同性婚訴訟札幌地裁判決は「違憲状態判決」(法令合憲)――婚姻の本質を「性愛目的」と明記
昨日、マスコミが「同性婚不受理に違憲判決!」と一斉に報道しました。
しかし、今回の判決は「違憲判決」ではありません。正確な判決の要旨を紹介させていただきます。
『日本国憲法』の「3つの条文」の解釈が争点に
まず、今回の裁判では『日本国憲法』の「3つの条文」の解釈が争点となりました。
1.『日本国憲法』第24条1項の解釈
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2.『日本国憲法』第13条の解釈
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
3.『日本国憲法』第14条1項の解釈
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
「同性間での法律婚を認めないこと」が以上の3つの条文に対して合憲なのか?が、争点です。
なお、あくまでも「法律婚」であることがポイントです。このことを念頭に、今から判決文を解説します。
同性カップルに現行の「婚姻」は保障されて“いない”
ポイントの一つ目は、同性カップルに現行の「法律婚」の権利は保障されていないということです。
まず、判決は婚姻制度の在り方について立法府の広範囲での裁量を認めています。
憲法第24条は立法府の裁量の上限を示したものではありますが、そこで保障されているのはあくまでも異性カップルの婚姻する権利である、としています。
憲法13条も立法府の裁量を重視した規定であると判断しています。
また、憲法14条についても婚姻制度の在り方については「立法府の裁量判断を待たなければならない」と解釈し、直ちに同性カップルの婚姻を認める判決ではありません。
婚姻の本質が「肉体的結合」(!)であると明記
今回の判決は、まず婚姻の本質を次のように定義しました。
両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むこと
ここで言う「精神的結合」が恋愛関係に限定されるのかは直ちに判断はできないものの、「肉体的結合」が性愛関係を指すことは確実です。
従って、今回の判決は異性愛カップルの性愛に基づく婚姻制度を前提に判断していることになります。
これは「夫婦に性行為の義務がある」としたこれまでの判例の踏襲です。
その上で、次のように判断しています。
異性愛と同性愛の差異ば性的指向の違いのみである
そのことを前提とし、同性愛のカップルにおいても
婚姻の本質を伴った共同生活を営むことができると解される。
と結論付けました。
ただし、ここで言う「婚姻の本質」が「肉体的結合を目的」とするものである以上、ゲイやレズビアン、バイセクシャルのカップルの「婚姻の本質を伴った共同生活を営む」権利は保障されても、ホモロマンティック・アセクシャルやバイロマンティック・アセクシャルの同様の権利は、保障されていないのです。
いうまでもなく、ヘテロロマンティック・アセクシャルのカップルについても同様です。
今回の判決は他人に性愛を抱かないアセクシャルを含むAceスペクトラムの権利を引き続き無視していると解釈できます。
現行は「違憲状態」ではあるが「法令合憲」
そして、今回の判決は同性愛者にも(アセクシャル等の同性カップルは含まれません)が婚姻できない現行の制度自体は合憲としつつ、異性愛者の婚姻とは異なる制度が必要であるとしています。
同性間であるがゆえに必然的に異性間の婚姻や家族に関する制度と全く同じ制度とはならない(全く同じ制度にはできない)
そして、立法府の不作為により結果的に『日本国憲法』第14条に違反する状態になっている、とするのです。
結果、次のような現状を「違憲状態」であるとしています。
同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても、その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず、(略)上記の限度で憲法 14条 1項に違反する
そして、立法府の不作為については次のようにまとめています。
同性愛者のカップルに対し、婚姻によって生じる法的効果を付与する法的手段は、多種多様に考えられるところ
同性婚に関する制度がないことの合憲性についての司法判断が示されたことがなかったことにも照らせば,本件規定が憲法 14条 1項に反する状態に至っていたことについて, 国会において直ちに認識することは容易ではなかったといわざるを得ない。
国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。
これは一票の格差訴訟でも見られる、典型的な「違憲状態」判決です。法理上は「法令合憲」判決の一種です。
「性的指向と恋愛指向」を混同して定義
なお、今回の判決は次のように、性的指向と恋愛指向の混同を行っているという重大な問題があります。
性的指向とは, 人が情緒的,感情的,性的な意味で,人に対して魅力を感じることであり, このような恋愛・性愛の対象が異性に対して向くことが異性愛, 同性に対して向くことが同性愛である
性的指向と恋愛指向の混同が人権侵害であることは、日本SRGM連盟が再三指摘しているところであり、裁判所の人権意識の低さが伺われます。
もっとも、既に述べたように今回の判決はあくまで従来の司法の判断を大枠で継承したものですから、裁判官個人の責任であるとは言えません。
結果的に「何も変わらない」判決
以上の点を纏めると、今回の判決では何も変わらない、ということです。
一票の格差問題も、裁判所が何度「違憲状態」判決を下したところで、殆ど何も変わりませんでした。
また、憲法14条の拡大解釈の是非も今後論争になると思われます。
今回の判決は議論のきっかけになるでしょうが、現状を変更する性格のものではありません。
「婚姻制度は一つでよいのか?」と言う問題提起
とは言え、同性カップルに異性カップルとは別に婚姻制度を用意する選択肢を提示したことは、評価されます。
台湾でも、同性カップルに異性カップルと全く同じ制度を適用することは住民投票で否定されたため、新たな制度を作った経緯があります。
そして、こうした婚姻制度を複数認める議論が活発になると、今回の判決も含めて司法が大前提としている「婚姻の本質」は「精神的及び肉体的結合が目的」という概念も見直される可能性が出てきます。
性愛が婚姻の目的と言うのは、どう考えても歪んだ考えです。
今の時代、婚姻の目的はカップルによって違うでしょう。
「家の存続が目的」という昔ながらの考えを持たれている方もいるはずですし、「ルームシェアの延長線上」と言う考えの人や「友情結婚」を求める人まで、千差万別です。
当然、「精神的結合」を求めないAroスペクトラムのカップルや「肉体的結合」を求めないAceスペクトラムのカップルもいるはずです。
こうしたことを考えると、婚姻制度は一つで無くても良いという前提に立った今回の判決は、むしろ今回の判決の枠組みすらも乗り越える議論になってくれるのではないか、と言う期待が出来ます。
そもそも私は「夫婦同氏」を求めるカップルと「夫婦別氏」を求めるカップルには、別々の法律婚の制度を用意するべきであると考えていますが、そうした議論も今回の判決を機に活性化されることを期待したいと考えます。
【出典】
本記事の画像および本文において引用した判決文は、全て札幌地裁の「平 成 31年(ワ)第 26 7号」事件に関する判決です。
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。 拙い記事ではありますが、宜しければサポートをよろしくお願いします。 いただいたサポートは「日本SRGM連盟」「日本アニマルライツ連盟」の運営や「生命尊重の社会実現」のための活動費とさせていただきます。