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「小選挙区制悪玉論」は自民・公明・維新を利する主張

 「小選挙区制悪玉論」とも言うべき主張があります。これは主に自称野党支持者の中で流行している主張ですが、実際には自民党政権長期化に貢献する危険な主張です。
 彼らの主張は簡単に言うと「小選挙区制比例代表並立制」を「完全比例代表制」にするべきである、という主張です。理由は「小選挙区制は悪だから」「小選挙区制のせいで自民党が勝っている」という、事実誤認も甚だしいものです。
 しかし、もしも今の日本で完全比例代表制を導入すると永遠に政権交代は起きなくなります。「小選挙区制悪玉論」は自民党政権永続のための主張と言わざるを得ません。

  • 注意:これはあくまでも国政における主張です。地方選挙においては「中選挙区比例代表連立制」が妥当であると考えていますが、別述します。

「相対多数でも政権を握れる」方が政権交代しやすい

 超簡単な話をします。
 「相対多数でも政権を握れる」制度と「絶対多数で無いと政権を握れない」制度、どちらが政権交代をしやすいでしょうか?
 言うまでも無く前者ですよね?国民の絶対多数の支持を得ることなど、今の時代ほぼ不可能に近いことです。
 よく「自民党は小選挙区制のせいで圧勝している!」という方がいます。
 確かに2021年の総選挙の比例代表における自民党の得票率は約35%、公明党と合わせても約47%に過ぎません。
 しかし、よく考えてみてください。では完全比例代表制だと政権交代は出来たのでしょうか?
 無論、答えは「無理」です。
 比例代表における立憲民主党・国民民主党・社会民主党の全得票数を足しても約26%で自民党未満です。
 野党共闘に参加した日本共産党とれいわ新選組とを足しても約37%です。これでは過半数を握ることはできません。
 無論、「野党共闘+日本維新の会」だと約51%で完全比例代表制でも政権交代可能です。
 しかし、現実問題として共産党と維新の会とが一緒に連立政権を樹立することは、不可能です。そのようなシチュエーションになる前に、自民党は維新の会と連立を組んでいるでしょう。

過去の総選挙でも「自公+維新」で過半数に

 事実、2012年や2014年、2017年の総選挙でも自民・公明は比例代表では過半数を握れていませんが、維新を加えると過半数を超えています。
 無論、2012年や2014年の維新の会は「野党側」です。今みたいに「ゆ党」ではありません。
 が、それでも「共産党を含む連立政権か、自民党との連立か」と問われたならば、維新の会は自民党を選んだことでしょう。というか、共産党の方が自民党以上に維新の会を敵視していたので、「維新から共産まで全野党連立で政権交代!」と言うのは夢物語に過ぎません。
 さらに言うと、維新の会は小選挙区ではあまり地盤が強くありません。つまり、完全比例代表制にした方が維新の会は有利なのです。
 これは自民党と連立を組んでいる公明党も一緒です。ここ10年、公明党は比例代表で小選挙区の倍以上の議席を得ています。
 逆に民主党系は比例代表よりも小選挙区で強い政党です。2021年の総選挙でも立憲民主党と国民民主党の双方が比例代表よりも小選挙区の方で多く議席を獲得しています。
 2012年と2017年は民主党系の議席が激減していましたが、これは民主党系の分裂により自滅したからです。実は比例代表は野党ではなく与党やゆ党の議席を増やしているのです。
 完全比例代表制だと政権交代は起きません。

2009年も「小選挙区による勝利」だった

 次に民主党が圧勝した2009年のデータを見ましょう。
 これも比例代表における民主党の得票率は42.41%です。連立を組んだ国民新党や社会民主党、新党日本、新党大地を合わせても49.78%でギリギリ過半数に届かないのです。
 逆に小選挙区でこの5党を足すと50.73%で過半数を超えています。
 つまり、民主党は小選挙区によって政権交代を実現したのです。完全比例代表制では過半数を握れていません。
 従って、もしも完全比例代表制で政権を握りたいのであれば2009年をはるかに上回る大圧勝をする必要があります。それが絵空事であることは言うまでもありませんから、完全比例代表制信者は実質的には「政権交代は出来なくてもいい!」と言っているのと一緒です。
 当たり前のことですが、相対多数すら取れない勢力が絶対多数を取れるはずがありません
 相対多数で政権を握れないのにどうして絶対多数で無いと政権を握れない制度の導入をしようとしているのでしょうか?ドМなのか、それとも自民党のスパイなのか。

