N乗方式」は夫婦だけでなく子供も含めた家族全員の数で所得を割り、それに税率を掛けると言うものです。
日本の場合は高齢者の親の介護の問題もありますから、三世代戸籍も解禁した上で全家族での「N分N乗方式」をするとかなり効果的になるのではないでしょうか?
しかしながら、こうした制度の問題点は、家族関係が破綻している場合にどうするのか、と言うことにあるでしょう。
現行法でも「離婚」には規制がありますが、親子関係については「分籍」がほぼ任意に行えるので、婚姻制度選択制を導入して「夫婦別籍」も可能にするとこうした問題も解決は可能かと思います。
いずれにせよ「N分N乗方式」は事実上の減税になりますし、家制度の復活にも繋がりますから、是非とも実現させたいと考えます。