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善神捨国と神祇不拝について

 神仏習合の伝統のある日本ではあるが、浄土真宗各派や日蓮宗系の内日興門流や不受不施派等の宗派は、「神祇不拝」と言う教義を掲げていることで知られる。
 なお、念の為に言うが、日蓮宗系の教団の多くはむしろ神社神道に好意的であり、日興門流や不受不施派と言った一部の勢力だけが、神祇不拝を掲げている。もっとも、ややこしいことに日蓮宗の中にも日興門流の派閥があり、彼らは今でも神祇不拝が教義である(守っているかは知らないが。浄土真宗の門徒も多くは神社に参拝している。)。
 これは神社への参拝を拒否するということであり、それぞれ親鸞や日蓮の言葉を論拠としている。
 ここで重要なのは、神祇への「崇拝」と「崇敬」とは全く異なる、ということである。
 仏教における崇拝の対象は、神祇ではなく仏である。そもそも論として、神道では本来特定の対象を「崇拝」することはなく、だからこそ仏教と神道とは習合できたのである。
 よく神道をキリスト教との対比で「多神教」と表現するものがいる。しかし、キリスト教やイスラム教のように「唯一神を『崇拝』する宗教」を「一神教」と定義するならば、その逆である「多神教」とは「多数の神を『崇拝』する宗教」と定義されなければならず、従って崇拝の対象をもたない神道は、この意味で多神教ではない。
 元々「多神教」(polytheism)とは古代ギリシャの信仰やヒンドゥー教を指して用いられていた言葉である。このことは何度も言っているが、重要な点なので再三述べることにしている。
 さて、仏教は本来の意味での「多神教」には否定的である。ヒンドゥー教の問題点を指摘したのが、他ならぬお釈迦様であるからだ。
 しかし、仏教は「無神論」では、無い。神々を「崇拝」はしないだけで、そういう人間以上の力を持った存在がいることは、認めている。
 仏教では神々は「天部」という。もっとも、この天部というのは「仏教に好意的な」神々を指す言葉であって、仏教と対立している神々は「鬼神」等と呼ばれる。
 いずれにせよ、神々を仏教では「崇拝」はしないし、神道側もそれを求めない。神社神道では神々は「崇敬」の対象である。
 もっとも、実際には神社で何やら「偶像崇拝」をしている怪しからん“信徒”も存在し、それは仏教では古来問題になってきた。
 さらに「偶像崇拝」と「政治権力」とが結びつくと、社会的な問題を生む。中世の日本では僧侶たちが率先して、神輿を担いで朝廷に「嗷訴」を繰り返した。最初はお経を手に取って朝廷に抗議していた僧侶たちが、「神輿を担いだ方が効果的だ」ということに気付いて以来、積極的に「偶像崇拝」をしている権力者を利用するようになったのだ。
 無論、真面目なお坊さんは「そんな偶像崇拝はカルトですよ」と窘める。さらにそれを純粋に「偶像崇拝なんかするものではない!仏教の信仰を貫け!」となったのが、日蓮聖人や親鸞上人である。
 神社の神々に御利益を求めて崇拝するのは、神道の本来の教義に反するのは勿論、仏教の観点から言うと「悟り」からもっとも遠い行為である。況してや権力者や一部僧侶が神社を利用して他者を恫喝するのは、仏教に反する行為である。
 ただ、親鸞と日蓮とでは表現にやや差がある。日蓮は「そもそも善神は国を捨てた」と言っているからだ。
 『立正安国論』で日蓮聖人はこう記している。
「世皆正に背き人悉く悪に帰す、故に善神は国を捨てて相去り聖人は所を辞して還りたまわず、是れを以て魔来り鬼来り災起り難起る」
 これを根拠に、日蓮正宗や創価学会は「神社には善神はいない、善神は既に日本を捨てて去ったのであり、いま日本の神社にいるのは悪魔や鬼である」等と主張している。
 だが、私は『立正安国論』の「故に」の一語に注目したい。
 これは、あくまでも「世皆正に背き人悉く悪に帰す」場合の話である。
 創価学会の公式見解が正しければ、今の日本人の約三分の一が創価学会の信者らしいが(ほんまかいな、とは思うがここでは話を合わせておこう)、そんなに多くの人が日蓮聖人の教えを信じていても「正に背き人悉く悪に帰す」状態と言えるのか、という話だ(まぁ「公明党悉く岸田文雄に帰す」状態のことを「人悉く悪に帰す」と言っているならば納得だが)。
 正しい信仰を貫けば、むしろ諸天善神が必ず守護してくださるはずである。そう言う意味のことは親鸞上人も日蓮聖人も述べている。
 神祇不拝というのが正しいかどうかは、その時の政治の状況等も含めて総合的に判断されるべきである。
 神社の本質は祭祀施設であり、神社への参拝が特定の宗教の教義への支持とはならない。そのような状況において、未だに神祇不拝を貫くのが適当であるとは言えないであろう。

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HINO
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