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「名字は家の名前では無い」論が見落としている視点

 よく「選択的夫婦別姓」と言う言葉が明確な定義もなく用いられていますが、現在論争となっているのは、あくまでも「戸籍婚における選択的夫婦別氏(同一戸籍同氏原則の破壊)」の是非です。

 良く誤解(というよりも、意図的に曲解)されていますが、「戸籍婚における選択的夫婦別氏」反対派は決して「夫婦の名字が別々なのがオカシイ!」と言っている訳では、ありません

 私は立憲民主党の党員ですが、立憲民主党の基本政策にはこうあります。

選択的夫婦別姓制度の導入と、女性のみに存在する再婚禁止期間の撤廃を進めるとともに、困難に直面する女性を総合的に支援する法制度の整備に取り組みます。

 これを根拠に、ごく一部には「戸籍婚における選択的夫婦別氏」に反対する私の主張が「立憲民主党の綱領に反する!」と言っている人もいるようです。

 まず「基本政策は綱領ではない」訳ですし、現に立憲民主党には地方議員レベルでは「戸籍婚における選択的夫婦別氏」反対派もいる訳ですから、これが立憲民主党の綱領に反する訳では無いことは明白ですが、それは置いておくにしても、「基本政策との整合性」を疑問視される方もいるのでしょう。

 しかしながら、私たちは別に「夫婦で名字が違うこと」そのものを問題視している訳では、無いのです。

 現に国際結婚では夫婦別氏ですが、それに反対している人はいません。もしもいたら教えてください。少なくとも、政治家レベルでは皆無でしょう。

 立憲民主党の基本政策は個別の法案への賛否を党員に強いるものでは、ありません。一般に民主党系の政党は個別の法案に反対しただけで除名するようなことは無く、それは立憲民主党も同じであるはずです。

 私は党の基本政策に反対しているのではなく、あくまでも党の基本政策のどこにも書いていない「同一戸籍同氏原則の破壊」に反対しているのだ、ということは強調させていただきます。

 律令国家においては「夫婦別戸籍」も存在しましたし、「夫婦別戸籍」の状態であれば名字が別々でも当然問題ありません。それが私の主張する「婚姻制度選択制」です。

 さて、それではどうして「同一戸籍同氏の原則」に保守派が拘るのか、ですが、それは簡単です。

 名字は家の名前(family name)です。個人の名前では、ありません。

 家制度が嫌な方のために「別籍型婚姻」を選べる「婚姻制度選択制」を私は提案しています。

 私は同時に三世代戸籍の解禁も主張していますが、理論上は現行法でも「一人、一家」が可能ですから、夫と妻がそれぞれ一人だけの戸籍であったとしても、それは「一人だけいる家の名前」が名字だと言うことです。つまり、婚姻制度選択制も「名字は家の名前」ということが前提です。

 が、「戸籍婚における選択的夫婦別氏」推進派は「名字は個人の名前」であると考えているようなんですよね。実際、サイボウズの青野社長はこう言っています。

 まず、確かに現行法ではそう解釈できます。そして、そのような解釈を確定させてしまうからこそ、保守派は「選択的夫婦別氏」に反対しているのだ、ということをどうやら理解されていないようです。

 もしも「名字は個人の名前」であるという価値観を徹底すると、『虚構新聞』のこのような記事も「虚構」ではなく「リアル」になってしまいます。

 少し背理法による思考実験をしてみましょう。

《前提》名字は個人の名前である。

《仮定》名字を全ての国民が名乗るべきである。

 さて、この「前提」の下で全ての国民が名字を名乗るべきと言う「仮定」は成立するでしょうか?

 《仮定》より、政府は国民に対して「個人の名前」として名字を名乗らせるよう強制するべきである。
 しかし、名字にアイデンティティを持たない国民もいるから、これは《前提》に矛盾する。
 従って、《仮定》は間違いである。

 はい、「名字は個人の名前」を前提にすると、簡単に否定されてしまいましたね。

 そうです、「全国民が名字を名乗る」と言う状態は「名字が個人の名前である」と言う思想からは、決して肯定できないのです。

 いや、別に「それでもいいんだ!」と言うのは一つの思想ですよ?

 名字が無い国は沢山ありますし、中国や韓国では名字ではなく姓(clan name)を使っていますし、名字があっても無くてもいいような国もあるそうですし、それが良いんだ!と言うのは、自由です。

 逆に言うと、そこまで踏み込んだ議論をせずに、ただなんとなくの主張で「夫婦同氏は女性差別だ!」と言うデマを平気で言ったりすることは、問題です。

 女性が改氏したく無ければ男性側が改氏すればよい話です。女性差別なのはあくまでも「男性の改氏が少ないこと」です。

 亡き祖父は祖母の名字に改氏しましたが、昭和の時代にも妻の名字に改氏する夫はいたのに、令和の今になって「妻の名字に改氏したくない!『戸籍婚における夫婦別氏』ならば許容できる!」と言う男がいたら、彼は家名よりも男尊女卑な感情を優先しているだけの我儘な男です(家名を維持したいのであれば「同一戸籍同氏の原則」を維持するはずですからね)。そんな男の為に法律を変える必要など、ありません。

 言うまでもないことですが、私は「名字維持派」です。それも、名字が個人名よりも先に来る我が国の風習を誇りに思っています。

 海外に住んでいた時も、名前を聞かれると「トモキ・ヒノ」では無く「ヒノ・トモキ」と答えていました。家の名前を個人の名前よりも先に持ってくるのは我が国の麗しい風習であると考えています。

 ただ、無論、私と違う価値観の方がいても良いのです。様々な価値観を正面からぶつけ合って話し合い、最適解を求めていくのが政治の営みであり、相手の主張を理解しようともせずにレッテルを貼ることは慎まなければなりません。

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