そもそも完全比例代表制は構造的欠陥がある

 また完全比例代表制には上記のような現実的な問題のみならず、構造的な欠陥があります。
 比例代表制にも拘束名簿式と非拘束名簿式の2種類があります。
 拘束名簿式の場合、有権者は候補者ではなく政党に投票します。
 まず、この時点で大きな問題があります。「人ではなく党」で選ばれるということは、どんなクズでも政党が公認すれば通る可能性がある、と言う事です。
 「いや、クズを公認するような政党には投票しない!」という貴方、ではもしもその政党が貴方がどうしても当選してほしいと思う候補者をも公認していたならば、どうでしょうか?
 いずれにせよ、政治家は所属している政党も大切ですが、本人の人柄や政策もとても重要な要素です。皆様も選挙の時に所属政党だけを見て投票している訳では無いでしょう(その証拠に比例代表と小選挙区の得票率は一致していません)。
 また、そういう理念的な問題だけではなく、現実的な問題として拘束名簿式であれば名簿の上位に掲載された政党執行部のメンバーは半永久的に落選しないという怖ろしい結末が待っている、ということもあります。
 次に非拘束名簿式の場合を見てみましょう。
 非拘束名簿式とは参議院の比例代表のように、有権者が候補者の名前も政党の名前もどちらもかける仕組みです。
 これは知名度で勝る業界団体の組織内候補やタレント候補が超有利になる制度です。
 このように完全比例代表制には構造的な欠陥があります。完全比例代表制信者はこうした欠陥にも目を瞑っているのです。

「比例復活」よりも「比例単独」の方が問題

 また現行の小選挙区比例代表制を非難する人の中には、しばしば「比例復活はおかしい!」と中二病患者のように騒ぎまくる方がいます。
 比例復活とは、小選挙区で一度落選した候補者が比例代表で当選する、と言う事です。
 比例復活を否定する人の主張は「一度小選挙区で落選したのが有権者の意思なのに、比例代表で当選するのはオカシイ!」ということですが、それならば一度落選するどころか一度も候補者名では有権者の審判を受けていないのに当選する比例単独の方が遥かに問題であるということになりませんか?
 まぁ、比例復活を攻撃する中二病患者の皆様は、そこまで深く考えていないのでしょう。脳味噌を使わずに声だけ大きく叫ぶのですから、困ったものです。
 仮に比例復活を廃止すると、昨年の総選挙では例えば小沢一郎先生が落選して佐野利恵先生が当選していたことになりますね。うん?佐野先生が当選するならまぁいいか・・・と言いたいところですが、小選挙区で公認漏れした候補者が選挙での審判を受けずに当選するのはやはり国民が本当に望んでいるとは、思えません。
 ちなみに、比例復活禁止だと昨年の総選挙の近畿比例ブロックではれいわ新選組の当選者が売買春肯定論者の八幡愛氏になっていた訳ですが、小選挙区制悪玉論者も多いれいわ新選組の支持者の皆様はそれでよいのでしょうか?
(※共闘野党であっても、問題あることをしている時は批判を加えます。意見が違うからこそ、別政党なのですから。)
 まぁ、確かに売買春肯定論者が小選挙区で当選は、まず無理ですから、買春男の権利を守りたい方はどうぞ、比例復活禁止や小選挙区廃止を唱えてください。

「小選挙区比例代表連立制」を提唱する

 選挙制度改革は逆に比例単独で「小選挙区公認漏れ候補者」や「売買春肯定論者」が有権者の審判を受けずに当選するようなことを防ぐ方向性で行われるべきです。言うまでも無く、その真逆の方向である完全比例代表制など、もってのほかです。
 そのためには、まず比例単独立候補をすべて廃止し、さらには比例復活についても要件を厳しくするべきです。「小選挙区で次点か惜敗率70%以上」を要件にするべきでしょう。(ついでに言うと、一票の格差是正の観点からも比例復活の際の順位は現行の惜敗率ではなく得票数にするべきと考えます。)
 また比例代表の得票についても今だと「人よりも党」の仕組みになってしまいます。そうでは無くて「小選挙区における公認候補の得票数の総計」を比例代表の得票数と見做す制度が必要でしょう。私はこれを「小選挙区比例代表連立制」と呼んでいます。
 なお、この制度は公明党が提唱している「小選挙区比例代表連用制」とは全く別物です。
 この方式、かつて小沢一郎先生らが「一票制」として導入を訴えていたものです。ただ今では一票制が一般的では無いので、国民民主党の友達であるHN松竹梅さんが提唱した「読み替え式」という言葉の方がいいでしょう。
 もっとも単純な一票制の導入だと大政党が過剰に有利になるので、ボルタ式の導入等も考慮されるべきです。
 現在私が考えているのは有権者が「一位の候補者に三票、二位の候補者に二票、三位の候補者に一票」を投じることのできる方式です。これだと有権者は合計六票を投じるので、余計に一票制よりも読み替え式の方が適切ですね。
 この制度だと、例えば候補者一本化をせずに野党共闘をすることも可能となります。
 このように選挙制度改革はむしろ比例代表制の欠点を克服する方向性で行うべきであって、完全比例代表制の導入では問題は解決しません。

ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。 拙い記事ではありますが、宜しければサポートをよろしくお願いします。 いただいたサポートは「日本SRGM連盟」「日本アニマルライツ連盟」の運営や「生命尊重の社会実現」のための活動費とさせていただきます。